第132話 勝利の美酒を味わいたくて
~アクアマリノ アルクガーデン~
ペルダンが一しきり前世の記憶を話し終わるころには特大ジョッキで出されたビールはほとんど飲み尽くしていた。
「で、結局アンタは何が目的なんだ?」
オレは話し終えて余韻に浸っているペルダンに尋ねた。
「僕は目的はただ一つ、最強の天才少年天童進――アンタに勝つことだ!!」
「僕の前世ではアンタの前に立つことすらできなかった...」
「だが、今はどうだ!こんなに近くにアンタがいる!これはチャンスなんだ!!」
「僕はアンタに勝ちたい!!そして、前世の負け続けた人生も無駄でなかったと証明したいんだ!!」
ペルダンは少し酔っているのだろう、先ほどよりも声量が上がっているのが分かった。
「オレは前も今もそしてこれからも、誰からの挑戦も受ける!!」
「だから、アンタがオレと闘いたいというなら受けて立つ!!」
オレはハッキリとそう宣言した。
「フフ...やはりそう言うと思っていたよ...!」
「アンタとは闘うための最高の舞台を用意するからそれの代わりといったらアレだが、前哨戦としてアンタに良い物を見せてやるよ!!」
そう言って、ペルダンは懐から財布を取り出し、中のコインをオレの前に出してきた。
「天童進...アンタは"運命論"って奴を信じるか?」
「運命論...人間の運命はあらかじめ決まっていて人間の力ではどうすることもできないって奴か...」
「下らんな...自分たち未来は自分たちで切り開くモノだ!あらかじめ決まっている訳がない...」
オレはペルダンから出た運命論を否定する。
「僕も同じ意見だ...!しかし、僕は前世で負けに負けてこの世界に転生してきた」
「これは負けるように運命が動いているんだ...」
「それを今から証明して見せる」
そう言って、ペルダンはオレの目の前で一枚のコインを投げ手の甲でキャッチし、反対の手でコインを覆った。。
「絵の描いてある方が表だ!」
「さぁ表と裏どっちだと思う...?」
「なんだ、突然...?だったら"表"だ!!」
オレはペルダンの突然の質問に答える。
「だったら僕は"裏"だな」
ペルダンは押さえていた手をどけてコインを見せた。
「フフ、表だ、アンタの正解だよ!」
「これがなんだっていうんだ?」
「これが運命論なんだ...僕は負ける運命にある、そして君は勝つ運命にある!」
「僕がどうこうしようが関係ない、大きな波に攫われるように、僕の努力を君の才能が飲み込むんだ!」
「そんなバカな...」
この後、ペルダンは同じようにコイントスを9回行い、オレはそれら全てを当ててしまった。
「なぁ説得力が出てくるだろ...?これが運命論なんだ!僕がどれだけ努力しても君には勝てない」
確かに、本来50%で勝てる勝負に10回連続で負けるなんて本来あり得るんだろうか?こうなると奴の運命論とやらも説得力を帯びてくる。
「だったら、どうするんだ?オレに勝負を挑むのを諦めるのか?」
オレはペルダンに尋ねた。
「フン、とんでもない...前世の僕なら諦めたかもしれないが、僕は文字通り生まれ変わったんだ!」
「天童進―――僕はアンタを倒してこのふざけた敗北の呪縛を引き千切ってやる!!」
「そうしなければ、そうしなければ...僕はいつまでも過去のまま前に進めないんだ!!」
「僕は天童進に勝利するというどんな酒でも味わえない、最高の勝利の美酒を味わいたいんだ!!」
ペルダンはまるで政治家の街頭演説であるかのように声高にオレに語って見せた。
そうして、言いたいことを全て言った奴はそのまま席を立ち、店を出ようとした。
店の扉に手を掛けて、ペルダンは何か言い残したことを思い出したかのようにこちらを振り返った。
「どうした?」
オレはペルダンに聞いた。
「そうだ!最後にこれだけは聞いておきたかった!」
「天童進―――あんたホントに素手でツキノワグマを捕えたのかい?」
「僕は前世からそれだけは気になって気になって仕方がなかったんだ...」
「フッ、そんなことか...」
「本当の話だ!あの時は動物愛護団体とかが五月蠅くて仕方なかった...まぁそれすら今は良い思い出だ!」
それを聞いたペルダンは満足した表情だった。
「それが聞けて良かった!次合う時はアンタと闘う時だ!」
そう言って、ペルダンは店を出て、闇の中へと消えてった。