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第124話 ピンチの時に知らない声が聞こえたらそれはもう主人公【唯我 新side】


~ドラコミシア王国 宮殿内~


 「14:28、ふむ、想定外の邪魔が入ったが、14:30にはジルダ王女を連れて仲間の元へ行けそうだな」

 メルクロフはポンポンと肩に乗った砂埃を手で払い、銀の装飾を施された自身の懐中時計を見てそう呟いた。辺りを見渡すと、既に宮殿内は新の攻撃の衝撃によって半壊と言っても過言ではない状態だった。メルクロフは懐中時計を胸ポケットにしまい、血だらけになって倒れている新に背を向け、ジルダ王女の方へと歩を進め始める。

 

 「新!!立つのじゃ!!」

 「其方が言ってたことじゃろ!!『俺は今もこの先もずっと自由に生きる』と!!」

 ジルダは数日前の新との出来事を思いだす。

 

――――数日前――――

 満天の星空、一寸の曇りもない満月、新とジルダはドラコミシア王国周辺で一番高い山の山頂付近にやってきていた。そこで、ジルダは月の明かりに照らされて美しく輝く花々を目撃した。

 

 「なぁ新よ...妾はこんな美しく咲く花を見たことがない...」

 ドラコミシア王国は基本的に乾燥地帯であり植物が生えるには少々難しい環境であった。この山頂付近だけはその天候の影響をあまり受けず、綺麗な花々が咲いていた。故に自国からほとんど出たことのないジルダはこんな風に綺麗に咲く花々を今まで見たことがなかったのである。

 

 しゃがんで花々を眺めるジルダの横に立つ新はこう言った。

 「花だって自分の生きやすい環境に生える」

 「ムリヤリ息の詰まるような環境に身を投じて生きたりはしねーんだよ!もっと自分の生きたいように、自由に生きりゃーいんだよ!!」

 

 「自由にとな...?」

 ジルダはキョトンとした顔で新に聞いた。

 

 「ああ、自由にさ!ジルダちゃんだって女王って立場でずっといたら肩の荷が重くなっちまうだろ!!」

 「だったら、いっそそんな立場ほっぽり出して、外の世界に行きゃいいんだよ!!」

 

 「しかし、それでは残された民はどうなる?私の我儘で民の生活は保障されないだろ?」

 

 ジルダが当たり前のことを聞いてきたので、新は頭をポリポリと掻き、答えた。

 

 「そんなもの他の奴に頼ればいいさ!」

 「自分の国のことなんだ、自分の国の...一緒にいる奴のことをもっと信頼したらいい!!」

 「それにな...俺はこの国の奴らはそんなに弱かねーと思うぜ!みんな王女様がいなくても急に生活なんてそんな変わんねーよ!」

 「みんな必死に働いて、家族を守って、そんで笑って暮らす!そのサイクルは変わんねーさ!」

 

 それを聞いてジルダは少し、凹んだ。

 「そうか...それは少し寂しい感じがするな...」

 「それでは妾はなんのために今まで頑張ってきたのか...分からなくなりそうじゃ」

 

 そんなジルダを見かねて励ますように新はこう続けた。

 「でもさ...もしもこの国のみんなが困った時、明日の先も見えなくなりそーな時にジルダちゃんがみんなを引っ張って行く!それでいんじゃね?」

 「その時が来るまで、ジルダちゃんはどっしりと構えておく、んで時々サボってどこか遠くに行くでいいじゃんか!!」

 新は軽い感じでそうジルダに言った。

 

 「いいのか...それで?」

 

 「ああ?いいんじゃね?」

 

 「軽いんじゃな」

 

 「死んじまったらそれこそ終わりよ!だから自由に生きた方がいいって」

 

 「なら、聞くが妾が自由に生きたとして、それで妾がピンチに陥ったら共に戦ってくれるか...?」

 

 「あ~それは...分かんねーや!」

 「なんせ俺は今もこの先もずっと自由に生きる!そう決めてるからな!」

 

 「なんじゃそれは、無責任じゃな!」

 二人は顔を見合わせて、クスっと笑っていた。

 

―――――――――――


 「新!!立つのじゃ!!」

 「其方がこれからも自由に生きるんじゃろ?こんな所で倒れていていいのか!!」

 ジルダは必死に倒れている新に呼びかける。

 

 (フン!無駄なこと、奴は私の上限無しの反撃アンリミットカウンターを受けた。それも私の盾が砕け散る程の衝撃を先ほどその身に全て受けたのだ、もはや息はしていないハズ)

 

 そう考え、メルクロフは一歩また一歩とジルダに近づく。その時だった。

 

 

    "ガラララァ!!"

 

 倒れている新の方から、何やら瓦礫の崩れる音がし、メルクロフの足元に小さな瓦礫の破片が転がってきた。メルクロフに戦慄が走った。

 額からは一筋の汗が垂れ、唾をゴクリと飲んだ。恐る恐る、メルクロフは倒れた新の方へと振り返った。そこには血だらけになり、白目を向いた新が立っていたのである。しかし、その意識はまだ戻ってはいないようで、腕はダランと垂れており、全身の力は抜けているようだった。

 しかし、目の前に立っている新に釘付けになっていた。その余りにも不気味なその雰囲気に。

 

 (な、なんだこの男は...化け物か...?しかも、目が離せない!何故だ!既に奴は立っているだけで、意識はないそれなのに何故、まだ何かするようなそんな雰囲気を感じる...?)

 

 メルクロフはその不安を払拭するため、新にトドメを刺す決心をする。

 

 


 メルクロフが新にトドメを刺す決心をするその時、既に意識のない新の脳内ではある言葉が聞こえていた。

 

   "なにをこの程度の相手に苦戦をしている!!お前の力はその程度では無いはずだ!"

 

 (あぁ?誰だ!そんなこと言う奴はよ!?)

 

 脳内で新はキレたように返事をする。

 

   "オレが誰かは今はどうでもいい!それよりもお前の身体を構成する最強の細胞の力はそんなモノではないはずだ"

   "オレを失望させるなよ...!!"

 

 (最強の細胞だと?テメェ何言ってやがる!!)

 

   "もっと強く渇望しろ!!そうすればお前の持つ超人の力が応えるだろう!!"

 

 (渇望だと?俺の意思の力、気合がまだ足りねーってのか?)

 

   "まぁそうなるな、もっと敵を恨め!!聞こえないか?貴様を呼ぶ声が!アレを助けたいだろ?"

 

 (確かに聞こえる...あれはジルダちゃんの声だ!!)

 

   "貴様がこのまま戦わなければあの王女様は魔族の連れていかれ、王権を取られる、そうしたらどうなるか...まず、あの王女様は殺され、この国の民も皆殺しにされるかもしれない...それは嫌だろう?"

 

 (嫌に決まってるだろうがよ!!!!!)

 新が渾身の魂の叫びをした。

 

   "そうだそれでいい!その渇望が貴様に力を与えるぞ!!"

 新にはその声がどこか嬉しそうに聞こえた。

 

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