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第160話 天才 天童 進は静かに怒る


~ルルドの街~

 

 ルルドの街の町長の館の執務室のソファーにどっしりと座る魔族がいた。この街の町長悪魔侯爵ゲオルギだ。

 「あひゃひゃひゃひゃ...!!」

 「う~ん楽しいですねぇ...!!」

 「力ある者を意のままに操って、一方的に虐殺を行うのは...!」

 ゲオルギは、年代物のワインを飲みながら、進とマリーの戦いを進の視界を通して眺めていた。

 

 「そろそろ、人形も戻ってくる時間ですかね...」

 ゲオルギはそう呟き、ワイングラスを机に置いた。

 

 ―――――


 マリーが催眠状態の進と闘っている一方、唯我新は催眠を仕掛けた人形の居場所を見つけ、猛スピードで迫っていた。

 

 その存在を捕えた新は、街の家々の屋根を踏み台にし、人形の近くまで来ていた。

 

 「ふ~んふっふ~ん♪私は可愛い女の子~♪」

 「今度は何して遊ぼっかな~♪」

 「かくれんぼ?鬼ごっこ?」

 「ふ~ふ~ん♪」

 ブロンドの髪をしたその人形は我が物顔で街の奥の一番大きな屋敷の方へと歩いていた。

 

 「楽しそうだな...だったら、俺もその遊びに混ぜてくれよ??」

 新は人形の眼前までやって来て、ニタリとした笑みを浮かべた。

 

 「な、何この人間!?」

 小さな人形は突然現れた新に強く動揺する。しかし、催眠姉妹ヒュプノシスターには催眠能力がある。その人形の目が合った者に催眠を掛け、術者であるゲオルギの思うがままに操ることができる。

 

 「私と目が合ったわね...!」

 「これであなたも私のおもちゃよ♪」

 ケラケラと人形は笑う。

 

 「あぁ?何言ってやがんで気持ちわりぃ!!」

 新は目の前のバービー人形のような存在を右手でひょいっと持ち上げた。

 

 ハッキリと新の目が合っているのにも関わらず、新の様子は全く変わっていなかった。催眠に掛かっている様子は一切ない。


 「えっ...」

 「ウソ...?なんでなんでなんで...!?」

 「こんな人間初めて...!」

 ブロンドの人形はそのありえない人間を前に激しく慌てた。人形なのに汗のようなモノさえ噴き出した。

 

 催眠姉妹ヒュプノシスターによる催眠は、ユニークスキルゆえ、精神支配に関する耐性が全くない者など簡単に支配下に置くことができる。故に進は異常状態に耐性があるため、完全には支配されず、言葉などで意思を伝えることができたのである。しかし、新にはそう言った精神支配の耐性を持つスキルは持っていない。ならば何故、催眠姉妹ヒュプノシスターによる催眠が全く効かないのか...その答えは新の持つユニークスキルである《超人》のスキルが関係する。《超人》のスキルは自身の思ったことを自身の身体一つで実現させるスキルである。飛べると思ったら、実際に飛ぶことができ、千里先を覗けると思ったら、実際に千里先を覗くことができる。これは自身に強烈な自己暗示をかけており、その感情をスキルの力によって、増大させ実現させているのである。

 

  "新は常に自分自身に催眠を掛けている状態なのである。"

 

 それ故、催眠姉妹ヒュプノシスターによる催眠を上書きすることはできない。《超人》が新の脳細胞を完全にロックしているからだ。そんなこともちろんゲオルギもこの人形も新本人も知らない。だが、結果が全てなのだ。新に催眠姉妹ヒュプノシスターによる催眠による催眠は全く通用しない。

 

 人形はガタガタと音を立てて震えた。さっきまで鼻歌交じりに歩いていたのがウソのように...

 

 「さっき遊ぼうって言ってたよな??」

 

 「俺から提案なんだけどさ...球蹴りしようぜ!」

 「思いっきり身体を動かして―んだ!」

 新は人形の耳元でそう囁いた。

 

 「えっ...でも球なんてないわ...??」

 人形は辺りを見渡し、そんなモノどこにもないことを確認する。

 

 「あるじゃねーか!」

 「ここに絶好に蹴りやすい球がよ...!」

 

 そう新は言い、人形を地面に置き、力いっぱい思いっきり上空目掛けて蹴り飛ばした。その威力は地面が抉れル程だった。

 

 「ッ―ーーー!!!」

 

 人形は上空に上がると、その勢いによる空気摩擦と新の蹴りの衝撃でバラバラに砕け散った。

 

 「一回はやってみたかったんだよな...!ああいうおままごとで使うような人形思いっきり蹴るの...!」

 新は上空を眺め、人形がバラバラになったことを確認した。

 

 

―――新が催眠姉妹ヒュプノシスターを破壊した一方で進の方はと言うと...


 マリーを突き刺した刀をその手からすっと手放し、マリーも横へと駆け寄っていた。この時すでに新が人形を破壊していたことで進の催眠状態は完全に解除されていた。

 

 「マリーッ!!しっかりしろ!!」

 進はマリーが既に息をしていないことを確認する。

 「脈もなしか...!」



"仲間は絶対に死ナセナイ!"


進は自分の手でマリーを傷つけてしまったことに対する憤りから身体をプルプルと震わせていた。

 

 (どうする...?"アレ"を使うか...?しかし"アレ"はまだ実験の段階...使うのは少し躊躇われる)

 進には何やら手が残されていたようだが、それの使用を少し戸惑っていた。

 

 「仕方ない...他に手段がないというなら...」

 進が覚悟を決めたその瞬間、横たわるマリーの全身を赤い光が包み込む。

 

 「ゲッホ!ゲッホっ!」

 何と、既に息絶えていたマリーが息を吹き返したのである。

 

 「コレは...まさか...!?」

 進はマリーの胸元を確かめる。そこにはこのルルドの街に来る前にマリーに手渡した赤い宝石が施されたペンダント砕けていたのである。

 

 「このペンダントが身代わりになってくれたのか...!」

 

 「白魔法:エリアエクストラヒール!!」

 進はすぐに息の吹き返したマリーを含め、自分が襲ってしまった街の人や仲間たちに対して治癒の白魔法を掛けた。

 

 そして、まだ目覚めないマリーを抱きかかえて、空を仰いだ。

 

 このペンダントの効果をオレは知っていた。もし万が一マリーの身に何かあった時の為に渡しておいたのだ。まさかこんなに早く使用することになるとは思わなかったが...

 

 このペンダントはアイテム名、命のペンダントと言い、あの神殿騎士第七師団団長ガリアの部屋から見つけたものだ。奴の部屋から使える魔導書を回収している時にこのペンダントと奴の日記を見つけた。

 奴の日記には奴の悲痛な過去、コルベール家で何が起こったのか、妹の仇として聖王国の教皇をどれだけ憎んでいるか、妹を死なせてしまったことへの後悔が綴られていた。

 

 そして、奴は十数年と言う年月を掛け、死者の蘇生とこのペンダントの生成をランジネット公国の魔導の探求者ベルデ卿と共に研究していたのである。そしてガリアは、このペンダントを完成させた。

 ガリアは、妹がもしこのペンダントを身につけていれば、死なずに済んだと考えていたんだろう。助けることができなかったことへの報い、そして今後自らが愛した者が現れた時にこのペンダントを送ろうと考えていたようだ。しかし、そのような者が現れることなく奴は悪の道へと堕ちてしまった。

 

 「しかし、オレはガリア...敵だったお前を認める!そして、感謝する!」

 「マリーを助けてくれてありがとう!!」

 「ガリア!お前の人生!お前の妹への思い!辛い過去は無駄じゃなかった!!」

 

 「オレはいずれこの恩をお前に必ず返すと誓おう!!」

 

 

 「ススム君...マリー君は大丈夫なのか?」

 傷の癒えたフラムさんが立ち上がり、オレの元へ聞いてきた。

 

 「ええ、息はしていますし、脈も正常です...暫くすれば起きてくるでしょう」

 

 マリーを安全な所へ横たわらせ、街の奥へとスタスタと歩いていく。

 

 「ススム君はどこへ行くんだい?」

 進はフラムさんの声でピタッと歩みを止め、振り返りこう答えた。

 

 「ちょっとこの騒ぎを起こした奴を殺して・・・きます!!」

 

 進はそう笑顔で答えたが、その目は笑っていなかった。

 

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