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566.一族

「下がっていてくれ」

 アキオがメルカトラに言う。


「今は、いう通りにするんだ」

 少女が反論するより前に、オプティカが彼女の手を掴んで引き寄せる。

 メルカトラは石畳に開いた大穴を見て、うなずいた。

 大人しく従う。

「いい子だ。見たことのない奴だろう。少し様子を見てからだって遅くはないよ。いまはアキオに任せるんだ」


 その会話を背後に聞きながら、アキオは近づく怪物を見た。


 体調4メートルほどの大型が2体、人間サイズの小型が20体、それぞれ大きさに個体差がある。

 距離は20メートルだ。

 怪物たちは赤く光る――比喩ひゆではなく本当に光っている――4つずつ2列並んだ8つの眼で彼を見つめる。


 アキオはコートを跳ね上げると、隠してったホルスターに入っているP336を抜き出して、小型の怪物をヘッド・ショットした。

 いつものように、単射を連続させてマシンガンのように全弾を打ち尽くす。


 火薬弾ではなく、レール・ガン・マガジンが入っているので、薬莢は排出イジェクトされず、遊底スライドは閉じたままだ。


 そのまま、マガジンを自重で落下させると、一挙動で取り出した予備マガジンを差し込む。


 敵を見た。

 怪物は、6本ある腕の2本を使って顔を覆っていた。


 撃った感触から全弾命中していることは分かっている。


 ちなみに、感触から命中がわかる、というのは魔法でも何でもない。

 敵に命中した時に返って来る、肉あるいは金属の特殊な反響を耳と皮膚で感じとっているのだ。

 だから抵抗のない紙の的や遠距離過ぎると分かりにくくなるし、いくら経験を積んでもよくわからない者もいる。

 そこは対生物射撃のセンスがあるかどうかだ。


 怪物が一斉に腕を顔からどけた。

 赤く光る目が現れる。

 無傷だ。

 少なくとも眼に見える損傷ダメージはない。 


 アキオは斜め前に走った。

 彼のいた場所に大型の怪物が発した何かが通り過ぎ、石畳に大穴を開ける。


 そのまま、一番手前のヒト・サイズの敵に走り寄った。


 位置を予測されないように、いつものように、揺らぎを加えてジグザグに駆ける。


 走りながら考える。

 硬い奴だ。

 20メートルの近距離で、レール・ガンに耐える身体。

 だが、銃撃に耐える筐体きょうたいは、地球にもよくあった。

 

 エンジニアリング・プラスティックの一種である、いわゆるケブラー129線維せんいで編まれた布のように、強烈な運動エネルギーを外皮で包み込むことで消し去るのだ。


 だが、その手のものには弱点もある。

 鋭利な刃物でゆっくりと力をめて切られると防御しきれないのだ。

 それを避けるためには金属で補強するのが一般的だが、可動部分には満足につかえないため――


 アキオは、ナノ・ナイフを取り出すと、怪物の腕をかいくぐって、懐に飛び込んだ。


 胴体に比べて細い腕は、想像以上によく動く。


 さすがに6本の腕の攻撃を全てかわすことは難しく、彼は、フックのように繰り出させる怪物の腕をアッパー・カットの要領で弾き上げた。


 彼を突き刺そうとする腕を(つか)んで、ナイフの刃を肘関節ひじかんせつに当てる。

 初めはかなり強い抵抗があったが、ナイフの切断力を信じて力を加えると、不意に抵抗がなくなった。

 防弾防刃(ぼうだんぼうじん)の素材を斬る時、特有の感触だ。


 刃の食い込む確かな手ごたえがあり、腕が飛んだ。


 腕を一本奪うと格段に戦闘が楽になった。


 同様に、残り7つの手足の関節を全て刈り取る。


 次いで彼は地面に崩れ落ちる怪物の、顔に向けてナイフを往復させ眼をつぶした。


 流れるような動きだ。


 血を避けて飛び退しさった彼だったが、怪物の傷口から、血はほとんど流れていなかった。


 ナノ・ナイフの刃渡りではみじかすぎるため、ほぼ胴体と同じ太さの首は落としていない。

 手足の切断だけでは死なないだろうが、とにかくナイフで手足を斬って行動不能にできることは分かった。


 残った怪物たちの射撃を避けて、アキオは素晴らしい速さで次の敵に向かう。


 彼が走り、飛び、跳ね、手にしたナノ・ナイフがひらめくたびに、怪物たちの手足が切断されていく。



「とんでもなくお強いですわね。うわさに聞いていた黒の魔王さま――見た目は少し聞いていたものとは違うようだけど、まさか、この国に来られていたなんて、素敵だわ」


 小型の敵を倒し終わり、残る二体を見上げた彼に頭上から声が聞こえた。


 女の声だ。


 巨大な怪物は動きを止めている。


 見上げると、中空ちゅうくうに汎用型ドローンが静止していた。

 かつて、この世界でアルメデが初めて彼に話しかけた時に使ったものと同型だ。


「失礼しました。お聞き及びかもしれませんが、わたし、()()()()()()()はメルドーメと申すものです」


「この国()()()()

 アキオの問いに、ほがらかに女が笑う。


「はい、お教えしますわ、魔王さま。それ以前の名はメンドラ、メンドラ・ドミニスと申します」

 アキオは表情を変えなかった。

 だが心中では納得する。

 ニューメアのドミニス一族ならこの程度のことはやりかねない。


「少しお話をしませんか。どうです?わたしの生み出したサータイアは」


 アキオは、地面に転がる怪物を見た。


 おそらくは地球語からとった名だろうが、風刺サータイアと呼ぶには禍々(まがまが)しすぎる姿だ。


「こいつは何だ」

「サータイア、わたしの子供。それ以上でも以下でもない」

 女が含み笑いを漏らす。

 詳しいことは話さないつもりのようだ。

 別に問題はない。

 彼にしても、別に答えを期待したわけではない。

 詳細を知りたければ、全滅させたあとで、分析すればよいだけだ。

 女を()()()()()()()()


「そうか」

 アキオが腰を落とし、臨戦態勢を取る。

 ドローンの3次元カメラが光った。


「あなた、()()()()()()()ね、素敵。噂は聞いているわ、魔王さま。ドッホエーベのこと、アドハードのこと――にわかには信じられなかったけど、今の戦い方を見て本当だということがわかった。素晴らしい身体強化ね。そんなお婆さんは捨ててわたしのところへ来ない。もっと楽しくて気持ちいい、すごいことができるわよ」


「黙りなさい!」

「口を閉じな!」

 違う表現で同じ内容の言葉が重なって発せられた。

「あらあら。子供と婆さんはお呼びじゃないのよ。どう、魔王さま。それとも、非人道的な科学実験はやっちゃダメ?」

 ドローンが甘えた声を伝えて来る。

 

 アキオは答えない。


 彼の中では、科学に手を出してはならない領域など存在しない。

 彼自身、死人を蘇らせようとしているのだ。

 やりたいように、やりたいことをやればいいのだ。

 ただ、その報いを受ける覚悟さえあれば――

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