046.奪還
朝、アキオが目覚めると、紅い瞳と目が合った。
ピアノが彼の顔を見上げ見つめている。
「どうした」
「――顔を見ていました。おはようございます」
アキオは苦笑する。
彼の顔など眺めても仕方がないだろう。凡庸な目鼻立ちだ。
戦時中よりましなのは両目とも機械でないことぐらいか。
だが、そんなアキオを少女は見つめ続ける。
彼女に新しい命と生きる意味を与えてくれた男の、そのすべてを見逃さないように。
アキオは、ばさ、とコートを開けて少女を立ち上がらせ、自分も起きた。
「眠れたか」
「はい、野宿には慣れています……昨夜はアキオの温もりで気持ちよく眠れました」
「そうか」
おそらく今日は忙しくなるだろう。
ミーナは、ピアノに危険な任務をさせないはずだが、それでも体調不良で動きが鈍くなるといけない。
アキオは空を見上げた。
雲の流れは速く、次々と太陽を遮る。
天気は良いが風が強いようだ。
あまり強すぎると作戦の障害になるが、この程度なら大丈夫だろう。
「おはよう、アキオ」
軍用レーションの食事を終えると、ミーナが呼びかけてきた。
「いつ、一つ目小僧を打ち上げる?」
「戦闘準備が08:00、戦闘開始が09:00というのが恒例らしいから――」
「09:30くらいか――」
「その道具で付近の様子がわかるのでしょう?なぜ、もっと早く打ち上げないのですか?」
少女が尋ねる。
「こいつが自力で空中に浮かんでいられるのが30分間だからだ」
「その間に、すべての作戦行動を終わらせないといけないの」
「わかりました」
言ってから、少女が思いついたように尋ねる。
「アキオは、どうやって艦に乗り込むのですか?」
その方法について彼女は教えられていなかった。
「そう思うわよねぇ」
「はい。港で小型の船を盗んで行くと思っていたのですが……」
「それは帰りよ」
「そうですね」
「アキオのことは、作戦が始まってからのお楽しみよ。それより、ウサギさん、さっきもいったように、あなたがシュテラ・バロンのハミル港で帰りの船を調達するの。操作はできるといってたわね」
「できます」
「おい」
アキオが少女をにらむ。
実際はピアノではなく彼女の胸のカメラをだ。
「ウサギには危ないことをさせるなといっておいただろう」
「わたしが」
少女が叫ぶ。
「わたしがお願いしたのです。一番、おふたりが安全に陸にもどられる方法をとれるようにと――」
「あなたが戦術どおりに動けば、彼女を攻撃できるのは、魔法使いによる火球と雷球だけ。手漕ぎボートを身体強化して扱ってもらおうと思ったけど、今日の風ならヨット、この世界でいうケスラを使う方がいいかもしれないわね。小さな船の、その速度なら魔法は当たらない」
「子供の頃から乗っているのでケスラの扱いは得意です」
少女が胸を張る。
子供の頃とは、おそらく貴族時代のことだろう。
「しかし――」
「大丈夫です。海戦中は初めてですが、それ以外なら十数回、同様の仕事をこなしたことがあります」
「わたしもついているから大丈夫よ。アキオ」
ミーナが断言する。AIが言うならきっとそうなのだろう。
アキオは黙った。
荷物をまとめ、ふたりは街の近くにある丘に移動した。
手前のバロンの街も、遠くに見えるアンヌの街も賑やかに活気づいてきたようだ。
08:00。
二つの港町から、少しずつ遅れて鐘の音が響き渡った。
艦隊が出帆する時刻だ。
遠目にハミル港から10隻の船が出ていくのが見える。
ひときわ排水量の大きな一隻が旗艦だろう。
「ウサギ」
「はい」
「シュテラ・バロンの街では海戦を観る観客がいるのか」
「います」
「彼らは海戦の結果、国民が死ぬことを――」
「もちろん知りません。ただ、国同士の威信をかけた競い合いと思って見ているだけです」
「そうか……」
アキオは樹にもたれて腕を組んだ。目をつむる。
ピアノも肩がアキオに当たるようにして同様の姿勢をとった。
ゆっくり時間が進み、太陽が空高く上がり始める。
「さすがねぇ」
ミーナの声がした。
「アキオはともかく、作戦行動の前に、それほど落ち着いていられる娘なんてあまりいないわ」
少女は微笑む。
「アキオと一緒なら、作戦が失敗するはずがありません」
「まあ、健気ね。アキオ、妻にするなら――」
「そろそろ時間だ。ウサギ」
「はい」
アキオはアーム・バンドに触れて、少女のコートを淡い青色に変える。海水に対する迷彩だ。
「今からはフードを被れ」
そういって、再びバンドに触れる。
「あ」
「フードの前にシールドを張った。中からは見えるが外からは見えにくいように。これで水も防げるはずだ」
少女の赤い目は目立つ。
「ありがとう。アキオ」
ピアノはアキオの腕に軽く抱きつくと言った。
「驚いた」
ミーナの声がインナーフォンに響く。
「アキオって、こんなに過保護だったのね」
AIの声を無視して、少女のフードを軽く叩いてやる。
「では、そろそろ行きますね」
「無理に門を通るな」
「塀を超えます」
「よし、いけ」
「はい!」
少女は、元気な返事を残して、ものすごい勢いでジャンプしつつ高い樹々の枝を渡っていく。
「なんだか、ウサギっていう二つ名がぴったりって思いだしたな」
ミーナがつぶやいた。
しばらくして、先に倍する音量で鐘の音が響いた。
戦闘開始の合図だろう。
一斉に街から歓声が聞こえてくる。
海上から爆発音も轟き始める。
「あれのほとんどが火球と雷球なのか?」
海上を飛び交う巨大な赤と青の光球をみてアキオは尋ねる。
「ええ、複数の魔法使いが力を合わせて大きな球を作り出すらしいわ」
そう言って、ミーナはつづける。
「そうそう、作戦行動中だから控えていたけど、魔法に関しては、かなりのことがわかってきたわ」
「それはあとでいい」
「了解」
「船の攻撃方法は、魔法だけなのか?」
アキオは海戦を見ながら尋ねる。
「あとは簡単な投石器で、威力の弱い炸裂弾を打ち出す攻撃もあるみたいだけど、それは一割弱だそうよ」
物理世界の戦争ばかり経験してきたアキオには奇妙に見えるが、魔法という現象が存在する世界では、それが自然なのだろう。
30分後、アキオはバンドで時刻を確認し、RG70から一つ目小僧を外すと、地面に突き立てた。
いくつかあるボタンのひとつを押すと、折りたたまれた足乗せが広がる。
それに足を乗せてアキオは言った。
「出るぞ、ミーナ」
「行って!」
ミーナの声に合わせて、アキオはマシンのスイッチを押す。
爆発的な音と共に、地面を吹き飛ばしてロケットが飛び出した。
初めのうち、レイル・ライフルを担いだアキオの体重に苦しむそぶりを見せた一つ目小僧だったが、それを乗り越えると徐々にスピードを増していく。
なかなかの加速度だ。
アキオは体重移動と、簡単な操作系を駆使して両艦隊が集結する上空へとロケットを進める。
高度5キロで艦隊の直上に到達したアキオは、サイクロップスから飛び出した。
10キロ上空から行う旧式の高高度降下低高度開傘降下を何度か経験したことがあるので、その高度で、レーダー監視を気にしなくて良い降下など何でもない。
フードを被り、袖のボタンを操作して、ナノ・コートをウイング・スーツ・モードにする。
コードが体に密着し、裾が足首まで伸び、腕と胴体に膜が張ってムササビのような形態になった。
RG70の重さで、思うように飛行はできないが、ナノ身体強化を施しているため、軟着陸を気にする必要がないので気楽だ。
頭上で小さな破裂音が鳴り、体に軽い衝撃が通る。
サイクロップスがソリトン波のピンを打ったのだ。
ソリトン波自体は感知できないが、同時に打たれた超音波その他の波動が体に届くのを感じる。
ミーナの声が響く。
「わかったわアキオ。シアがいるのは旗艦ではなく、旗艦右手のフリゲート艦の艦橋よ」
「了解」
アキオは重力という鉄線に引かれるように動きの重いスーツを、強靭な筋力で操作し、旗艦のメイン・マストに近づいた。
手足を広げ急制動をかける。
広がったコートが風はらんで、ものすごい音を立てた。
これで予定の速度にならなければ、RG70のアンカーを外して水上に向けて撃つつもりだ。
弾丸発射の衝撃を吸収する後方ジェットをカットすると、レイルガンは、強烈なロケットエンジンに様変わりする。
だが、その心配は杞憂で、スーツの制動だけで予定の速度まで落とせた。
アキオは、手を伸ばしマストを掴む。
運動エネルギーに耐え切れず、バキバキと折れるマストを何度か掴みなおし、十メートルほど降下してやっと止まった。
巨大な帆船が少し揺れる。
アキオは、ウイング・スーツ・モードを解除した。
そのまま膝でマストを挟んで身体を固定しRG70を取り出した。
肩付けする。
戦況をざっと見渡したところ、被害は敵味方同程度のようだ。
勝敗が傾かないように、シアがコントロールしているのかもしれない。
「マストにとりついた。状況に変わりはないな」
「ちょっと待って、アキオ」
「どうした」
「これを聞いて」
ミーナの言葉とともに、音声が切り替わる。
サウンドの感じから、部屋の中の会話を拾っているようだ。
『意地をはらずに、続けて指揮をとってくださればよいのですよ、公爵様』
『嫌です。わたしは、もうどちらの兵も傷つけたくはありません』
『あなたが指揮しなければ、わが王国は敗北し、勇敢な水兵と無辜の民が命を失うのです』
『今までの指揮で敵味方の損害は同じになっているはずです。双方とも水兵の被害はありません。このまま膠着状態を続けて16:00の終了をむかえれば――』
『そんな勝手は許されません。前回、前々回同様、わが王国は勝つのです』
『好きにすればよいでしょう。わたしはもう指揮いたしません』
『指揮放棄とみなしますよ』
『お好きになさい』
少女の毅然とした声音にアキオはひやりとする。
同時に、彼は、なぜグレーシアの声が聞こえるか理解した。
あの少女ふたりに頼まれて渡した三つ目のリスト・バンド。
彼が別れ際に少女公爵に渡した箱の中身。
それらを合わせて考えれば、すぐに答えが分かったはずだった。
ミストラとヴァイユがグレーシアにリスト・バンドを送っていたのだ
『仕方がありませんな。もうこの海戦で完全勝利は無理でしょう。せめてその責任を取っていただく』
男の声が卑猥な色を帯びた。
『なにを!』
布の引き裂かれる音が連続で響く。
『裸など見られてもなんでもありません』
『その先もありますよ』
『お好きに。もうわたしは望みをかなえ、存分に生きました。体など差し上げます。戦闘さえやめていただければ』
肉がたたかれる音が響く。
『ほう、そこまでの覚悟、ご立派ですが……なぜ、その髪留めを大事に握っておられるのですかな』
『これは……駄目です。渡せません』
少女の必死の声が響く。
『うるさいですねぇ。昔から私はあなたが嫌いだったのですよ。生まれついての才能だか何だか知りませんが――その痣がそんなに偉いのですかねぇ。私のような優秀な士官をさしおいてまで』
「音声を切れ、ミーナ」
「了解」
アキオは、RG70を肩付けするとマシンガンのような速さで連射し始めた。20連のバレット・パックを目にもとまらぬ速さで交換しつつ、グレーシアがいる艦以外の、すべての帆船のメイン、フォア、ミズンマストを順に撃ち崩す。
ミーナの言ったように、ホロウ弾があたるマストは瞬時に霧散し消えていく。
同時に残った帆も衝撃波でズタズタになる。
さらに残った衝撃波が水面に当たって、異常な三角波を発生させた。
その揺れをものともせず、アキオは、敵味方すべての帆船のマストを破壊した。
続いて、船の後方、艫の喫水線近くを撃ちぬいていく。
船を浸水させ、魔法使いから火球と雷球を撃たせる余裕を奪うためだ。
せっかく、少女が命を懸けて引き分けに持ち込んだ戦況だ。目的を完遂させてやりたい。
30秒あまりですべての作業を終えると、アキオはRG70を背中に回し、女公爵のいる船にジャンプした。
メインマストの見張り台に着地する。
振り返りざまRG70で、旗艦のマストをサンクトレイカの国旗ごと吹っ飛ばした。
国旗などただの布だ。
他の2本のマストも消失させる。
そのまま艦橋の屋根に飛び降りると窓から内部に飛び込んだ。
アキオの目は、部屋の両端に立つ2人のフードの男と切り取られた少女の腕を持つ痩せた軍人風の男を視認する。
左から飛んでくる火球を、P336を抜きざまその衝撃波で消し去り、コートの下から取り出した避雷器を床に突き立て右から来る雷球を吸収させる。
膝をついて、ウサギの銀針と交換したまま持っていた金串2本を左右の魔法使いに投げつけた。
魔法使いの男たちの頭がフードごと消し飛ぶ。
「さて――」
体を起こし立ち上がりながら、アキオは言った、
P336をホルスターに挿して男と向き合う。
声から想像したとおり下卑た顔つきの男だ。
胸の勲章だけがやけに麗々しく光っている。
「お前には3つ選択肢がある」
アキオは少女公爵を見た。全裸にされている。
右腕が肘から切断されているが、それについて彼はさほど心配していなかった。
髪色を変えた時にナノ・マシンを与えてあるからだ。
マシンの基本機能によって痛覚は遮断され、血は止まり腕の再生が始まっているだろう。
腕を切断された衝撃のせいか、少女は気絶していた。
「ひとつは、女公爵の裸を見た目をつぶされて殺される」
ふん、と男は鼻を鳴らす。
「もうひとつは、女公爵の体に反応している貴様の体の一部を叩き潰して殺される」
男はゆっくり首を振る。
「最後は、女公爵の腕を切ったようにお前も四肢を切り取られて殺される――どれがいい」
男が大きく笑った。
「どれもごめんだな。それより、こういうのはどうだ」
男は血の流れる少女の腕を振り回していう。
「生意気なお前の四肢を切り取って、その目の前で、クソ生意気な小娘に俺の――いや先に殺してからゆっくりと――」
アキオは男に向かってP336を抜いた。
男の動きは意外なほど素早かった。
少女の腕をアキオの顔に投げつけ、身をかわす。
アキオは飛んできた腕をそっとつかむと床に置き、男と間をとった。
P336をホルスターに挿す。
「お前は、俺の大事なグレーシアを殺そうとした」
アキオの声は、深い暗黒の深淵から流れ出てくる悪魔の吐息のように冷たかった。
「では、私を殺すがいい」
男が踏み込みざま剣を振う。
アキオはそれを見て避けようとし――男の剣先のスピードが加速する。
ナノ・コートを切り裂いて、アキオの脇腹を傷つけた。
男はニヤリと笑う。
これまで、彼の痩身を見下して多くの敵が死んでいった。
自分を馬鹿にするものは許さない。
彼を見下す男たちの骨を折り、手足をむしって後悔の中で死に追いやることこそが彼の至福の喜びだ。
そして、また愚かなカモが現れた――
「驚いているな。まだまだいくぞ」
男が斬りかかる。
「アキオ」
落ち着いたミーナの言葉にアキオは心でうなずき、少しだけ速度を上げた。
避雷器を抜いて男の剣をはじく。
「面白い」
つぶやくアキオに男が尋ねる。
「何がだ」
「人がそれを使うのを初めて見た」
そういって、アキオは背後に飛び下がって避雷器をしまう。
「見せろ、もっと凄いのを」
挑発ではない。ただ、好奇心が言わせた言葉だ。
だが、男はそう取らなかった。
うなり声をあげて、剣を振り上げアキオに突進する。
目にもとまらぬ速さだ。
だが――
アキオは、半歩だけ後ろにステップして、男の剣に平手をあてて叩き折った。
「剣は駄目だ。せっかくの強化魔法だ。人の魔法がゴランよりすごいところを見せろ」
「化け物め」
男は、腰に下げた手袋をはめる。革製で各部が鋼鉄で補強してある。
もう一度強化魔法を発動する。体がわずかに発光した。
日に2回しか使えない魔法だが、これまで二重掛けした強化魔法を防いだものはいない。
「約束どおり、お前の四肢をむしり取ってやる。本当なら小娘の汚い痣つきの腕もそうしたかったが」
「やらなくてよかった」
「なに」
「苦しみが短くてすむ」
「馬鹿が」
叫びながら、男が全体重を乗せた右パンチを繰り出す。
アキオもそれに合わせてパンチを放った。
激しい爆裂音が響き、男の腕が肘のあたりまで裂けてはじける。
「所詮人間か」
アキオの地球語によるつぶやきを、男は理解できなかった。
だが、それだけに男の恐怖は倍化する。
理性をなくし恐慌状態におちいった男が、何か叫びながら左のパンチを繰り出した。
利き腕でないのか、先ほどよりも威力がない。
つまらなくなったアキオは平手で男の拳を弾いて吹っ飛ばした。
手首から先を失った男は、吹き出す血を見て気絶しそうになる。
「寝るなよ――まだ」
アキオは、手首のなくなった二の腕を握って骨ごとひねりつぶした。
男が人間とは思えないような悲鳴を上げる。
「さっき、おまえに3つの選択肢を言ったが――」
全裸で床に倒れる少女の蒼白な顔色を見ながら、アキオは避雷器を一振りして伸ばした。
「全部くれてやる」
アキオは避雷器で男の両目をつぶし、続く一挙動で手足を切断する。
倒れ落ちる男の股間を蹴り潰し、二十メートル先の壁に張り付かせた。
「ずっと寝てろ――」
アキオの目に、男の頭が壁にめり込んでいるのが映る。
「もう聞こえない、か」
すでに男は死んでいた。
アキオは、切断された少女の腕に近づき、その手に触れた。
指を開かせると髪飾りが見える。
「うそ……切り離された手が、ものを握り続けるなんてありえない。この娘、どれほど……」
ミーナの呟きが聞こえた。
アキオは髪飾りをポケットにしまう。
そっと腕の痣に触ると目を閉じた。
「置いていくの」
「証拠は必要だ」
「そうね」
腕を床に残したまま立ち上がったアキオは、コートを脱ぎながら少女に駆け寄った。
服でグレーシアを包んで抱き上げる。
「ウサギ」
アキオは呼び掛けた。
「はい」
「どこにいる」
「アキオの艦の右舷前方にいます」
「すぐいく。用意しろ」
「わかりました」
男が壁に叩きつけられた轟音のせいで、人が集まり艦橋の周りがうるさくなってきている。
アキオは少女を抱えたまま、P336を抜くと片手で艦橋前方の壁を撃ち抜いた。
大きく空いた穴から少女ともども外へ飛び出る。
空中で青いコートの少女が操るケスラを視認し、フォアマストを蹴って右舷に飛んだ。
最大限の注意を払って緩やかにケスラに降り立つ。
それでも大きく揺れるケスラを、ウサギはうまく操って落ち着かせた。
「ミーナの指示に従って、このまま岸に向かえ」
「わかりました」
サイクロップス・アイによるピンで、周囲30キロの地形、湖底の形状や洞窟から地下道までを把握しているミーナに任せておけば間違いはない。
あたりの海は、浸水で沈みつつある戦艦から逃げ出そうと海に飛び込む水兵や魔法使いでごった返している。
風に乗って滑るように進むケスラに注意を払う者、まして攻撃を加えようとする者は誰もいなかった。