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第150話 世界最強の人狼が誕生するまで⑥


~クローバの森~


 カントとリリアが森の教会で暮らすようになって、4つの季節が過ぎた頃だった。あの事件が起こったのは...。

 その日は、いつものように私が森に狩り出かけていた。教会には、リリアが残っていた。リリアが教会の掃除をしていた、その時普段は訪れる人なんてほとんどいないこの教会の戸をドンドンと叩く音が聞こえた。

 

 「誰だろうか...?」

 

 リリアは不思議に思いながら、教会の扉を開いた。

 

 「やはり、ここにいたのですね!ずいぶんと探しましたよ...!」

 

 「お、お前は、ゴードンか!」

 そこにいたのは、かつてカントたちの部隊を壊滅に追い込んだ分厚い鎧を身に纏った髭面の男、神殿騎士団長"血雨のゴードン"であった。

 

 ゴードンは、目の前の車椅子姿のリリアに酷く驚いていたようだった。

 「どうなされたのですか...あなたほどの人がまさか、このような負傷を負っているとは...!?」

 

 「何、大したことじゃないさ...!この傷は名誉の負傷だ...!」

 「それよりもゴードン!お前がここへ来たってことは目当ては"アーク教典"か...?」

 

 「ハイ...!実はリリア様のお父様、エトワール様からの命でリリア様の生存確認と"アーク教典"の回収の任でこの地に参りました!」

 

 「そうか...!分かった!少し、外で待っていてくれ!」

 「教典を持ってくるから...!」

 リリアはそう言い、ゴードンを外で待たせ、アーク教典を自室に探しに行った。

 


 ―――私はこの日いつもとは違う何か、胸騒ぎのようなモノを感じ、いつもより早く狩りを切り上げ、リリアの待つ教会へと帰った。その途中だった。

 

 教会に近づくと、教会で待っているハズのリリアの声とかつて聞いたことのある男の声が聞こえた。

 

 「ジャハハハハハ...!!」

 

 (なぜここにリリアが...それに、この醜悪な笑い声は...間違いなくあの男..."血雨のゴードン"!あの男が何でここに...!?)

 

 あの男は、かつてカントの部隊を全滅させた憎き仇...。カントの胸騒ぎは的中した。急いで、リリアたちの声のする方へと走った。

 

 「いや、いや...これは確かに"アーク教典"!本物ですね...!」

 ゴードンはリリアから手渡されたそれをよく確かめた。そして、本物だと分かると男の態度は一変した。

 

 そして、カントがゴードンの元へと辿り着いた時には既に遅かった。

 

 「ゴードン...!何故だ...!?」

 

 「ジャジャジャジャーーハハハハッ!!」

 「いやいや、リリア様...!貴方の父上の命令なんですよ...!」

 「見つけたら連れて帰って来い。だがもし、貴方が戦えないような身体になっていたら抹殺しろとね...!」

 「まぁ私はいつも貴方のことが気に食わなかったですけどね...!」

 「平等?騎士道?誇り?私は貴方からそんな言葉を聞くたび、寒気がしていましたよ...!」

 

 「だから、今あなたのその驚いた顔、絶望の表情を見たかったんだ!」

 「そうッ!その顔を見るとゾクゾクが止まりませんよ!」

 

 カントの目に心臓に剣を貫かれているリリアが映った。この時の私はゴードンに対する怒りで支配されていた。

 

 「ゴォォーーードォン!!!」

 

 「な、いつの間に...!?」

 

 気が付くと私の右手は鎧ごとゴードンの心臓を貫通していた。この一年、私は強くなるためにリリアから戦闘の指導を受けていた。そして、気が付かぬうちにかつて殺されかけたこのゴードンを遥かに追い抜くほどの戦闘力を手に入れていたのだった。

 

 「貴様はッ...!?」

 

 「覚えていないのか...?」

 「私は貴様の酔狂で生かされた獣人だ!!」

 「貴様はあの時、ワザと私の心臓を外した!」

 「だが、私はそんなことはしない!!」

 「いつか仲間達の仇として貴様の心臓を潰すと願って!ついに今日それが叶った!!」

 私は怒りの表情をゴードンに向け続け、ゴードンの心臓を握りつぶした。そして、まるでボールでも投げるかのようにゴードンの身体を岸壁へと投げつけた。

 

 「リリア!しっかりしろ!死ぬなッ!」

 

 「カントか...!すまないな...私はどうやらここまでだ...!」

 

 「ふざけるなッ!約束しただろ!お前の足のケガが完治したら、お前と再戦すると!!」

 「それまでは死ぬなんて許さないぞ!!」

 カントの声は段々と弱々しくなり、その瞳から涙が流れる。

 

 「ハハハ...それは厳しいな...!」

 

 「ねぇ...最後に私からのお願いを聞いてくれるか...?」

 

 「お願いだと...!?」

 

 「そっ...!お願い...!」

 「私が死んだら、私の目を貴方の目として使って...!」

 「そして私のことを食べてほしいの...!」

 「そうしたら、私達いつまでも一緒でしょ...!!」

 

 「そ、そんなこと...!」

 突然のリリアからの提案に私は驚いた。

 

 「我ながらナイスアイディアでしょ!」

 

 「初めて出会った時のこと覚えてる?」

 

 「あの時、貴方に初めて会って、傷だらけの獣人がいるなって思った...!」

 「いきなり仲間の仇とかいうんだもん!とっても驚いた...」

 「適当に受け流して、逃げようとかも考えた...!」

 「でも、その目を見た時、とても悲しい目をしていた...だからなんだか放っておけなかった気持ちになったの...!」

 「戦っていく内に段々貴方のことが分かってきた...自分の目を切り裂いたのが私だからっていきなり自分の目になれッ!っていうからとても驚いた。でも何よりそれをすんなり受け入れている自分に一番驚いていたわ...!」

 

 「ねぇ...!だから今度は私から言うよ...貴方の"目"になりたい!」

 

 「リリア...」

 

 「ホントは、こんな形じゃなくて、もっと一緒にいたかったけどね...!」

 「カント愛しているわ...!」

 それが、リリアの最後の言葉だった。

 

 「リリアッ!リリア!リリアァァァー―――ッ!!」

 

 「言いたいことだけ、言いやがって...」

 

 リカントの目からはポロポロと涙が零れていた。

 

 「私だって、リリア、君とずっと一緒にいたかった!!」

 「一緒にずっと過ごしたかったさ!一緒にまた買い物に行きたかった!一緒にまた遊びたかった!一緒に戦いたかった!年老いるまで君といたかったさ!こんな形での別れなど望んでなどいないッ!」

 

 「私こそ!リリア、君のことを愛していたさッ!」

 

 「そうか...そういうことか...!」

 カントはそう呟くと、既に息絶えたリリアの眼球を抉り出し自分の目に埋め込んだ。

 

 「これで、一緒になれる...!永遠に君と一緒になるんだ!リリアッ!」

 

 リリアの遺体を喰らった。骨ごと全て...狼獣人の強靭な顎を以てしても噛み切れないところもあったが、そこは無理やり飲み込んだ。味なんて分からない。何回も吐きそうになったが、私はリリアのことを思い続けながら喰らい続けた。それだけ愛していたのだ。

 

 食べている内、不思議な感覚に陥った。まるで自分が自分でいなくなるような。そして、その変化は確実に自分の身体にも表れていた。全身を覆っていた茶色い狼の体毛は全て抜け落ち、頭から銀髪の髪が伸び始めた。そして、1年前にブラックティラノによって噛まれ千切られた左腕は再生を始めていた。頭から生えていた獣耳は消え、人間のように頭の横から耳が生えた。手の肉球は消え人間のような掌へと変化した。カントはまるで人間のように生まれ変わったのだ。

 

 後にカントは生まれ変わった自分のことをReカントと呼ぶようになる。そう、それこそこの世界最強の男"人狼リカント"の誕生だったのである。リカントはこの後《不老不死》のスキルを手に入れ、本当に亡きリリアと一緒に永遠を生きることができる身体となったが、それはまだ先の話である...。

 

 

 

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