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602.黒玉

「みんないい動きをしてるね」

 シジマがアキオに話しかける。

「連携がとれているな」

 彼が感想を述べる。


 実際、少女たちは、司令塔がおらず連絡装置インナーフォンもないのに、海の怪物(クラーケン)の複雑な触手を、絶妙な連携コンビネーション攻撃で少しずつ破壊しているのだ。


「みんな――特にドッホエーベを経験した人たちは、その後悔(こうかい)から、今に至るまでずっと練習し続けてるからね」

「後悔」

「そうだよ」


 激しさを増す少女たちの攻撃を目で追いながら、いつになく真面目な口調でシジマが続ける。


「もし、あの時もっとうまく闘えたなら、もっと素早く反応できたなら、群体蝗ホイシュレッケを素早く叩いて、巨大戦車バルバロスを行動不能にし、ギデオンを焼き尽くすことができたんじゃないか、って」


「それは無理だ」

 アキオが断言する。


 あの時、3王国の連合軍、特にニューメアのコラド・ドミニスが、あれほどの戦力を隠していたことなど予想できなかった。


「それに――」

「わかってる。わかってるさ。みんなもわかってる。それら全てを撃破したとしても、最後の爆縮弾ばくしゅくだん、強烈な熱量を発しながら、最終的に全てを別次元に吸い込む、二つの縮退星ブラックホールを利用した壊滅兵器アナイアレーターは、人の力ではどうにもならなかったことは――でも、もし、もし、自分たちが、もっと早くそれまでに敵を倒し、ミサイルに対応できていたら、ミーナを、彼女を失わなくてすんだんじゃないか、ジーナ城で寝ていたボクがいうべきことじゃないんだろうけど」


「あの時、君はキラル症候群(シンドローム)末期だった」


 実際、彼女は脳死寸前だったのだ。

 しかも、それは、異次元世界に安易にナノ・マシンを持ち込んだ彼のミスだ。


「でも、ボクがミーナを――()()の身体を使って実体化させたんだ」

 シジマが叫ぶように言う。

 涙が彼女の人形のように形のよい頬を伝う。

「そしてミーナはいなくなった。ボクが殺した」


 シジマがドッホエーベについての心情を、これほど激しく吐露とろするのは珍しいことだ。


 アキオは、冗談が好きで、いつも明るい彼女が抱える苦悩を改めて知る。


 だが、あれは誰が悪いのでもない。

 ああいう状況であったし、ミーナが最終的に自己犠牲を選んだのだ。


 ミーナはわが身をかえりみず、この世界とアキオたちを救うために消えてしまった。



 多くの戦場を経験し、幾多いくたの有能な兵士の犠牲で生き(ながら)えている彼は、安易な自己犠牲が嫌い、というより理解できなかった。


 彼にとって戦いの第一の目的は、任務の遂行すいこうであり、そのためには、生きて帰還報告デブリーフィングをすることが重要だった。


 周りからは、そう見られないことが多かったが、アキオは、腕や足など多少の身体の損傷そんしょうは仕方がないと考えているが、命を差し出してまで任務を遂行する気はない。


 なぜなら、往々(おうおう)にして作戦は、不運とその計画の不出来(ふでき)から失敗するものだからだ。

 だからこそ、作戦失敗が濃厚になれば、次の作戦に備えるのが真の兵士だ。


 最後に戦場に立ち、生還し、帰還報告デブリーフィングをすることが勝利なのだ。


 ふと、彼の脳裏にアルフォートで散った機械化兵ミリオンの顔が浮かぶ。



 実際、彼はこの世界に来てからの()()()()()()()に気づいてはいない。


 いま、そばにミーナがいれば、おそらく彼に尋ねただろう。


 ――それは、長い間あなたが任務に忠実な兵士だったから。でも任務ではなく()()()()()闘っていたらどうかしら。その戦いで、愛する人と自分の命の二者択一オルタナティブを迫られたら――


 おそらく、その答えを、今の彼は持ってはいない。



「だから、みんなは、地上でも、空中でも水中でも戦えるようにボクに演習プログラムを作るように頼むんだよ」

「この世界に、あれほどの戦力は残っていないだろう」


 少し落ち着いたのか、シジマが涙を(ぬぐ)って答える。


「それはわからないよ。今回のクンパカルナみたいに生き残っているドミニス一族がとんでもないものを作るかもしれないからね」


「そうか」

 アキオは、ミリオンが水中銃を使って海の怪物(クラーケン)のひと際大きな触手にある眼を破壊するを見ながら返事する。


 やがて、アームバンドを見たシジマが口調を変えた。

「触手が6割損傷、眼はミリオンが破壊、外殻はラピィとオプティカさまの攻撃で3割破壊された。全体で損傷率7割を超えたね。第二段階が始まるよ」


 彼女の言葉に従うように、海の怪物(クラーケン)から全体が、小さく丸く陥没かんぼつして無数の穴を見せ始めた。

 そこから、唸りをあげて白い玉が発射され始める。

 別な穴からは尖った白い槍が突き出される。


「あれは」

 彼らの斜め上の壁につかまり、あるじスペクトラの動きを目で追っていたゴルドーが声を上げる。


「ああ、わかったんだね」

 シジマが声をかける。


「あれは君がアキオと戦った時、最後に見せた黒石ドゥラム・モルドの槍の再現だよ」

 驚いて眼を見開くゴルドーを前にしてシジマが説明する。


 確かに、海の怪物(クラーケン)が使っているのは、かつてアキオに歯が立たず、どうしても負けたくないと願った彼に応えて、彼の身体が発現(はつげん)させた黒石ドゥラム・モルドの攻撃だった。


「サフランが、どうやって君が黒石ドゥラム・モルドを打ち出していたか調べて教えてくれたんだ。それを応用したんだよ」

 彼女はアキオを見て、


「ボクは、ドッホエーベで戦わなかったけど、記録を見て話を聞いたら、ギデオンの槍にはずいぶん苦しめられたみたいでしょう。だから二番煎にばんせんじだけど、運の怪物の第二反撃モードでは黒石ドゥラム・モルドによる攻撃を加えたんだ」


 空中戦であったドッホエーベとは違い、水の抵抗があるために、槍と石玉への回避行動が遅れ気味になって少女たちは苦戦している。

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