第103話 ガリアの過去①
~神殿騎士第七師団駐屯地 東棟~
---この世界は理不尽で満ちている---
「お、俺は負けん...」
なんとガリアは天童進との戦いで大怪我で負っていたが、まだ辛うじて一命を取り留めていた。呼吸は大きく乱れ、全身ボロボロになりながらも自室を目指して這っていた。
(ここに来るまで十年以上と準備を費やしてきた...神殿騎士団長の座を手に入れ、ベルデ卿とも取引を行い奴隷紋も完成し、気に入らない神殿騎士第一師団団長のサリオスに近づきもした。なのにあんな子供にその全てを滅茶苦茶にされたんだ...アイツだけはこの俺の手で必ず息の根を止めないと気が済まない!)
(俺の部屋にある"アレ"さえあればアイツを殺すための力を手に入れることが出来るんだ...あと少し俺の体が持って、あそこにさえ到達できれば...)
ガリアは少しずつではあるが、大量の血を流しながら、自身の体を引きずって自室へと一歩ずつ一歩ずつ這って進んでいた。
「俺は"奪う側"に回るとあの日誓ったんだ...」
「俺はお前の為にこの世界を壊すと決めたんだ...ロザリー!」
ガリアのその瞳はまだ勝つことを諦めていなかった。
~ガリアの過去~
俺はコルベール家の4男としてこの世に生を受けた。妹が一人と上には3人の腹違いの兄がいる。母親は元々コルベール家の使用人であり、父に見初められ愛人としての地位を確立していた女だった。そんな母親を俺は嫌いだった。母親も流行り病で数年前に死に俺と妹のロザリーはこのコルベール家に引き取られ、育てられていた。
生活には不自由してはいなかったが、妹のロザリーは元々身体が弱く、よく病床に伏せていることがあった。ロザリーは動植物を愛でる心の優しい妹だった。俺はコルベール家に引き取られてから戦闘の訓練や勉学による自己研鑽の日々を過ごしていた。いや正確に言うと、父親の厳しい方針により、そうせざるを得なかった。
ガリアは父親譲りの類まれな戦闘センスと白魔法を使える優秀な戦士としてコルベール家専属の家庭教師たちを唸らせていた。そんな俺を上の3人の兄たちは良く思っていないようだった。
そんなある日のことだった。
「ガリア!お前最近調子に乗っているみたいだな!」
俺は一番上の兄に突き飛ばされ、尻餅をついてしまった。
「な、何をするんですか!?」
「次の神殿騎士として推薦されるのは俺達の誰かっていうのは知っているか?」
一番上の兄がそう言った。
俺には何の話か分からなかった。
「な、何の話ですか!?」
「お前はまだこの家に来てから日が浅いから知らないのも当然だろうが、我がコルベール家では代々神殿騎士への推薦権が与えられている」
「基本的には俺達、息子...当主候補の中から一人を選抜し、ソイツが神殿騎士として命を受けることになる」
「神殿騎士になれば莫大な資産、強大な権力を得ることが出来るらしい」
「それが何か関係あるのか!」
「そうだな...俺たち3人の意見としてはお前のような、下賎の母親の血を引く者が神殿騎士になる事だけは許せないという見解になった」
そう言われ、その日以降剣術の練習、魔法の練習の度に先生の目を盗んでは兄たちは俺に対して、嫌がらせをするようになった。俺の剣に細工をしたり、俺の使っている魔導書を破いたり、隠したりそんな下らない嫌がらせが日常茶飯事となっていた。
「兄様!最近体調が優れないようですけど大丈夫ですか?」
ベッドで療養している妹のロザリーだけは兄である俺を気遣ってくれた。
「ああ、心配を掛けて済まない」
「俺のことは大丈夫だ!」
「そんなことより、ロザリーの方こそ体調は大丈夫か?」
俺はロザリーの体調の事だけが心配だった。ロザリーさえ元気で過ごしてくれたら、俺は兄達の嫌がらせを耐えることはできた。
「ええ、最近はとても調子がいいの!森の果物や花を兄様が持ってきてくれるからとっても元気が出てきます」
「ああ、そうだまた今度、森で出会った動物たちの絵を見せてください!」
「私兄様の描く動物や植物が好きなんですよ!」
そう笑顔でロザリーは言ってくれた。
「ああ、分かった!」
「今度のまた森に行ったときにどんな動物と出会ったか絵を描いてきてやるよ!」
しかし、この約束が果たされることはなかった...。
そうあの俺が"奪う側"になると誓った日が来たことによって...。