537.連闘
第2波のビースト・ライスが雷球を口から放出しはじめるのを見て、アキオは動き始めた。
重量、僅か3.5キロと極めて軽量なM16A2小銃は、彼にとっては無いも同然で動きの支障にはならない。
少し移動しては立ち止まって射撃し、また移動する。
人工的に作られた雷球だが、移動速および攻撃力は実物に似せて作られているため、その動きはそれほど激しくはない。
彼ぐらい射撃速度が速いと、その合間に躱すことができる。
いよいよとなれば避雷器を使うつもりだが、まだその段階ではない。
飛来する火球は、5.56×45mm NATO高速弾で撃ち抜いて散らす。
ビーストには、雷球と火球を放つ2種類がいる。
アキオは、素早く身体の位置を変え、停止すると同時に、背を僅かに丸め、肩づけ、頬けけで銃を固定し、肘を落とし脇をしめる理想的なスタンディング・ポジションで、首、肩、腕を固定したまま、上半身の動きだけで狙いを変えて撃ち続ける。
いつのまにか、火球を破壊し、雷球を避けつつ小刻みに移動する彼の周りに半径20メートルほどのビーストによる円形空間ができあがった。
ビースト・ライスたちは、その円周場で倒され、それ以上彼に接近できない。
流れるような動作で、予備弾倉を交換しつつ、アキオは撃ち続ける。
「あやつはナノ強化を行っておるのか」
アキオの動きの速さを見て、シミュラが尋ねる。
「前にもいったように、この演習の時はナノ強化はなしだよ」
「じゃが」
「もともとアキオの身体は遺伝子レベルで強化されているから――」
「あやつにはそれがあったな」
「だから、普通の人の3倍ぐらいの筋力で戦っているんだよ」
そう言って、シジマはアーム・バンドを見る。
「そろそろ次のプログラムが始まるよ」
彼女の言葉どおり、倒され続けるマーナガル型のビーストの背後に、人型のビーストが現れた。
その数は30体あまり。
素晴らしい速さで地面の石を投げ始める。
「あれは?」
「この間、ナノ・ゴランがやっていた石の投擲を取り入れたんだ」
火球と雷球に加え、時速250キロを超える速さの石による攻撃が彼を襲う。
アキオの体内時計が、戦闘が始まって15分20秒経つことを教えた。
既に、新たなビースト・ライスは出現しなくなっている。
つまり、今、演習場にいる敵を倒せば勝利は確定するのだ。
あとは、弾丸数が足りるかどうかだが――
優秀な兵士として、常に把握している残弾数は、M16のマガジン内に5、チャンバーに1、予備マガジンが4本残っている。
これまでに234発撃っているわけだ。
弾薬の節約および命中精度の向上をはかって、前モデルからフルオート機能が削除され、代わりに3点バーストが塔載されているM16A2だが、基本的に彼の射撃は一発ずつ引き金を引く、単射を素早く行うスタイルだ。
フルオートより射撃精度が上がり、単位時間あたりの攻撃能力も高いが、その分、銃身が熱を持ちやすくなる。
高温のあまり引き金を戻しても射撃が止まらない、などというところまでは行かないが、命中精度を保つために、少し休ませた方が良いだろう。
アキオは、M16を下げ銃にすると、コートから銃床を切ったショットガンを取り出した。
うるさく攻撃をしかけてくる人型ビーストを、先に殲滅させることにする。
M16の銃弾を眉間に受けたビーストは倒れたまま動かない。
頭撃ちされると、即死扱いで機能停止するようになっているのだろう。
アキオは、リズミカルにポンプ・アクションを行いつつ、ビースト・ライスを避けて走りながら人型ビーストを撃ち始めた。
今回彼が選んだのは、多数の散弾を打ち出すバックショット弾と違い、広がりの無い一発弾ではあるが、小銃弾よりは大まかな狙いで良いので移動しながら命中させやすい利点がある。
なかなか反動が強いが、アキオは強靭な筋力で銃口の跳ね上がりを押さえて片手で撃ち続ける。
破壊力があるため、同一射線上に置いた2体の頭部を同時に撃ち抜き、行動不能にさせることも可能で効率が良い。
問題は装弾数が7発しかない点だが、それは彼の技術でどうにでもなる。
走りながら、次々と石を投擲しようとする敵を倒していく。
全弾を撃ちつくしたアキオは、ベルトのポーチを開けて手を突っ込むと、指の間に6つの実包を挟んで取り出した。
投げつけられる石を避けながら、散弾銃下側のローディング・ポートから、チューブマガジンへ素早く6発の実包を押し込む。
スライド式の前床を後ろに引くポンプアクションを行って、弾丸を薬室に送り込むと同時に狙い撃った。
次々とライスが頭部を吹き飛ばされ、沈黙していく。
5回、装弾を繰り返し、予備弾30発を使い切る直前に、やっと人型ビーストの出現が止まった。
時間はあと8分だ。
地上に出ているビースト・ライスの総数はおよそ100体。
M16の残弾数を考えれば、少しだけ余裕がある。
いよいよとなれば、ナノ・ナイフによる肉弾戦も可能だが、今回は銃撃による演習であるから、それはするのはまずいだろう。
アキオは残弾3発のショットガンに安全装置をかけるとコートのポケットに落とした。
足を止めると、残った四本足のビーストに向け、銃身が冷却されたM16を撃ち始める。
放たれる攻撃を避けて移動しながら、まず、雷球を撃つビーストを倒すことにした。
火球は銃撃で破壊できるからだ。
数分後、しつこかった雷球の攻撃がなくなった。
残りは、火球を放つビースト30体だけだ。
アキオは撃ち始める。
まさに、ラストスパートに相応しい射撃だった。
残り3分――
マガジン3本を交換して、全てのビーストを倒したアキオは、銃を構えたまま、演習終了を待つ。
「油断はなし、か。さすがだね――でも」
シジマの言葉を遮って、凄まじい轟音が響き渡った。
土を跳ねのけて、地下から巨人が姿を現す。
「あれは!」
ミリオンが叫んだ。
「リトーだよ」
身長20メートルの巨人がアキオを平手で薙ぎ払おうとする。
咄嗟に、アキオはM16で巨人の手を撃った。
全弾を撃ち尽くす。
巨人の指が千切れ、その隙間をくぐることで、かろうじて彼は攻撃を回避した。
すぐに反対の手が、再び彼を打ち倒そう襲い掛かる。
彼はM16を捨てると、ショットガンを取り出してこれも全弾撃ち尽くした。
なんとか攻撃を避けたところで、今度は足蹴りが彼を襲った。
彼は空中へ跳ね上がる。
それを見透かしたように、渾身の力を込めたリトーのパンチが、彼に襲い掛かった。