第105話 それぞれの戦い
~神殿騎士第七師団駐屯地 西棟~
進がガリアを圧倒しているその一方、瓦礫の山と化した神殿騎士第七師団駐屯地西棟でフラムとベルデが召喚したガシャドクロ-オーバーと戦っていた。
「赤魔法:フルブレイズ!」
フラムの熱線魔法がガシャドクロに命中するが、ガシャドクロの表面は強力な魔法によるコーティングがされているようで、フラムの魔法は全く効いていないようだった。
「クッ!全然効いていないみたいだ!」
「グガアアアアア!!!」
ガシャドクロの巨大な腕によるパンチが繰り出される。直撃は今のところ避けてはいたが、ドカンとまるで空から鉄球が降ってきたと言わんばかりの衝撃がフラムの全身に伝わる。
「こっちの剣も魔法もまるで効いていない...」
「あのベルデという男、とんでもない化け物を置いていきやがった」
ガシャドクロも自分の攻撃を悉く避けられていることに段々苛立ちを覚えているようで、攻撃の連打に切り替えてきた。
ドカンドカン空から爆撃が落ちているかのような衝撃がいくつもフラムに向けられた。
「流石に、何度も何度も...これではいつかはこちらがやられてしまう...」
空からの攻撃を何とか耐えていると横からガシャドクロの蹴りが飛んできた。
「クッ!しまった!!!」
ガシャドクロの蹴りが直撃し、フラムの腹からゴキゴキと鈍い音を立てた。
「グハァ!!!」
フラムは吐血し、腹を抱えながらガシャドクロに対しての戦意を失ってはいなかった。
「ハァハァ...以前の俺だったらここで戦意が尽きていたかもしれんな...」
「やはり世の中はまだまだ俺より強い奴がたくさんいるみたいだ...」
フラムは懐から進からもらったエリクジャーを取り出す。
「ススム君、君から貰った傷薬ありがたく使わせてもらう!」
フラムはエリクジャーを飲み、傷を回復させた。
「おお!!聞いてはいたがとんでもない回復力だ!!傷と共に魔力まで回復するなんて!」
「よし!これならやれる!!!」
フラムはこの国に来る前に進と戦闘の訓練をしていたときのことを思い出す。
---3日前---
フラムは進から、強くなるためのレクチャーを受けていた。
「フラムさん、貴方のフルブレイズはどの位の温度か分かりますか?」
「温度??」
フラムは温度の概念を知らなかった。と言うのもこの世界ではあまり科学は発展していないので、フラムだけが特別そういった教養に疎いという訳ではないのだが。
「温度というの簡単に言うと物がどれだけ熱いか冷たいかそれを数値で表したものです」
「例えばこの水、この水は常温なので大体今20~30度程度です」
「へぇそんな風に表せるのか!?」
フラムはその概念に素直に感心しているようだった。
「で、話を戻しますが、フラムさんのフルブレイズの温度なんですが何度だと思いますか?」
「う~ん500度くらいかな?」
フラムがパッと思いついた適当な数値を言う。
「フラムさんのフルブレイズはオレのスキル鑑定で見たところ、2000度ありました」
「2000度!?そんなに高いのか!!」
フラムは自分の魔法の強さを今まである程度にしか把握していなかったようだった。
「そうです!ここからが本題なのですが温度が高い、それすなわち強さだと自分は考えています」
「そして、これ以上の温度を出すための方法をこれから教えようと思います」
「そんなことが出来るのか!?」
フラムは進の説明に息を呑んだ。
「はい可能です!」
「なんせ人類は科学の力で原子力爆弾を開発しました」
「なので、魔法の使えるこの世界ではこれ以上の物が個人の力で発現可能だと自分は考えています」
「原子力爆弾?」
「そうですね、原子力爆弾の温度が大体5000~10000度に及びます」
「そして、全ての生き物を殺す為、オレのいた国では持つことすら禁止されています」
「そ、そんな温度が出せるのか...ぜひ教えてくれ!」
フラムが進の肩を掴み、必死に教えを乞う。
「ええ、教えましょう!」
「まず、温度と言うのは原子や分子のぶつかり合いによって高くなったり低くなったりします」
「原子や分子?」
「原子や分子と言うのは全ての物質を構成するミクロな物です」
そう言って、原子や分子の説明をするため進は錬金で作成した紙に絵を描いて説明を始めた。
「そうだったのか...!」
ある程度の説明を受けたフラムは妙に納得したようだった。
「で、ここからが重要なんですが先ほどの説明にもあった原子力爆弾っていうのは原子核にある中性子を他の陽子をぶつけて不安定にその原子核を壊します」
「それによって熱エネルギーを発生させます、壊れた原子核あった中性子とぶつかった中性子がまた他の原子核に飛んでいき陽子にぶつかり、また原子核を壊し熱エネルギーを発生させます」
「それの繰り返しによって爆発的な温度を発生させるっていうのが原理ですね、これをオレのいた世界では核分裂と言います」
「まぁつまり何が言いたいかっていうと、流石に核分裂は難しいので、分子や原子の運動の活性によって高い温度が生まれる、そのイメージをまずは固めていきましょう」
それから俺の特訓が始まった...。
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「短いながらも格段にレベルアップしたよ...ススム君!!」
ガシャドクロは吹き飛ばされたフラムに向かって追撃をするため全力で走ってくる。
「試させてもらう!ガシャドクロお前は俺の炎が効かないと思っている」
「だから新しい俺の魔法を見せてやるよ!」
「紅魔法:プロミネンスウェーブ!!!!」
フラムは両手を前に広げ、そこから高温の熱線が扇状に噴き出し、ガシャドクロに襲い掛かる。
「ガガガ、、、ガアアア!!!!」
ガシャドクロ-オーバーはフラムの両手から放たれた熱線によって跡形もなく融けてしまった。
「プロミネンスウェーブ...この温度は"6000"度にも及ぶ!!」
「太陽の表面の温度と一緒だ!!」
「早く、ススム君の助けに行かないと!!」
ガシャドクロを倒したフラムは、急いで進たちの元へと駆け出した。
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~神殿騎士第七師団駐屯地 西棟通路~
神殿騎士数人と一人で戦うマリーだったが...。
その実力は圧倒的だった。
「ギャアアア!!」
首を切り裂かれ、また一人神殿騎士が殺させた。
「な、なんだこの娘...強すぎるぞ!!」
「貴方たちのような罪のない人たちを奴隷にしていた人たちを私は許しません!!」
「国民を守るためには大金が要る!この商売だってその金の為にやっていたんだ!!」
「それの何が悪いというんだ!!」
神殿騎士の一人がマリーに反論する。
「貴方たちは最初から強かった、戦闘の才能があったんでしょうね」
「だから弱者の気持ちが分からない!ある日悪党から理不尽に自分の大切な物を奪われるあの悲しみを貴方たちは知らないからそんなことが平気でできるのよ!!」
「く、言わせておけば...その口を利けなくしてやる!!」
「スキル:加速2!!」
「まただ!あの娘の姿が一瞬で消える!」
「どこだ!!」
「ここよ!!」
背後からあの娘の声がする。その男は振り返るとすでに少女の刃は自身の首に達していた。
男が悲鳴を上げる間もなく、首は跳ねられた。
「ハァこれで、全員かな...」
マリーは自分でも気が付かない内にこの世界でも強者とされる神殿騎士たち数人を軽々と一人で倒せるまでになっていた。