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534.顔合

「驚いたようじゃな」

 シミュラが悪戯っぽく笑う。

「ラーカム、この人はデルフィ。サンクトレイカの凄腕すごうで諜報員ちょうほういんだよ」

 シジマは、今度は、彼女を尻尾(しっぽ)のある少女に紹介した。


 先ほどからの会話は全てエストラ語で交わされているが、潜入捜査員の彼女は、当然、エストラ語を理解している。


「シ、シジマ殿」

 身分を明かされてデルフィが(あわ)てる。

「いいんだよ、彼女には全部話しても。ノランも納得(なっとく)の上での話だからね」

「サンクトレイカ王、じゃぞ。シジマ」

「あっ」

 シミュラに指摘され、少女が可愛らしく舌を出した。


「さあさ、ふたりともこっちへ来て」


 シジマに手を引かれて近づいた二人は、向かい合ってお互いを見る。


 兵士としては小柄なデルフィだが、女性として背は高い方だ。

 ラーカムはその彼女とほぼ同じ身長。

 体型からいって、体重もほぼ同じぐらいだ。


今更(いまさら)だけど、デルフィはエストラ語を話せるよね。正確にいうと、ラーカムが話すのは古代エストラ語だから少し違うんだけど、意思疎通(そつう)には問題ないはずだ」


「古代エストラ語――シジマ殿、この方は?」

 デルフィが、エストラ語に切り替えて尋ねる。


「うん。可愛いでしょう。耳と尻尾がいいよね」

 その答えに困った顔をするデルフィを見て、シミュラが助け舟を出す。

「シジマ、此奴こやつがいうのは、そういうことではないじゃろう」

「分かってるよ。じゃあ、ふたり並んでここに座って」


 彼女は、部屋に置かれた長椅子に二人を腰かけさせた。


 彼女たちそれぞれの世界について、および、ふたりの、これまでの仕事を説明する。


 すぐにふざける性格を除けば、頭の回転が速い彼女の話は、平易(へいい)ですばらしく分かりやすい。


「浮遊都市……本当にあったのですね。おとぎ話だと思っていました。その上で雪豹、サンバルというのですか、を使役(しえき)して戦うなんて夢のようです」

 デルフィが、ため息交じりにつぶやき、


「たったひとりで敵の真っただ中にもぐりこんで捜査そうさするのですか。素晴らしい勇気です」

 ラーカムが感心する。


「まあ、いっちゃえば、デルフィは敵の組織にもぐりこんで、()()()()()()()()する仕事、ラーカムは()()()()()()()()()()()()()()仕事だから、戦士としての能力は未知数なんだけどね」


「シジマ、おぬし……」

 美少女の意図(いと)に気づいたシミュラが、(あき)れたように彼女をにらむ。


「あら、勇気だけではありませんよ。剣の腕も日々磨いています」

 デルフィが胸を張り、

雪豹サンバル使いとはいわれていますが、わたしも得意とするのは剣技です」

 ラーカムが尻尾を立てた。


 お互いが、シジマの言葉に反応して鼻息を荒くする。


「機会があれば、ぜひその力をお見せします」

「わたしもそうです」


 うんうんと緑の髪の少女はうなずき、

「そうだなぁ。このまま、()()()()で済ませたら、後々(あとあと)()()()が残るかもしれないね」

 シジマはニコニコしてシミュラを見た。

「ここはお互いを良く知るために、一度、手合わせをしてもらうっていうのはどうかな。ボクの演習場で」


 シミュラが、シジマをふたたびにらむ。

 小さくて可愛いシジマ――

 科学の天才でもある彼女は、同時に剣技にも(ひい)でており、戦闘が大好きな困った一面を持っている。

 特に、アキオと浮遊都市(スーリバッド)に出かけてからはその傾向が強まっていて、いまは、その悪い面が表に出てしまっているようだ。


「おぬし、今日ふたりを会わせた目的を――」

「覚えてるよ。()()()()()、なんだよ」

 シジマはきっぱりと言い切り、

「ささ、こちらへ、おふたりさん」

 シミュラは、ふたりを先導して()()()()()歩いていく少女を見つめ、

「まるで、宿屋の案内人ではないか」

 思わず吹き出すと、

「しようのない奴じゃのう」

 3人のあとを歩くのだった。


 シジマの後について、少女たちは地上に降りた。

 ナノ・ファイバーによって外から引きこまれた明るい日差しを受けながら、菜園を歩いていく。

 そこには、実をつけた果物を収穫する人影があった。


「あら、デルフィさん。来られたんですね」

 少女たちに気づいて、つばの広い帽子を被ったユスラが、収穫の手を止めて声をかける。

 そのとなりには、果物を入れたかごを手にしたピアノがいた。


 飾らない物腰ものごしと、気取らないすっきりとした普段着ふだんぎ、アラントでは見かけない薄布うすぬの製の上下がつながった服――後にヌースクアム語でワンピースと呼ぶと知った――を身にまとったふたりは、そこだけ輝いて見えるように美しい。


 シジマが、手短(てみじか)に、ことの経緯を説明する。

「まあ」

 ユスラは形の良い眼を見開くと、ピアノに向かってうなずき、ライスを呼んで収穫籠(しゅうかくかご)を渡した。


「わたしたちもご一緒します」


 その後、彼女たちが歩くにつれ、庭園のあちこちにいた少女たちが何事かと集まって来て、最終的には、かなりの集団となったのだった。


 一団が、庭園の(はし)に位置するシジマの新兵器実験場(けん)演習場に着くと、そこには先客がいた。

 ユイノとヴァイユ、カマラとヨスルだ。

 お互いが四角い闘技場で汗を流している。


「はい、ごめんね。ちょっと場所を譲ってくれるかな」


 ユイノたちは、うなずいて場所をあけた。

 まわりの少女たちから事情を聴く。


「シジマ、あんたねぇ」

 話を聞いたユイノが腕を組んだ。


「ああ、小言はあとでね。ほんと小姑(こじゅうと)なんだから」

「だ、だれが小姑なんだい」

 まあまあ、とミストラが肩を叩いてなだめる。


「ふたりで練習試合をするんだね。だったら、ちょっと待って欲しい」

 練習用の剣を手にして、向かい合って立った少女たちに向かってキィが言い、背後に向かって良く通る声で叫んだ。


あるじさま!」


 傭兵にとって、大きな声は武器の一つだ。

 戦闘の際に行う()()()()はげまし、情報伝達ができるかどうかが生死の分かれ目となることがあるからだ。


「ラーカムとデルフィが戦うよ!」


 演習場の端に位置する射場にいた二つの影がこちらを見る。

 アキオとミリオンだ。


 いま、彼は、彼女に覆いかぶさるようにしていた。

 ミリオンに銃の構え方とピープ・サイトののぞき方を教えていたのだ。


「え、ア、アキオ……さま」

 闘技台の上の二人が異口同音(いくどうおん)に彼の名を呼んで固まる。


 すぐに、ミリオンを連れたアキオが銃を片手にやって来た。


「アキオ!」

 リノリウムに似た、ナノ素材できた正方形の闘技場の真ん中でシジマが叫ぶ。

「ふたりが練習試合をするんだ。見て、アドバイスをしてあげてね」

「わかった」

 そういって、彼は下げつつにして少女たちを見る。


「では、始めるよ」

 そういって、シジマが手を上げた。

 異種族の少女たちの戦いが始まるのだ。

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