第129話 酒場にて②
~アクアマリノ ベネットの宿屋~
「今日オレとフラムさん酒場に行ってくるから帰り遅くなるぞ」
そう言ったのは、朝食を4人で食べている時だった。マリーとリオン二人の驚いた顔が目に焼き付いて離れない。今思うと、二人に何も相談せずに行った方が楽だったんじゃないかとすら思う。
「ス、ス、ススムさんが悪になってしまった!!」
マリーは見たこともないくらいに取り乱し、オレの肩を掴み前後に揺らし続けてきた。
「悪にはなってないぞ、てか酒場に言っただけで悪ならこの世界の人たち大半が悪になるぞ」
「夜は進と一緒のベッドで寝ると決めているんだ!!今夜は帰ってくるのだろうな!?」
リオンはパンやサラダが並べられたテーブルを力強く叩きながら言ってきた。
「いや、まずリオンは自分の部屋で寝ようか!」
オレは激しく揺らされながらも冷静にツッコミを入れる。
「マリー君、姫様、悪いですけど今日はススム君を俺に貸してください」
フラムさんが二人を説得し、なんとか今日は戦闘の訓練が終わった後、二人で酒場に行くことになった。
「なら、マリー!私たちも今日は部屋で呑むぞ!」
「いいですね!!徹底的に付き合いますよ!!」
マリーとリオンもどうやら今日は酒を呑むらしい。
「てか、二人って何歳なの?」
「女の子の歳は聞くのはいけないですよ!!」
「私は16だぞ!」
マリーは教えてくれないみたいだが、リオンはどうやら16歳らしい。
「じゅ,16って...オレと一つしか違わないじゃないか!」
「フラムさん、つかぬ事聞くがこの世界ってお酒何歳から呑めるの?」
オレはあまりこの世界の常識に詳しくないので、そういう時にはフラムさんに聞くのが最近の習慣になっていた。
「この世界では、15歳から成人として見なされるからお酒も15歳から呑むことができるよ!」
「へ、へぇじゃあ、オレもこの世界じゃお酒呑めるわけか...」
この発言が引き金となったんだ。この後何故かオレは二人にこっぴどく叱られるハメとなった。
―――――その日の夜―――――
~アクアマリノ アルクガーデン~
オレとフラムさんは二人で約束通り、アクアマリノのアルクガーデンという酒場を訪れていた。ここは昼間は準備中で夜には聖王国やその近隣諸国から多数の冒険者がやってきて日夜宴会が開かれている。
「はっはっは!ススム君はホントに二人に好かれてるね!」
「いや、笑いごとじゃないですよ!なんでオレはお酒呑んじゃいけないんですか!」
オレはフラムさんに愚痴を吐いてしまう。
「フフッ、二人の言い分がススム君みたいな幼い顔の子はお酒呑んじゃいけませんとはね...」
フラムさんはどうやら今朝のマリーとリオンのことが自身の笑いのツボに入ってしまったらしく今朝からずっとこの調子で腹を抱えて爆笑していたのだ。
「二人はオレのことをどういう目で見てるんですかね!」
「きっとススム君は将来尻に敷かれるタイプだと思うよ!」
結局、オレはオレンジジュース、フラムさんはロゼットワインをまずは注文した。ロゼットワインは透き通った綺麗な色をしており、如何にも大人の飲み物といった感じだった。正直な所オレの飲み物は子供っぽくてフラムさんが羨ましいと感じていた。
「オレも早くお酒呑みたいですね...!」
「まさか、ススム君にはお酒は呑ませるな、お酒呑んだら教えろと言ってくるとはね...困ったもんだよね!」
その後、オレとフラムさんは一時間ほど談笑してこの飲み会を楽しんだ。まぁ当初の目的通りオレのガス抜きはできたので、そこは良かった。
「なぁススム君、俺たちは六魔将モレクやサンドルに勝てると思うか?」
急に真面目な顔でフラムさんが聞いてきた。
「勝てると思っていますよ!いやそう思わなければ勝てる物も勝てないというのが正しいですかね」
「オレ達は確実に強くなっています、それも魔坑道に行ったときとは比べ物にならないくらいに」
「そうか、最近ススム君と修行するようになって改めて自分の未熟さを思い知らされる」
「ススム君は恐ろしい位に戦いの才能があるだけでなく、努力の量もすごい」
「ガリアの部屋から拾ったんだろ、あの大量の魔導書...既にほとんど読み尽くした...違うかい?」
フラムは氷の入ったグラスを持ちながら聞いてきた。
「ええ、鋭いですね...フラムさんのおっしゃる通りガリアの部屋から手に入れた魔導書はもうほとんど理解して自分の物にしました」
「ガリア、奴は強かったか?」
唐突にフラムさんはあのガリア戦の時の話を切り出してきた。
「ガリアは強かったです、奴も様々な才能に恵まれた存在だったんでしょうね...奴の部屋から得た魔導書の練度の高さからそれが伺えました」
「結局、そのガリアもススム君がほとんど倒してしまった...俺が同じように奴と戦っていたら勝てたのかどうかすら怪しい...」
「こんなんじゃサンドルを倒して、エリアを救うなんてできるのだろうかと時々不安になるんだ...」
フラムさんはサンドルとの戦いの直後、自暴自棄になっていたこともあり、今のたまにそういった精神的に不安定になることがある。最愛の人が急にあと一年で死ぬかもしれないとなったら自暴自棄になるっていうのも分からなくはないから、その度にオレはフラムさんを勇気づけるようにはしていた。
「無理にフラムさんが一人で背負うことないですよ...サンドルと戦うとなったらオレも一緒に戦いますから安心してください!」
「ありがとう...ススム君にそう言ってくれるだけで安心するよ」
フラムさんは手に持ったウィスキーをグイッと一気に呑み干す。とてもいい呑みっぷりだった。
フラムさんも大分酔いが回ってきたのか、そのままテーブルにぐったりと眠ってしまったのだ。やれやれとオレが収納のスキルで毛布を取り出し、掛けてあげることにした。
「少し休憩したら、フラムさんを背負って宿に戻るか...」
時刻は既に深夜12時を回っているようだったが、周りにはまだ人が多く飲み会を行っていた。
そんな時だった一人の見知らぬ男がオレに声を掛けてきた。




