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第146話 世界最強の人狼が誕生するまで②


~クローバの森~


 神殿騎士の女に放り投げられたポーションを飲んだことで、カントの傷はみるみる内に癒えていった。

 

 (この女、こんな強力なポーションを惜しげもなく、敵兵である私に差し出したのか...)

 

 女の理にかなわない行動に困惑を覚えるカントだった。

 

 「よし、どうやら傷は塞がったようだな!」

 

 神殿騎士の女は乗ってきた馬から降り、私に向かい合った。その瞳は蒼い目をしていた。私は戦うため、爪を立て戦闘態勢に入った。

 

 「さぁ、剣を抜けッ!!」

 「女だろうが関係ないッ!お前ら神殿騎士は仲間の仇だ!!」

 「私の手で葬ってやろう!!」

 私は眉間に皺を寄せ、喉を鳴らし威嚇をした。

 

 「本当ならばこんなところで戦っている場合ではないのだが、仕方あるまい!」

 「相手をしてやる!掛かってこいッ!」

 女は腰にぶら下げていた鞘からレイピアを抜いた。

 

 そこから私たちは四半刻は争っただろうか。私はもちろん命を懸けて戦った。一緒に戦った仲間のため、村に残した家族のため、故郷の国のため、目の前の敵と対峙した。本当はこの闘いで死ぬつもりだった。先の戦いで同じ部隊の仲間を失い、私だけ運よく生き残ってしまった。先にあの世に行ってしまった仲間たちに申し訳ない気持ちでいっぱいだった。だからこの戦いで散ることで仲間たちへの贖罪になるんじゃないかと私はその時そう思っていた。

 

 神殿騎士の女は強かった。しなやかな動きで剣を振るい、変幻自在の剣技を繰り出してきた。私は身体中至る個所を何回も斬られたが、女に一発も攻撃を当てることはできないでいた。

 

 全身から血を流し、先のポーションで回復する前と遜色が無いほど傷が広がっていた。

 

 「もう止めろ、これ以上戦っても貴殿に勝ち目はないッ!」

 女はきつい口調で私に言ってきた。

 

 「ハァ...ハァ...舐めるなよォ!人間ッ!」

 「仲間たちの痛みは...悲しみはこんなものではなかったハズだッ!」

 「私は...私は誇り高き狼獣人族!仲間の仇は必ず取る!」

 「たとえこの身が朽ちようとも!」

 

 私は全身から流れる血を物ともせず、女に言い放つ。

 

 「そうか...敵ながらその心意気は天晴れだ!」

 「敵にするには惜しい...!!できれば殺したくはない...!」

 

 女は剣を私に向けた。その瞬間、女の姿が消え、私はその動きを完全に見失ってしまった。

 そして、気が付くと女は私の目の前に現れた。

 

 「グアアアァッ!!」

 「ナ、何だ...前が見えない...暗い...」

 

 鼻から上の激しい痛みに、真っ黒な視界に私はすぐに女の剣先が私の目を切り裂いたことに気が付いた。

 

 「クッ...おのれ...!!」

 

 私は視界を奪われた絶望から地面に膝をつき、顔を手で覆った。

 

 「もうおしまいだ...これ以上の戦いは私の騎士道に反する!」

 女はそう言い、私の目の前で剣を鞘に納めようとする。私はそれが堪らなく悔しかった。私は命を賭して戦っているにも関わらず、目の前のこの女はそんなこと意にも介さず、私の命を奪うことなく、この戦いを終わらせようとしているのだ。

 

 「まだだ...まだ戦いは終わってはいない」

 

 目は視えなくなってしまったが、私は既にこの女の匂いは覚えていた。位置は把握している。ならば届くハズ...私は女に飛び掛かった。

 

 「視界を失ってもまだ戦うのか!」

 一度はレイピアを鞘に納めかけたが、カントがまだ戦意を喪失していないと見るや再び、目にも止まらぬスピードで剣を振るう。

 

 「グオオオオオッ!!!」

 

 その時、一緒に戦ってきた仲間の顔が私の頭に浮かんだ。

 無数の剣の雨を両手でガードしながら全て受け切った私はついに女の剣を持つ右手を掴んだ。

 

 「フ――ッ!」

 

 「ハァ.........ハァ...」

 

 息も絶え絶えな私だったが、女は自身の剣技に全く怯むことのない私に対して動揺していた。

 

 手を封じてしまえば、人間の力を遥かに凌駕する獣人に人間はなす術はない。

 

 「クッ、白魔法:ライトバニッシュ!!」

 女は目の前に光り輝く、光のエネルギーの結晶を発現し、私の胴体に向けて放った。

 

 しかし、今更その程度で私は退くことはないッ!女の両腕を自慢の爪で切り裂き、女の剣を力いっぱいに弾き飛ばした。その後、女の動きを止めるために女の両足の腱を噛みちぎった。

 

 「グッアァッ!」

 流石の女も余りの痛みから、苦痛の声を漏らした。

 

 「ペェッ!!」

 女の血肉が私の口に溜まったので、それを地面に吐き捨てる。

 

 「ハァ...ハァ...」

 女は尻もちをついて、後ろに下がる。一気に形成は逆転した。所詮は人間、剣を使用することができなければなんてことない。辺りはお互いの夥しい量の血で草木は赤く染まっていた。


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