第164話 戦いの火蓋は切られた
~クロヴィス城王国 周辺~
オレ達7人は、空魔法による転移でクロヴィス王国の周辺まで訪れていた。近くの高所から見える城下町の様子は寂しいモノだった。魔族に国を乗っ取られ、街を出歩く獣人たちは一人もいなかった。
「やっぱり出歩いている人は誰もいないみたいだ。」
「街の人たちは別の所にいるのか、それとも家に引きこもっているのか...」
進がみんなに街の様子を説明する。
「前はもっと活気のある街だったんだが、やはりみんな魔族が横行して不安に感じているのだろうな...!」
リオンは何処か寂しそうに話した。どうにかして魔王軍の手からクロヴィスを取り戻したいものだが、真正面から攻めるのが良いのか、リオンに聞いてみた。
「それなら、簡単に城内入ることができる秘密の抜け穴があるぞ!」
どうやら、魔王軍に攻められた時、リオンが城から抜け出すために使った抜け道があるらしい。
「なら二手に分かれて、攻めるってのはどうだ?」
オレはみんなにこう提案した。一方が街でモレク直属の部下、ジャハンナムたちや他の魔族たちを戦っている間に手薄になっている城内へもう一方が攻めて、モレクを討ち取るという作戦だ。城への潜入は少数がいいと思ったので、オレとリオンで行い、それ以外は街でジャハンナムたちと戦う。シンプルだが、真正面から全員で行くよりはいいとだろう。
「ススム殿、二手に分かれるのは良い作戦だと思いますが、私は姫様の側を離れたくはございません!」
「トーマよ、お前の気持ちは嬉しいが、進の強さはお主も知っていよう?」
「一緒にいた方が私としても助かる!」
「ススム殿の強さは私も存じておりますが...心配なものは心配なのです!」
トーマはこの作戦に不満があるようだった。リオンはクロヴィスのお姫様だ。トーマがその身を心配する気持ちも分かる。しかし、リオンとトーマはどちらもこの国の人だ。俺たちよりも街中には詳しい。リオンによるとその秘密の抜け道もクロヴィスの王族しか知らないらしい。だとしたらリオンは城内に侵入する方へ加わってもらわないといけなくなる。
トーマさんもこちら側に加わるとクロヴィスの城下町でジャハンナムと戦う方が街中の地理感を持たなくなってしまう。それは何かと都合が悪い可能性が高い。
「オレとしては城下町で戦うのにクロヴィス側の信頼できる人が欠かせないと考えています!」
「トーマさんはそれにふさわしい人です!」
「どうか、オレの方からもお願いしますッ!」
「ススム殿がそこまで言うのであれば、仕方ないか...!」
「ただ、姫様の身は絶対にお守りしてください!」
「私からのお願いでございますッ!」
「任せてください!なんて言ったって、オレは天才 天童進です!」
「絶対にリオンのことは守りますッ!!」
オレは頭を下げお願いして、どうにかトーマさんに承諾してもらった。
こうして城内潜入するグループと城下町で敵の目を引き付けるグループに分かれて行動することとなった。この時オレは、オレ一人で六魔将モレクと対峙することをイメージしていた。恐らく他の仲間が戦えば、死ぬ可能性もある。仲間には誰一人死んで欲しくないと思う進は何とかして自分一人で乗り切って見せようと決意するのであった。
敵も高位の魔族、恐らくこちらが城下町の近辺まで迫っていることには気が付いているだろう。奴らの一人が使用した空魔法による転移が奴らの魔力検知に引っかかっているハズだから。本来なら大きな魔力を伴わない車での移動が望ましかった。しかし、早く行かなければジルダ王女は殺されてしまうかもしれない。悠長にはしていられない。
「みんな、死なないでくれ!」
「自分の命を最優先にしてくれて構わないから!」
「おう、任せろッ!」
新が元気よく返事をして、他のみんなも軽く首を縦に振るのであった。
こうして、オレとリオンはその抜け穴へと行くのであった。オレとリオンはクロヴィス城から少し離れたところにある森の中へと来ていた。
「進、アレだ!あの井戸から城の中へと行ける!」
リオンが指差した先には、古ぼけた井戸があった。どうやらここから城内へと侵入できるらしい。見た感じ普通の井戸だ。そこは暗くてよく見えないが、水もちゃんと入っているようだった。
「ここから入るのか?」
オレはそうリオンに尋ねると、リオンの身体は少し震えていた。
「どうしたリオン?怖いのか?」
オレはそうリオンに尋ねた。
「いや、ここでガリア達に捕まって奴隷にされそうになったんだ...!それを思い出してな!」
「いや、アレは私にとってつらい出来事だった...」
少し無理をして笑顔を作るリオンだった。本当にガリア達に捕まってから辛いことがあったのだろう。オレはそれを雰囲気から察する。
「大丈夫だ、オレが絶対に守るッ!」
「どんな敵が来ようとも、オレは仲間を守って見せる!」
オレは震えるリオンの肩を優しくポンと叩く。すると、少しずつリオンの身体の震えも止まり始めた。
「それもそうだな、ガリア達はもういない!それに過去は過去だ!」
「これからのことを考えることにしよう!」
リオンはそう言い、勢いよく井戸に吊るされたロープを伝って下へと降りて行った。どうやらもう大丈夫なようだ。
――――一方、バルバスを取り戻したジャハンナムはというと...
~クロヴィス城 城内応接室~
「はっ、はぁ~~~~!!」
ルルドの街からバルバスを連れて、何とか転移してきたヴィクトルとベリヤは相当疲労を感じており、城内へと転移すると同時にその場へへたり込んだ。ドサッと拘束具に包まれたバルバスを雑に床に投げた。
「グヴぉ!!」
バルバスの方から鈍い声が聞こえる。
「どうした!!そんなに急いでッ!」
ヴィクトルとベリヤを心配するようにメルクロフは言った。ジャハンナムのメンバーは全員揃ったのであった。
「それってまさかバルバスじゃない?」
「モロネェ!何とかバルバスを救出してきたよ!!」
ヴィクトルが困惑するモロトルフに嬉しそうに報告した。
「本当か!ベリヤ!?」
そこには驚くメルクロフがいた。普段は冷静に指令を全うするため冷たい奴だと誤解されがちだが、実は仲間想いな一面も持つ。それ故、メルクロフはこの中で誰よりもバルバスが人質になったことを心配していたのだ。
「ウヴぉヴぉヴぉ!」
必死に何か言いたそうなバルバス。
「バルバスの猿轡を取ってやれ!」
メルクロフはヴィクトルにそう命令し、バルバスから猿轡を取らせた。
「ブゥハァァ!!」
「ハァハァ死ぬかと思った...!?」
ずっと喋ることを封じられていたバルバスが第一声だった。
「バルバス!無事だったようだな!」
「ああ、散々な目に遭ったぜww」
「次にあの人間に会ったら、絶対にギッタギッタにしてやるww」
バキバキと両手を鳴らすバルバスだった。どうやらあの人間とは新のことを指すようだ。
バルバスを取り返したことで安堵する一同だったが、ベリヤは巨大な魔力を検知した。それは自分の魔法と全く同じ空魔法だということにはすぐに気が付いた。
「ま、まさかあの人間たちにも空魔法を使える人間がいるのでござるか...?」
「ん?どういうことベリヤン?」
いきなり震えだすベリヤに堪らずヴィクトルが質問した。
「あの人間たちでござる!間違いないでござる!!」
「拙者と同じ魔法で、この城の近くまで来ているでござるよ!!」
その瞬間、数秒前まで息巻いていたバルバスの表情は青ざめ、血の気がサァーと引いた。
"俺から逃げれられると思ってねぇよな!!"
新のこの発言がバルバスの脳裏をよぎった。それはまるで新が自分の耳元で囁いたかのようだった。
「ヒィ―――ッ!!!ニンゲンコワイ!ニンゲンコワイ!ニンゲンコワイ!ニンゲンコワイ!ニンゲンコワイ!ニンゲンコワイ!ニンゲンコワイ!ニンゲンコワイ!ニンゲンコワイ!ニンゲンコワイ!ニンゲンコワイ!ニンゲンコワイ!ニンゲンコワイ!ニンゲンコワイ!ニンゲンコワイ!ニンゲンコワイ!ニンゲンコワイ!」
バルバスは身体を小さく丸くし、その場に俯せになった。そして、うわ言のように新に対する恐怖心を漏らしていたのである。それは誰が見ても戦闘可能とはいえるものではなかった。
「バルバスに今回の戦いはムリか...」
「よし、皆の者!私と共に人間たちを迎え撃つぞ!!」
メルクロフは、ジャハンナムのメンバーに号令を出した。
「キル!お前はどうする?一緒に来るか?」
メルクロフはその場にいて一言も発言しないキルに聞いた。
「私はここに残って、モレク様を守護するの!!」
キルは何か予感していたのか、他のジャハンナムの4人とは別行動をすることを希望した。




