第106話 アーク教典
~神殿騎士第七師団駐屯地 西棟通路~
「ふぅ...」
マリー神殿騎士たちとの闘いを終え、一息つくとは言っても周囲は神殿騎士たち数人分の死体があり、とても血生臭い状態だった。一刻も早く進たちと合流したいという思いはあったのだが、リオンにエリクジャーを託したことでマリー自身の回復アイテムはもう所持していなかった。今進たちと合流しても自分は足手まといになる可能性さえあったので、ここで一休みせざるを得なかった。
とそんな時に、近くから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「マリー君!!無事だったか!」
そこに現れたのはガシャドクロとの戦闘を無事終えたフラムであった。
「フラムさんの方こそあの化け物を倒したんですね!」
フラムが無事だったことを喜ぶマリーであった。
「ああ、中々の強敵だったけどね」
「マリー君の方こそ、うわぁ!」
辺り一面に転がっている神殿騎士たちの死体を見て、フラムは動揺した。
「そっちこそ結構派手にやったみたいだね...」
「ええ、まぁでも思ったほど強くなかったですよこの人たち」
マリーは余裕そうな表情で答えた。
(マリー君強くなりすぎだろ...これからは安易に怒らせない方がいいな...)
内心でそう思うフラムであった。
「これからススムさん達と合流するつもりですけど、フラムさん回復アイテム余ってたりしませんか?」
マリーがフラムに尋ねた。
「ん、ああ簡易ポーション程度なら持ってるよ」
「ちょっと待ってて」
そう言ってフラムは懐のアイテムポーチからポーションを取り出し、マリーに与えた。
「ありがとうございます!」
ごくごくと飲んで、みるみるマリーの体力は回復していった。
「よし、じゃあ一緒にススム君の元に行こうか!」
こうして、フラムとマリーは進の元へと急いだ。
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~神殿騎士第七師団駐屯地 団長室~
死に物狂いで何とか自室へとたどり着いたガリアであった。そして、自分の机の引き出しにしまってある本をその左手に収める。
「ハァハァ...これさえあれば...進を殺すことができる!」
「このまま黙って死ぬのは俺のプライドが許さない!」
そう言って、ガリアは本を開いた。その本は外装は漆黒で不気味な雰囲気を醸し出し、中を開くと文字一つ記載されていない不思議な本だった。全くの白紙に自らの血を垂らす。すると、その本にはガリアの血で忽ち文字が記載されてゆくではないか。
ガリアは歓喜した。あの伝承は本物だったのだと...。
「さぁ甦れ古の魔神よ!!!」
「我に力を与えよ!!!」
その本から漆黒の霧が吹き出しガリアを包む。
「汝、力を欲するか」
不気味な低い声がガリアの脳内だけに響く。
「ああ!!この魂を糧に俺は力が欲しい!この世界を滅茶苦茶にするだけの力が!!」
「そうか...ならば貰うぞ!汝の魂を!!」
ガリアを包んでいた漆黒の霧はガリアの体内へと吸収されていった。
「グオオオオオ!!!」
「溢れてくるぞ!止め処なく力が溢れてくる!」
「これが魔神の力か!」
団長室にある大量の資料や本、家財は全てガリアの周囲から巻き起こる突風により吹き飛ばされていく。
ガリアの体は、漆黒へと変貌し、体中は蛇のような鱗に包まれ、爪は長くなり、髪は伸び肩まで達し、ドラゴンのような尻尾まで生え、全身斑模様へと変化した。その姿は魔族のそれに近く、溢れんばかりの魔力をその身に纏っていた。
「コレが魔神の力か!素晴らしい!」
「待っていろロザリー!」
「今からお前を殺したこの世界を恐怖のどん底へと堕としてやるからな!!」
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~魔王城 未央の寝室~
その夜、魔王城では、未央がベッドでグッスリと眠っていた。未央に取り憑いている先代魔王のアリスもプカプカと気持ちよさそうに眠っているのであった。
その時、霊体であるアリスは確かにその強大な魔力の発生を肌に感じていた。
「ムッ!これは紛れもなく」
「アーク教典の魔力!!」
「おい!起きろ未央よ!」
アリスは大声で未央を起こす。
「う~にゃ...な~にアリちゃん!」
「まだこんなに暗いよ...!」
眠気眼を擦りながら未央はアリスに答える。
「緊急事態だ!至急リカント達を集めろ!」
「んにゃ?」
こうして、急遽リカントと魔王城に残っていた他の六魔将である、ハイロン、エレナが集められた。
「他の六魔将はすぐには来れない様ですか...」
「まぁ仕方ありませんね...」
リカントが話し合いを始めようとする。
「それで未央様!何故我々は急遽この場へと集められたのでしょうか?」
リカントが尋ねるので未央は答えようとする。
「え~こほん!実はですね!ここより南の地である聖王国のある場所で"アーク教典"が使われました!」
(実は私もその"アーク教典"が何かはそんなに分かっていないんだけど...。)
「アーク教典ですと!!」
上位のリッチであるハイロンがいの一番にアーク教典に反応を示した。
「愚かな人間どもが!あの忌まわしき遺物をまた使用するつもりか!!」
リカントは怒りからプルプルと震えていた。
「う~ん...ハイそこハイロン君!私にアーク教典が何か説明して!」
よく状況が分かっていない未央は、そのリカントとハイロンの反応から只ならぬ予感がしたのでハイロンにそのアーク教典が何であるか説明を求めた。
「ハッ!未央様!アーク教典とはかつて人間が魔神の魂を封じた禁断の書物でございます!」
「人間がその書物と血の契約を交わすことで恐ろしい力を手に入れることができるとされています!」
「恐ろしい力...?」
「それは魔王である私よりも...?」
「ハッ!それは...物によります...」
「も、物によるって...その"アーク教典"は複数あるってこと?」
「そうですね、私もいくつあるかまでは存じてないのですが、恐らく1冊ではないでしょう」
ハイロンがそう答える。
「で、その魔神の力ってのはどれくらい強いわけ~★」
エレナも興味を持ち、ハイロンに尋ねる。
「奴らの強さはレベルではなく脅威度という指標で表されます」
「脅威度:1は国を一つ滅ぼす程度」
「脅威度:2は大陸を一つ滅ぼす程度」
「脅威度:3は世界を滅ぼす程度」
「とされています!」
「てことは、六魔将なら何とか脅威度1までなら対処できるってことかしらね~★」
それでエレナは納得する。
「そうだ!もし脅威度3の魔神が現れた場合、未央様でさえ倒すことは困難を極めるだろう!」
「だからまず今回現れた魔神の脅威度を確かめてきてほしい!」
「未央様我々の中から誰を指名しますか?」
リカントは未央の指示を仰いだ。
「話が大きくなりすぎて、ただの女子高生であった未央には処理が追い付いていなかった」
すると、横からアリスが戦闘力がこの中ではリカントの次に強いエレナを行かせるのがいいと助言をしてきた。
「う~んそうだな!じゃあエレナちゃん!行ってきてもらえるかな?」
「あっ、私か~そうね~いいわよ~★」
そういって、軽いリアクションでエレナは転移のスキルを使用し、その魔神が現れたとされる付近まで一瞬で移動した。
「よろしかったのですか?」
リカントが若干の不安を残したかのように聞いてくる。
「まあ、エレナちゃんの魔力量はここからでも分かるし、大丈夫じゃないかな」
そう言った、未央も不安が全くないというわけではなかった。