第126話 超人 唯我 新はジルダを救いにクロヴィスを目指す①【唯我 新side】
~ドラコミシア王国 宮殿内~
「新!大丈夫か!?」
ヴィクトルが去ったことによって、ヴィクトルの体液に縛られていたマダラは身動きが取れるようになっていた。
「ウッ...ウゥ...」
頭の方がガンガンと痛く、とても悪い夢を見ていたそんな寝覚めの悪さを覚えていた。
「ジルダは...?」
やっと少し落ち着きを取り戻し、マダラにジルダの安否を聞いた。
「ジルダ様は奴らに連れ去られてしまった...」
「すまない、俺の力不足だ!」
マダラは頭を下げ、新に謝った。
「いや、マダラのせいじゃねーさ!」
「俺も奴らには痛い目に遭ったしな...」
新は舌打ち交じりにそう告げた。
ふと、新は自分の頭の中で聞こえた声で気になったことをマダラに尋ねた。
「なぁ"王権"って知ってっか?」
「王権だって?王権といったら、王位継承者が代々その領地を支配するための権利のことだが――それがどうかしたのか?」
「奴らジルダからその"王権"を奪うつもりだ!」
「なんてことだ...そんなことをされたら、我が国の民は奴らに心臓を握られたも同然となる!」
マダラはワラワラと震えた。
「支配権を握られるということは王権を持つ者に命令されたら従うしかないということ...」
「なぁそれってその王権持った奴が"死ね"とか言ったら、従うしかないわけ?」
新は純粋な疑問として浮かんだので聞いてみた。
「いや、元々"王権"という物は神が選んだ者に統治者として授けたもので、そう言った直接的な命令はしても意味がない、というよりも"死ね"といった所で、効力はでないさ」
「だが、そんな直接的な命令は下すことができずとも、民を殺すことはできる...―――例えば税を極端に増やすとかな、それをされただけで民は奴隷と何ら変わらなくなり、過労死で死ぬとかは普通にあり得る」
「ってことは結局かなりヤベー状況ってことになるわけか...!」
新はどういう状況なのか理解した。
「だったら、さっさと助けに行かねーとな!!」
「助けに行くってまさか...ジルダ様を!!」
マダラはとても驚いた表情で言った。
「俺が言うのもなんだが、新がそこまでする義務は本来ないんだぞ!」
「これは俺達ドラコミシア全体の問題で、新は元々部外者だ。そんな命の危険を冒してまで我々を助ける必要はないんだぞ」
「あぁ?アイツらにこんなボコボコにされたまま終われっかよ!てか、俺ここの国けっこー気に入ってるしよ、ここの奴らの笑顔が奪われるなんてたまんなく嫌なんだわ!」
新は笑いながらそう答えた。
「フフ、俺はてっきり自由が~とか面倒だから~とか言ってどこかに行くのかと思っていたぞ!」
マダラは少し、ニヤッとしながらそう言った。
「あ~確かに以前の俺なら言っていたかもな...でもさ、俺の親友だったら、ここで自分の"正義"のため~とか言ってジルダちゃん助けに行くんだろうなとか思うと、なんかここで俺が行かなかったら負けたみてーじゃん!」
「そうか、ならその親友に感謝しないとな!」
起きた時は深刻な表情をしていた二人だったが、少し笑う余裕が出てきたようだった。
「勝算はあるのか?」
マダラが聞いた。
「分からねー...いや待てよ、さっきオレがボコボコにした"アイツ"...アイツなら何か知っているかもしれねーな!」
「アイツ?」
「ああ、マダラはここにずっといたから知らねーのか―――ここに来る前に一人アイツらの仲間ボコったんだけど、そいつがまだ街の方にいるハズなんだ!ちょっと行ってみるわ!」
新はそう呟き、サッと立ち上がり、街の中心街の方へと走り出した。
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~クロヴィス城 応接室~
「ただいま~!!」
元気よく、クロヴィス城の応接室の扉を開ける者がいた。"ジャハンナム"の一人、ヴィクトル、そしてその後ろに付いてくるようにメルクロフとキルも応接室に入っていた。そこには既に、二人の魔族がいた。
「あれ?少し遅かった?メルクロフがいるのに珍しいこともあるんだね」
「二人とも疲れたでしょ?お茶でも飲む?」
「やった~!モロネェの入れたお茶は絶品なんだよね!!」
ヴィクトルは走りながら、その女の魔族の横に座る。
ソファーに座りながらお茶を用意する女の魔族、モロトルフ:通称モロネェ イカれたメンバーの多い"ジャハンナム"唯一の常識人であり良心、他のメンバーからは姉のように慕われている―――
「って誰に言ってるのヴィクトル!!てか、私の胸を握るな!!」
ヴィクトルはまるで、ナレーションのようにモロトルフを紹介しながら、モロトルフの胸を握る。
モロトルフは少し、怒りながらヴィクトルを叩く。
「えへへ~!やっぱりモロネェのおっぱいは柔らかくていいね!」
「てかボクを叩いても意味ないの知ってるでしょ?」
全身の95%が液体でできているヴィクトルに打撃は意味をなさない。同じ"ジャハンナム"のメンバーであるモロトルフも当然そのことは知ってはいるが、それでもいきなり胸を握ってくるヴィクトルを叩かずにはいられなかった。
「ベリヤンもそんなところにいないで、一緒にお茶飲もうよ~!」
ヴィクトルにベリヤンと呼ばれた魔族―――ベリヤ=ラブレン:通称ベリヤン 何故か10畳以上あるこの応接室の中で一人突っ立ている。いや突っ立ているというよりも挟まっているという方が正解であった。本棚と戸棚の間で。
「デュフフ...で、で、でき、できればお茶を誰か持ってきてもらえると有難いのであるが...」
その余りにも気持ちが悪い返事にヴィクトルは一人腹を抱えて爆笑する。
「ベリヤンは相変わらずだな~いいよボクが持っていくよ~!!」
そう言い、ヴィクトルはお盆の上にお茶とお茶菓子を乗せ、ベリヤに届ける。
「デュフフ...ヴィ、ヴィクトル殿も相変わらず、可愛いでござるな~!今度一緒にお茶でもいかがかな?」
「ええ~ボク~?言っておくけど、ボクは女の子みたいな恰好してるけど、女でも男でもないよ~!!」
「か、構わないでござる!!可愛いは正義!!」
「へへ、じゃあ今度一緒にデートしようか!!ボクもベリヤン大好きだし(見てる分には面白いから)!」
「し、し、シャーーーーアァ!!!!YES!!YES!!」
ベリヤは家具に挟まりながら、ガッツポーズをして叫ぶ。
「それは、それとしてさ...バルバスはどうしたの?姿が見えない様なんだけど...」
モロトルフはそれとなく尋ねた。
「実はそのことなんだが...」
メルクロフがその重い口を開いた。