第122話 エレベーターに乗ったら異世界に来て喧嘩に巻き込まれた件⑨【唯我 新side】
~ドラコミシア王国 宮殿内~
「ホラ!ホラ!ホラ!もっとボクを楽しませてよ!!」
「クッ、女の癖になんて力だ...!」
ヴィクトルは右手を刃に変形させ、マダラを追い詰めていた。
ジャハンナムのヴィクトルは、自身の体液を固形化し、鋭い刃物の武器にしていた。ヴィクトルは上位のスライムである。自身を様々な個体へと変化し、どんな容姿、どんな体型になれ、さらに身体を溶かし、再構築することで様々な武器を作ることができる。様々な戦場に赴いては、自身の体液のみを武器にして戦うことから"絶対液体"と呼ばれていた。
「ちなみに僕は女でも男でもないよ!」
「典型的なスライムさ!」
そう言って、自身の顔をダンディな男に変えてみたり、少年のような顔に変化させてみた。
「我は偉大な竜の血を引く戦士"マダラ"!」
「仲間の仇を取るため貴様を討つ!!」
「貴様のようなスライムに負けるわけにはいかん!」
マダラの宣言に対してヴィクトルは大きな溜息をついた。
「ハァ~!!お兄さん、今ボクのことスライムだからって舐めたでしょ!!」
「ボクはお兄さんみたいな人今までたくさん殺してきたの!」
「ちなみにお兄さん既に詰んでいるよ!」
ヴィクトルはマダラの足元を指差す。そこにはさっき他の兵士たちに対して放った。ヴィクトルの体液が集まっていた。
「グッ、なんだこれは...!?」
マダラは足を取られ、ヴィクトルの体液がどんどんマダラの身体を這い上がっていく。マダラは次第に体の自由が取れない状況に陥っていた。
「ちなみにボクの右手はどんなものでも触れたら消化することができるんだ!!」
そう言って、周りの兵士の死体に触れていく。ヴィクトルの右手は兵士の死体を次々と飲み込んでゆく。
「まっ、大抵は抵抗されちゃうんだけど、お兄さん今身動きが取れないでしょ!」
「クフフフ...美味しそう...」
ヴィクトルは妖しい笑い声を漏らしながら、マダラへと近づく。
「久しぶりに生きたままのリザードマンだからね...ジュルッ」
涎を垂らしながら、マダラの眼前まで近づき、右手を振り上げた。マダラはもうダメだと思った。その時だった宮殿の天井がガラガラと音を立てて崩れた。崩れ落ちる瓦礫の中から現れたのは新だった。
「いや~まいったぜ!途中からジャンプした方が早いかと思ってジャンプしたら、思った以上に飛んじまったぜ...」
そんな呑気なことを言って現れた新だったが、周りのリザードマンの死体を見て、表情が一変した。
「強烈な血の匂いがするからまさかとは思ったが、これやったのはテメェらか?」
新はヴィクトルと後ろのメルクロフを睨む。
「そのゴミたちを殺ったのはボクだよ~えへへ~綺麗な血でしょ!!」
「コイツら雑魚だけど肉は美味しんだ~」
そう言って、リザードマンの死体を捕食し始める。
ドカッ!!
ヴィクトルは戦闘中に相手の神経を逆なでする発言、行動をすることはあっても、それは決して油断をしていたわけではない。いつも相手の間合いをキチンと把握したうえで、攻撃をされても絶対に避けられる、そう確信した距離を常に保っていた。それは幼いころから六魔将モレクに戦闘を仕込まれてきた、ジャハンナムなら誰でも呼吸をするようにできたことだった。しかし、この時ヴィクトルはおろか、後ろにいたメルクロフまで、目を見開くほどの衝撃を覚えたのだった。
新のゲンコツがヴィクトルの脳天を撃ち、ヴィクトルが地面にめり込んだのだった。
「カッハァッ!!」
スライムであるハズのヴィクトルは強い衝撃を受けそうな時、必ず身体を別の生き物に変形して急所を守るようにしてきたが、新のゲンコツには反応することすらできなかった。それによって、絶対にすることのない吐血をしてしまったのである。
地面に叩きつけられたヴィクトルは、自身の血を見てワナワナと震えた。初めて見る自分の血に動揺をしていたのだ。
「エッ!ナニコレ...??」
「これからテメェをひたすら殴り続ける!好きなだけ血を見せてやるよ!!」
新はそう宣言し、右手をボキボキと鳴らした。