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第131話 ある男の人生敗北録


 神殿騎士第二師団団長ペルダン-シル-ブランカは若くして、魔法の非凡な才が教会の目に留まり、聖王国の名家であり、教会に多額の寄付をしているブランカ家ということもあり、齢16歳で神殿騎士に入団した。その後彼は、着実にその地位を上げていき、齢24歳の時には神殿騎士第二師団団長の座に就いた。


―――――これはペルダンの前世の記憶―――――


 ペルダンは前世についてこう語る。

 

 

  "僕の前世は敗北の人生だった"と...

 

 

 前世では特に非凡な才能のない人間だった僕は、日本のN県T市に"失尾俳人しつおはいと"として生を受けた。父親は平均的なサラリーマン、母親は父親の少ない収入を補うために週に数回パートをしていた。人並みに両親からの愛情は受けていたと思う。

 

 小学校時代は、勉強も運動も人並み以下にしかできず、運動も勉強もできるクラスの人気者を常に羨ましいと思っていた。

 

 そんな自分を変えるべく、中学に上がった僕はバスケ部へと入部した。バスケが上手ければ、クラスの人気者になれると思っていたからだ。しかし、現実はそこまで甘くはなかった。元々運動のできない僕がバスケ部に入ったところで待っていたのは雑用、先輩のパシリ、きつい練習の日々だった。それでも僕は、毎日休みことなく部活に参加して、きつい練習に耐え、一生懸命やったさ...試合に出て、活躍さえすれば周りの僕に対する見る目が変わるとそう信じていたから...

 

 先輩が抜け、僕らが先輩となる時代がやってきた。それでも僕は周りの同い年のチームメイトよりも下手だった。そのせいで、試合には中々出れず、ついには後輩の方が先に試合のスタメンに上がってしまった。それでも僕は試合に出て活躍したい一心で毎日練習に出て、きつい練習をしていた。でも才能っていうのは残酷な物で結局、僕は3年生の最後の試合にすら出ることは叶わなかった。

 

 (ついに最後まで試合にでることはできなかったか...)

 

 僕はこの中学の3年間を振り返り、きつい練習の日々を思い描いていた。その最後の試合が終わって、チームのみんながユニフォームから着替えをしている時、偶々僕は顧問の先生から用事を頼まれたので、チームのみんなより遅れて、更衣室にやってきた。更衣室の扉を開けようとした、その時だった。良く知った声が聞こえてきたんだ。その声はチームメイトたちの声だった。それは僕に関することだった。

 

 『これで俺達も引退か~!明日から受験勉強だ、嫌だな~』

 

 『そういえば、最後までアイツ試合に出てませんでしたよね!』

 

 『アイツ...?ああ、あの"下手糞"の失尾ね!!』

 

 『アイツなんで、この部活にいるんだろうな!あんな下手糞じゃ試合なんて出してもらえるわけねーのに!』

 『アイツ暗くて、空気みてーでいつもいるんだか、いないんだか分からなくて、気持ちわりーんだよな!!』

 

 『先輩たち酷いっすよwwwまぁ失尾さん俺たちよりも下手で可哀そうっていうか...なんか取っつきづらいとこありますけど...w』

 

 なんとチームメイト達は僕がいない間に僕に対する悪口大会をしていたのだ。僕は信じることができなかった。なんで、僕は真面目に毎日きつい練習に耐え、チームのみんなが練習しやすいように掃除や荷物持ちをしていたのにこんなことを言われなければいけないのか...一緒にきつい練習を耐えた仲間だと思っていたのに...

 

 

  "仲間だと思っていたのは僕だけだったのか"

 

 僕の頭の中はグルグルと訳の分からない位回り、今まで感じたことのない位の気持ち悪さ、吐き気に見舞われ、その後トイレで盛大に吐いてしまった。

 結局それ以降僕は、チームメイトの誰とも話すことがなくなった。学校ですれ違っても、声を掛けられなかったし、こちらからも声を掛けることもなかった。

 

 そんな嫌なことがあり、僕は人間不信へと陥った。そして、高校生になった。

 

 高校は、第一志望に落ち、滑り止めで受かった私立の高校に通うことになった。通学に片道1時間もかかることと、学費が普通の公立の高校よりも掛かってしまったため、両親には本当に申し訳ないと思っていた。それでも両親は文句の一つも言わないで、僕を高校へ通わせてくれた。僕は両親には本当に感謝した。

 

 僕は中学の失敗を繰り返すことがないように、極力人と関わらないで生きようとした。その結果、高校時代は、誰かに陰口を言われることはなかったが、一人も友達ができず、教室でもいるのかいないのか分からない存在となっていた。

 

 そして、時は流れ、僕は大学生となった。この時には中学時代に感じていた人間不信も少しずつ、薄れてきていた。

 

 勉強は相変わらずできず、所謂Fランク大学に入学した僕だった。

 

 同じ学科の人とも少しだったが、仲良くできるようになっていた。同じ学科の女の子とも仲良くなった。その時僕は人生で初めて同年代の女の子と仲良くなったんだ。段々とその子のことが好きになっていく自分がいた。しかし、告白などできず、大学もすぐに4年間が過ぎていくことになった。そして、卒業間近ついに僕はその子に思いを伝えたんだ。

 

 『君のことがずっと好きだったんだ!!僕と付き合ってください!』

 

 それは一世一代の勇気を振り絞った一言だった。

 

 『私、実は付き合っている人がいるの...だからごめんなさい!!』

 

 僕は無残にも振られた。

 

 そして、後から知ったことだが、彼女の付き合っている相手っていうのが、同じ学科の素行の悪い男だったんだ。普段から暴力沙汰を起こしたり、ギャンブルや風俗に入り浸るようなクソ野郎だったのだ。僕は悔しかった。そんな奴に彼女が取られていたんだなんて...何度も何度も泣いた。

 

 そんな僕も大学を無事に卒業して、社会人となっていた。しかし、ここでも入った会社がとんでもないブラック企業だったのだ。サービス残業当たり前、月の残業時間60時間を平気で超えてくる。しかも残業代など雀の涙ほどの金額しか出ないそんな企業だった。僕はそれでも何とか、頑張った。

 

 それでも3年目の秋、過労で倒れた。それがきっかけで、その企業を辞めざるを得なくなった。その後別の企業に面接に言ったが、どこも雇ってはくれなかった。

 

 そして、そんな生活に逃げるように就職活動を辞めて、フリータとして生きるようになった。日々の日銭をコンビニや道路整備のバイトで稼いでいた。そんな生活を5年以上過ごしていた。30歳になる手前、両親が事故で亡くなった。

 

 僕のことを一番に考えてくれる両親が亡くなってとても悲しかった。数日間御飯が喉を通らなくなり、夜に泣く日々が続いた。

 

 実は両親は、僕の学費でかなり無理していたようで、多額の借金があったことをこの時初めて知った。

 

 その借金のせいで僕は、両親の遺産を相続することを放棄せざるを得なかった。

 

 40歳手前辺りで、僕はバイトすらサボるようになり、引きこもり中年となっていた。そして、僕は久しぶりに鏡を見た。そこに映っていたのは醜く老いた自分だった。

 

 その容姿の劣化が信じることができず、つい悲鳴を上げてしまった。

 

 それから数日後、僕は鏡を見ないようにして日課のネットサーフィンを楽しんでいた。その時、ある掲示板に目がいった。そこで取り上げられた人物、そうそれが"天才 天道進"だった。

 

 『人類最強の天才少年 天童進現る!!!』

 

 ネットの記事のタイトルはそんな感じだった。

 

 そこには動画サイトのURLリンクが貼ってあり、そこに飛ぶと、中学生くらいの少年が現役プロボクサー世界チャンピオンとボクシングの試合をしていたんだ。この時点で僕は信じられないと思っていた。だって、明らかにチャンピオンの方が体格が二周りも大きく、筋肉の量だって、その少年の比ではなかったからだ。

 

 それでも、そのチャンピオンは天童進に敗れたんだ。それも1ラウンドKOで...ボクシングのルールを知らない僕でもそれは信じられない映像だった。やらせを疑ったさ、それでもその天童進という少年を調べれば調べるにつれ、その信じられない偉業の数々が目に映るだけだった。

 

 『最年少ノーベル化学賞受賞!!』

 

 『凶暴なツキノワグマを素手で捕えた!!』

 

 等々、にわかには信じられない実績の数々だったが、調べていくうちに自分がその少年に惹かれていることに気が付いた。どんな勝負にも挑まれたら受けて立ち、そして勝利を飾るそんな君に憧れを抱いてしまったんだ。

 

 『この少年はこんなに若いのに既に、こんなに脚光を浴びている...』

 『それに比べて...僕は...』

 

 その少年のことを調べ始めて半年くらいが経過した。それは年度が替わり、4月の中頃だった。その少年がK県K市大和町私立神代学園に入学したという情報が僕の耳に入ってきた。僕はいてもたっても入れず、ついにその少年を一目見たいとそこに行くことにした。

 

 自分の住んでいるところからはかなりの距離があり、交通費だけで自分の貯金は既に消えかけていた。それでも僕は会いたかったんだ。その少年に聞きたかった"どうすれば僕は勝利することができるんだ"と。

 

 そして、見つけたんだ"天才 天童進"を...その時の彼は一人ではなく、隣に可愛らしい女の子と一緒だったのが印象的だった。きっと彼の彼女なんだろうなと思った。

 見つけたのは、信号を挟んだ向こうの道路だった。僕は赤信号で足止めをくらってしまった。

 

 しかし、二人は止まってくれない、どんどん見えなくなってしまう。

 

 僕は食事をまともに取っていなかったこともあり、思考がぼやけていた。そして、フラフラした足取りで赤信号にも関わらず、交通量の多いその道路を渡ろうとしたんだ。そんな時だった大型のトラックに轢かれたのは...

 

 道路は僕の血で赤く染まっていた。

 

 僕は倒れ薄れてゆく意識の中で希った。

 

 

   "勝利が知りたい"と

 

 

 この日、失尾俳人は死んだ。


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