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496.遭難

 ()()()()して、少女が目を覚ました。

「あれ、ここは?」

 紫がかった青い瞳で彼を見上げる。

「あ、ああ、アキオ。ということは」

 ぼんやりした目でつぶやく。

「ジーナ城……違う、ね」


 ぱっとシジマの眼が開かれ、辺りを見回した。

 同時に彼が少女の暗緑色の頭を抱く。

「今は急に頭を動かすな」

「え、ああ、そうだ。さっき、ボクの頭に石が――」

 そう言って、シジマは身体を震わせた。


 気づくと、彼女は地面に座った彼の胸に抱かれていた。

 はだけた彼のコートにくるまれた身体は温かく、心地良い。

「頭を強打した。記憶は大丈夫か」

「え、うん。たぶん。でも、ちょっとぼんやりしてるし、確認したいから状況を教えて」

「わかった」

 アキオは彼女の頭を抱いたまま話し出した。


「俺たちは、いま、パルナ山脈北方のサラムプルナ山にいる。標高は9300メートル前後。低気圧に襲われ、あたりは猛吹雪だ」


 言われてみて、彼女は、アキオの黒髪が雪にまみれて真っ白であるのに気づいた。


 淡々と彼が続ける。


「外気は氷点下30度。さっき、雪崩なだれに巻き込まれて装備の大半を失った。電波障害のためジーナ城とは連絡がとれない。低温のため、ナノ・マシンの機能は通常の20パーセント程度だな。迎えの白鳥号シーニュは32時間後まで来ない」

「なんか、絶望をたくさんの言葉で言い換えたみたいな状況だね」

 さほどの悲壮ひそう感もなく少女が言う。

「他には?」

「君の意識が回復するのを待って雪洞せつどうを作ったが、ここは崖に突き出た雪庇せっぴの上で、いつ崩れて下に落ちるかわからない場所だ。早く移動した方がいい」

「うーん。なにか良い情報はないの」

 彼女の言葉に、アキオが間髪かんはつをいれずに答える。

「普通なら遭難状態だが、ここにいるのは俺と君のふたりだ。どうにでもなるだろう」

「ま、そうだよね」

「立てるか」

「大丈夫」

 そういってうなずくと、少女はアキオの頬に口づけた。

「温めてくれてありがとう」


 アキオは、小さな雪洞せつどうを崩しながら立ち上がり、手を引いてシジマを立たせる。

 風は強く、横殴りの雪が吹きつける暴風雪ブリザードといってよい状況だった。

 視程していは十メートルもない、超A級ブリザードだ。

 先を進むアキオの背後を歩きながら、意識のはっきりしてきたシジマは、ここに至るまでの出来事を思い出していた。



浮遊都市フローティング・シティ

 ジーナ城の談話室でアキオがつぶやく。

 事後処理のためにアルメデを残し、ヌースクアムに帰って来た翌日のことだ。

「前に、カマラが、極北で破片を見つけてたでしょう。あれの完全版が、サラムプルナ山の山頂付近にあるらしいんだ。その浮遊ユニットを調べたいんだよ」

「それって、バルバロスで使われていたような生体パーツなの?」

 ヴァイユが尋ねる。

「いや、もっと純粋な機械部品らしいんだ。もともと魔法もWBクマムシのイニシエーションではなくて、装置の埋め込みだったのが、その技術が失われて今の形になったらしいから」

「ドラッド・グーン文明は、機械文明ではなくて、生物を使う()()()()だったんじゃないの」

 ミストラの疑問にシジマが答える。

「古代民族が与えられた技術を機械的に発展させたらしいね。そして、やりすぎた。だから一時的にPSが枯渇(こかつ)した時に、それに合わせて――」

「合わせて?」

「これはカマラの仮説だけど、ドラッド・ジュノスによって滅ぼされたんじゃないかって。ドラッド・グーンは機械文明が嫌いだから」

「だったら、今のニューメアとか、わたしたちも危ないんじゃないかね」

 キイが声を上げる。

「いえ、それはないでしょう」

 ミストラが言う。

「昔のジュノスならそうかもしれないけれど、今のサフランがそんなことをするとは思えないもの」

「なぜ」

「アキオがいるから」

「ああ」

 全員の口から溜息ためいきのような声が漏れた。


「それで、おぬしは、大陸で一番高い山に登るというのじゃな」

「そうだよ。まあ、登るというより、駒鳥号(ルージュゴルジュ)白鳥号シーニュで近づいて投下してもらうということになるだろうけど」

「調査など、グリムかグレイ・グーにさせればよいじゃろう」

「駄目なんだよ。寒すぎて」

 皆がうなずく。

 共に熱をエネルギーとする者たちだ。

「なるほどな。同じ意味でライスも無理だね」

「ニューメアのロボットなら使えそうですが」

 ユスラの言葉に、

「雪が深すぎてうまく動けないでしょうね」

 カマラが応じる。

「だから、だいたいの目安の場所に、ボクとアキオを降ろしてもらって、歩いて調査をしたいんだ」

「せっかくのアキオとの時間を、そんなものに使うなんて、もの好きだねぇ」

調()()()()()だよ。キィさんには分からないだろうなぁ。だって戦闘狂のくせに、中身は120パーセント乙女なんだから」

「な、なにを……」

 絶句して絹のような金髪を震わせる美少女にシジマが続けて言う。

「アキオに、アルメデさまへの対応や言葉を事細かくレクチャーしたでしょう。あの方が二輪バイクに乗りたがっているのを知ってアカラに用意させたし」

 キィがアキオの視線に気づいて目をらす。


「まあ、それはともかくじゃな。おぬしはそれで良いのだな」

「もちろんだよ」

「あまりムードのあるデートではないと思いますが――」

「いいえ!」

 深く良い声が談話室に響いた。

 ラピィだ。

「アララト山へ箱舟はこぶねを見に行くような旅。あるいはちたラピュータを捜すふたり旅。なんてロマンティックなんでしょう!」

「そ、そうかい。なんだかよくわからないけど、シジマがいいっていうなら、あたしは反対しないさ」


 そう言われて、ヌースクアムを出発し、サラムプルナに降り立ったのは良いが、歩き始めてすぐに雪崩なだれに巻き込まれ、長期予想では晴天続きだったはずの天候が大荒れとなって現在に至っているのだった。

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