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第149話 世界最強の人狼が誕生するまで⑤


~クローバの森~


 何とかブラックティラノを退けたカントとリリアの二人はこれからどうするのか話し合っていた。

 

 「で、勝負は続けるのか...?」

 リリアがカントに尋ねた。

 

 「やはり、お前は阿呆か?先までの戦いで私は左腕と両目、お前は両腕と両足が使い物にならないハズだ」

 

 「戦いどころではないだろ...!」

 

 「私は別に構わぬぞ...この状態でも...?」

 カントに戦う意思がないことを知った上で、リリアはからかうように言った。

 

 「私は戦わん!私は誇り高き獣人族だ!手負いの貴様と闘って堪るかッ!!」

 

 「フッ、まるで最初に会った時の私と同じことを言っているではないか!!」

 

 リリアの言葉で急にカントは恥ずかしくなり、顔を赤く染める。

 

 「で、実際問題リリア、貴様はどうするのだ?そのケガではもう戦線復帰は不可能であろう!!」

 リリアの両腕は治るとして、カントが食い千切った両足の腱はこの世界の医術で治すのは難しい。そうなると、先ほどのポーションよりもさらに上質なポーション、身体の欠損を治すことのできるエクストラポーションレベルのモノが必要になってくる。そのレベルのポーションとなると金額以上にまず市場に出回らないし、当然人気であるため、まず手に入らない。運よく遭遇しても値段が高すぎてカントはおろか神殿騎士のリリアでも購入できるかは分からない。

 

 「そうだな...このケガではもはや祖国にも帰ることはできまい...!」

 「いっそしばらく森で暮らそうとも考えている」

 

 「この森で暮らす??」

 

 「ああ、この森にはアーク教団がかつて使っていた廃教会がある...!」

 「実は今回、私もそこに任務で来ていてな、その任務が終わって帰還しようとしていたところでお前と遭遇した」

 

 「アークっていったら、神殿騎士たちが崇拝しているこの世界の女神アークのことか?」

 

 「そうだ!私は今回の任務でこの"アーク教典"を回収する任務を命じられこの辺境を訪れた」

 リリアはそう言って、古ぼけた分厚い真っ黒な本を取り出した。

 

 「驚くなよ、アーク教の教えは既に様々な書籍で発行されているんだがな、コイツはその原本なんだ!」

 リリアは興奮したように目の前の本について語り出してきた。しかし、私はこの時なんとなくだがその本がとても不気味で悍ましい物に感じたのだ。

 

 「リリア...!お前がその廃教会で暮らすというのなら、私も付き合おうッ!」

 

 「ど、どうしたのだ突然!?」

 急なカントの申し出に戸惑うリリアであった。

 

 「いや、元々そのケガは私が付けたもの、その責任は負う必要があると感じただけだ!」

 「それに、この命はリリア、お前に助けられたものだ!ならその恩は返さなといけない!」

 

 「責任...?恩...?」

 「いや、別にそんなモノは感じなくても...!」

 カントの申し出を断ろうとするリリアであった。

 

 「いや、私は何が何でもお前の為にこの恩を返さなければならないッ!」

 「そして、お前の傷が完治した時再び、お前に戦いを申し込もう!」

 「それが私と貴様の戦いの決着の付け方だと考えている!」

 「それに、言っただろう、"敵に借りを残したままにするつもりは毛頭ない"って!」

 

 「うっ、まぁ満足に歩けないのも確かか...!有難くその申し出を受けよう!!」

 

 少し、強引だったが、リリアのケガが治るまでカントとリリアはクローバの森の廃教会で暮らすこととなったのだ。

 

 

 ~それから数か月後~

 

 カントとリリアの共同生活を始めて数か月、それは平穏そのものだった。教会の中は、内装は古くなっていたが、特別壊れたところもなく、雨風を凌ぐには困ることはなかった。教会はかつて、孤児たちや身寄りのない者を受け入れて生活していたのであろう、調理場や寝室など生活スペースも存在していた。食材はこの森で取れる、魚や獣を、果実を取っていたので、空腹になることもなかった。勿論、リリアはまともに事ができないので、食材の調達は主にカントが担当、調理はリリアが担当していた。

 

 教会の中には、動く椅子のような物も存在していた。椅子の足には、木で作られた円状のモノが4つ付けられたモノが存在しており、リリア曰く"クルマイス"というらしい。歩くことが不自由な者がその椅子に座り、後ろから誰かに押してもらって移動するらしい。かつて、異世界から来た"迷い人"によって生み出されたもので、人間の社会ではよく使用されているようだった。前方の車輪が大きいのは座った人が手で車輪を動かすことができるようになっているようだった。

 

 たまに二人で、近くの街に行くこともあった。目的はリリアの足を治すためのポーションがないかの確認とビートリカと聖王国の戦争の状況を確認することだった。街はビートリカ領なので、リリアはローブで頭を隠し、クルマイスを私が押して移動した。ポーションは見つからなかったが、戦争については良い情報が得られた。どうやら、私の部隊が敗北した後、後方の本部隊がゴードン率いる部隊を撃退したらしく、ゴードンは深手を負い、どうやら本国に戻って治療をしているらしい。聖王国側も周辺諸国から攻撃を受けているらしく、神殿騎士たちもそちらに手がかかり、ゴードンを退けて以来ビートリカは聖王国の侵攻を受けていないらしい。

 

 「やっぱり、街は良いモノだな...!」

 「こんな平和がいつまで続けばいいのだが...」

 

 街の人達を見て、リリアは私にそう語りかけてきた。どうやら、リリアにとって人間も獣人も等しく思っているらしかった。人間にしては珍しい。普通は獣人と言ったら人間からは忌み嫌われる存在であり、逆に獣人もそんな人間をよく思ってはいない。

 

 「リリアはどうして、神殿騎士に所属していたんだ...?」

 私は聞くつもりはなかったが、リリアが平和について話すものだからついそんなことを聞いてしまった。

 

 「そうだな、私の父が神殿騎士の元帥なんだ!それで、幼少の頃から私も神殿騎士になるように教育を受けてきた」

 「しかし、実際に神殿騎士になってみたら、同じ騎士団内にも気に入らない者がいたり、私の父が神殿騎士の元帥だからといっておべっかを使って来る者がいたりして、最近はその理想と現実の差が嫌になっていたのだ」

 「幼い時はおとぎ話に出てくる騎士にも憧れていたし、実際に私は今までの行動を間違っていなかったとは思っている」

 

 

 「リリアが神殿騎士団元帥の娘...!?」

 

 私はそのことに酷く驚いたのを覚えている。リリアによれば、娘と言っても父親は目的のためなら娘にも容赦はしない者らしく、任務を達せなかった自分の心配もしていないのではないかと言っていた。今回の任務が失敗したと分かれば、父親は他の神殿騎士を寄こすはず、ソイツにこのアーク教典を渡すようにすればいいと考えているようだった。

 

 私とリリアの共同生活はとても幸せだった。そんな生活の中で私とリリアが恋に落ちるのも自然の流れだった。私は次第に種族関係なく誰にでも平等に接し優しいリリアに惹かれていた。リリアもまた自分に尽くしてくれる狼獣人のカントに惹かれていた。そんな二人の間にはそう時間は必要ない。――――そして、二人は廃教会の中、結ばれたのだった。

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