第152話 ルルドの街①
~ルーガルの村 村長宅~
「~ということがあったんじゃ...」
この村の人狼伝説をオレ達は静かに聞いていた。
「なんだか、悲しいお話ですね...!」
マリーが最初にこの話の感想を述べた。
「zzz...!」
どうやら新は村長の話の途中で眠ってしまったようだ。どこまでも自由な奴だな。
「気になったんだが、なんでこの話ってこんな詳細に知られてるんだ...?」
「リカント本人が何かに書き記したって事か?」
オレは村長に聞いた。
「ああ、それなんじゃが、リカントはその後この村を訪れこの話を自身の家の壁に書き記したのじゃ...!」
「もしかして、もう二度とこの村を訪れないための最後の言葉として残したのか...それともカントと言う男がこの世界に存在したことの証明として残したのか...」
「結局それは本人にしか分からぬが...」
その日の夜オレは、布団に入りながら今日の村長の語っていた人狼伝説について考えていた。
カントと言う男は、最後まで己の正義を貫いたのだろう。そして、リカントとして生まれ変わり、この国への忠誠を捨て、魔王への忠誠を誓った。恐らく、自身の家にこの話を書いたのはカントとしての生涯を捨て、リカントとして生きていくために必要だったのだろう。
これから、オレ達は魔王軍と戦うとなったら、必ずそのリカントという男と剣を交えることになるだろう。勝てるだろうか...?リカントは何百年も魔王の側近として腕を磨き続けたハズだ。人狼という、ハイレベルなクラスを持ちながら、決して努力を惜しまない。天才でありながら、努力を怠らない、そういう男が一番危険だ。オレはそのことをかつての地球での経験から知っていた。オレはリカントの恐ろしいまでの戦闘力を警戒していた。
その日は、みんなで村長さんの家にお世話になり、夜が更けていった。
―――静かな夜、綺麗な満月が外を照らしていた。布団に入って寝ていたマリーは、特に何かあるわけではないが、ふと目が覚めてしまった。喉が渇いたので、眠気眼をゴシゴシと擦りながら、外の井戸まで行くことにした。外に出ると涼しい風が吹き抜け、マリーのネグリジェの裾を揺らす。
マリーはその風で目がすっかりと覚め、前を向いた。そこには、満月を眺めている進がいたのだ。月明かりに照らされた進の表情は何処か懐かしいものを見ているような表情をしていた。
「ススムさん、まだ起きていたんですか...?」
マリーは進にそう尋ねた。
「ん?ああ、どうにも目が覚めてしまってな...気晴らしに外の風に当たりたくなったのさ...!」
進はそう答えた。
「私と同じですね」
「ハハハ...、まぁ明日も早いし、早く寝た方がいいんだが...」
「どうにも、この綺麗な満月を見ていると元の世界のことを思い出してね、なかなか目が離せなかったんだ」
「やっぱり、元の世界に戻りたいんですね!」
「そりゃもちろん!元の世界には戻りたいさ...!」
「でも、この世界にいる間は、マリーもそうだが、仲間の力にどんなことがあっても絶対になると決めている!」
「それこそがオレが天才であるための証だから...!」
「私は...私はススムさんが天才でなくとも、ススムさんがそばにいてくれればそれでいいですッ!」
「私はススムさんのことが好きだからッ!!」
マリーは顔を赤く染め、胸に手を押さえながら、進に向かって言った。それは精一杯の告白だった。
「マリー...そう言ってくれるのは嬉しいが、それはムリなお願いだ」
オレも分かっている、いや分かっていたマリーがオレのことを一人の男として見ていることに。でもオレはこの世界の住民じゃない、いずれこの世界を去る。そうなった時に辛いのはマリーだ。だから、オレは一人でも生きていく術を彼女には身に着けてほしいと思っていた。
「オレは、いずれこの世界から消える...必ずだ...!」
「それは何故かっていうと、オレを天才たらしめる力がオレを誘導するんだ...ここはオレの居場所ではないってね!」
「居場所じゃないって...?どういうことですか!?」
「ススムさんがそう思っていないってことですか?」
「いや、そうじゃないんだ...そうじゃ...ないんだ...」
「自分でもこれは説明し辛いから...あまり言いたくはない」
「だけど、分かってくれ...!」
「だったら、私が...私たちがススムさんの居場所になって見せますッ!!」
「どんなことがあっても絶対になって見せますから!!」
それはかつてロレーヌの村を飛び出した村娘の発言とは思えない程ハッキリとしており、他者から見たら本当に実現してしまうのではないかと思う程の気迫だった。しかし、既に進はあることを予感していた。それは自分がマリーやフラムさん、リオン等、周りの人たちとは決定的に何かが違うということを...。そしてそれがいずれオレ達が一緒にいるための障害になることを。
「マリー...ありがとう!」
「感謝の印と言えるか、分からないけど、これを君にプレゼントするよ...!」
そう言って、進は首からぶら下げることのできる赤い宝石の装飾が施されたペンダントをマリーに手渡した。
「えッ...これってまさか!プレゼントってやつですか!?」
マリーは大変驚いていた。まさか進から手渡しでアクセサリーがプレゼントされるとは思っていなかったからである。それもこんな高価そうなものとなると...。
「ん~まぁそんなところだな...!そいつをオレだと思って、いつも身に着けていてほしい」
「ンッーーーハイッ!!絶対にいつも身につけてますッ!」
「えっ~とそれじゃあ私はもう寝ますんで!!あ、あの...ペンダントありがとうございますッ!!」
マリーの顔は既に照れて真っ赤だった。目の前の進を直視できない程、恥ずかしい気持ちになってしまったマリーは進にお礼を言うと足早に寝床へと戻っていった。
―――次の日の朝―――
オレ達は次のルルドの街を目指すため、準備をしていた。
「それでは村長さん...お世話になりました。」
荷物を車の荷台に積み込み、オレは村長さんに挨拶をする。
「トーマよ...!生きて帰ってくるのだぞ!」
「分かりました父上!しかし、私はこのクロヴィスのため全力で戦ってきます!」
トーマも別れ際に村長さんと話をしているようだった。
だが、しかし車に乗れる定員を完全にオーバーしているな...。オレはどうするか考えていた。
「なぁ新ッ!お前たちはお前たちでそのドラゴンに乗ってここまで来たんだよな!」
「だったら、次のルルドの街へもそれに乗ってくれないか?」
オレは仕方がなく、そう新たちに頼んだ。
「まぁそれはしゃーねよな...」
流石に新もこの人数はこの車に乗れないことを悟って苦笑いを浮かべながら、承諾した。
こうしてオレ達は、次の街ルルドへと向かった。




