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第114話 エレベーターに乗ったら異世界に来て喧嘩に巻き込まれた件①【唯我 新side】

挿絵(By みてみん)

~K県K市大和町 私立神代学園~


 ここは、進たちが通う私立神代学園―――――全校生徒数2000人以上、幅広い分野の科目、コース選択があり、生徒一人一人に適したレベル別の先進授業、所謂マンモス校である。そんな高校の1年1組に中学時代最強のヤンキーとして、名を馳せた男がいた。それがツンツンの金髪にピアス、見るからに不良な少年のこの男、唯我新ゆいがあらたである。中学時代に天童進との勝負に敗北し、それ以来、進の親友としてその牙を隠して...否、誰にも気づかれないようにひっそりとその牙を研いで生活をしていた。いつの日か進にリベンジを果たすため―――――

 

 夏も終わり、秋到来という今日この頃、1年1組の数学の授業中にそれは起こった。最初はクラスの誰もが地震だと思った。教室全体がミシミシと音を立てて、揺れ始め段々とその揺れは激しくなり、終いには震度4、5程度は揺れていた。

 

 「お、おい地震か!?みんな机の下に避難しろ!」

 数学担当の石橋先生は、授業を中断し、クラスのみんなに机の下に隠れるように言った。そして、みんなが机の下に隠れ始めた時に、ふと教室右奥の窓際の席、所謂ラノベの主人公ポジションに座っている生徒を見て、自身の目を疑った。石橋自身そんな筈はないと思いつつ、その生徒に対して一言言い放つ。

 

 「おい!唯我!その貧乏ゆすり・・・・・を止めろ!!」

 石橋が新に対して怒鳴る。

 

 「ああん?」

 

 新のその貧乏ゆすりがピタリと止まり、その瞬間教室内の揺れも止まった。新は怒鳴られたことで、石橋の方を睨み、教室内は妙な沈黙が続いた。

 

 実際は数秒ほどなのだが、その沈黙は数分程度続いていたのではないかとクラスにいた他の生徒達は感じていた。

 

 ここ数日同じクラスの進が謎の欠席をしており、スマホでも連絡が取れない状況にあった。新はそのことに非常にイライラして、その結果がこの貧乏ゆすり・・・・・だったのだ。

 

 新と石橋の睨み合いが続く中、新の席の近くの窓に何度も小石がぶつかるような音がした。新はその音に反応するように窓の外を覗き込んだ。すると、そこには同じ一年生の朝霧鏡花あさぎり きょうかの姿があった。向こうはこちらが気づいたことに対して、笑顔で返してきた。

 

 (アイツは確か、天童と同じ部活の...朝霧鏡花?)

 

 朝霧が自分の席の近くに小石を投げてまで反応を伺っているのを見るに、どうやら俺に用があるようだと分かった。

 

 新はその用が何か気になったので、授業中とは言え朝霧の元へと行くことを決めた。席を立ち自身の椅子に掛けてあった学ランを手に取り教室から出ようとしていた。

 

 「お、おい!唯我!!どこに行く!」

 突然教室を飛び出そうとした新たに石橋が切れ気味に言った。

 

 「ワリィ!先生!俺用事があるから、しばらく戻ってこないわ!」

 新は石橋に軽く右手でゴメンと謝って教室を飛び出した。

 

 「おい!待て!まだ話は終わっていないぞ!!」

 石橋の注意も虚しく、新を止めることは教室にいる誰にもできなかった。そして、クラスの全員がアイツ自由過ぎるだろと思わずにはいられなかった。

 

~私立神代学園 校舎裏~

 

 朝霧に連れられ新は校舎裏に来ていた。

 

 「で、俺に用事があるみたいだったけど、何の用だ?」

 「まさか授業そっちのけで、1年生でも屈指の美少女である"朝霧鏡花"が俺に愛の告白するってわけでもないんだろ?」

 朝霧はクスクスと笑いながら、新の問いに答える。

 

 「そうね、私は天童君が学校を休んでいる理由を知っているわ!そして、どこにいるかも」

 朝霧の発言に新は喰いつかずにはいられなかった。

 

 「ホントか!?どこにいるんだ?」

 「てか、もしかして未央ちゃんが失踪したことも関係あったりするのか?」

 「未央ちゃんが誘拐されて~それを天童が助けに行ったとかなら普通にありそうだが...」

 新は朝霧の肩を掴み、問い詰める。

 

 「ふふふ、レディに対して積極的なのね!嫌いじゃないわ」

 新はハッと気が付き、両手を朝霧の肩から離す。

 

 「わ、わりぃ...つい興奮して」

 

 「天童君に会わせてあげるから、ちょっと付いてきて」

 そういい、朝霧はスタスタとどこかへ向かい始める。その後に続くように新も歩き始めた。そして、校内を出て、しばらくした後この大和町で一番高いビルの前にたどり着いた。

 

 「おいおい、朝霧ちゃん、ここって天童の...」

 新はここがどんなところか知っているようだった。いや、新だけではなくこの町の人なら誰でも知っているそんなところなのだここは―――――この町を全国区の有名に引き上げている天童グループ、このビルは本社なのである。

 

 確かにここなら、天童はいるかもしれないそう唯我は考えた。

 

 「唯我君、さっきの質問なんだけど、答えはだいたい合っているわ!」

 

 「さっきの質問?」

 新はすっかりさっき聞いたことを忘れているようだった。

 

 「ほら、さっき言ってたじゃない?未央ちゃんを助けるために天童君が行動している~とか」

 

 「天童君!凄かったわよ!未央ちゃんがある犯罪組織に捕まって身代金を天童君の家に請求してきたの」

 「天童君と未央ちゃんて幼馴染じゃない?それでその犯罪組織は未央ちゃんを誘拐すれば多額の金が手に入ると思ったのね、浅はかでしょ?」

 「それで、天童君はここ数日未央ちゃんが助けるため、このビルの最新鋭の技術を使ってその犯罪組織の居場所、未央ちゃんの居場所を探っているってわけ」

 朝霧は進がなぜここ数日学校を休み、姿を見せなかったのか新に説明した。それっぽい説明をしているが、この説明は真っ赤な嘘である。実際の所、進は異世界ヌバモンドに行き、未央を連れ戻すために学校を休んでいるのである。

 

 「ああ、てか本当にそうなんだ!?やっぱりアイツは好きな女の為に全力で助ける俺が唯一認める"真の漢"だぜ!!」

 唯我は額から流れる汗を拭いながら、進の行動に感心する。新は割と単純な奴なので、この明らかに怪しい朝霧の言葉を簡単に信じてしまった。

 

 ただ、このビル真昼は当然、警備が敷かれており、部外者である新は入ることができない。

 

 「おいおい、朝霧さんよぉ、ここにはどうやって入るつもりなんだ?」

 「まさか、進君の友達です~なんて言っても、ハイそうですかで入れないだろ」

 

 「ふふふ、大丈夫よ!私に付いてきて」

 そう言い、朝霧は躊躇することなくビルに入っていった。途中の警備員には何故か持っている入館証のような物を見せて、何事もなく入ることができた。

 

 「何でそんなもん持ってんだよ!!」

 いくら進と同じ部活に所属しているとは言え、部外者である朝霧が進の家の会社の入館証を持っているのは明らかにおかしい。そのことについて聞いて朝霧はヒミツとしか言わなかった。そうこうしている内に二人はエレベーターの前まで来た。

 

 「エレベーターに乗ったらなんだけど、4階、2階、6階、2階、10階って移動した後に5階に行って!」

 「そして、その時に女の人が乗ってくると思うんだけど、その人には話しかけたり、見てはダメよ!」

 「最後に1階のボタンを押してね!」

 朝霧は突然意味の分からないことを言い出し、新は何が何だか分からなかった。

 

 「えっ、は?」

 「何それ、俺、天童に会いに来ただけなんだけど?それに何の意味があんの?」

 

 「エレベーターって監視カメラがあるって知ってた?」

 「どこからその犯罪組織がハッキングとかして見ているかわからない、最初の階層移動はその犯罪組織を撹乱するためのもので、後から乗ってくる女性は天童君の味方で、貴方が乗るって事は天童君がその犯罪組織に対して攻撃を仕掛ける合図でもあるのよ...」

 「天童君はいずれ貴方がここにやってくるって知っていたわ!そして、天童君は言っていたわ、唯我君ほど頼れる漢はいないって!!」

 

 「ま、まさか...アイツがそんなことを言っていたのか...!!」

 新からしたら、それは嬉しくも思い、衝撃的でもあった。進から実は頼られていたこと、朝霧から告げられた手順、聞いたときは全く意味が分からなかったが、天童の思惑にはそんな深い意味があるのかと...。


 新は都市伝説に興味がないため、このエレベーターの乗り方が異世界に行くための方法とは当然知る由もなかった。そのことを朝霧は知っていたので、朝霧からしてみたら新を騙すことなど容易でしかなかったのである。

 

 「ま~天童を助ける為だ!仕方ねぇな!!やってやるぜ!!」

朝霧が一通り説明を終えたタイミングでエレベーターの扉が開いた。


 「あれ、朝霧ちゃんは乗らないの?」

 

 「私は後から行くわ!他にやることがあるの!」

 

 「へぇ~そうなんだ!分かった、じゃあ先に行って天童の奴を驚かせてやるぜ!!」

 

 朝霧から告げられた手順を試そうとルンルン気分で新はエレベーターに乗り込んだ。

 

 エレベーターの扉が閉じたことを確認した朝霧はほくそ笑みながらポツリと一言呟いた。

 

 「異世界に行ってらっしゃい...」

 

 

 


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