表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
368/749

368.白鳥

「どうしますか」

 アルメデがアキオを見る。

白鳥号シーニュの実際の大きさは」

「全長120メートル、最大収容人員305名……」

「大きいな」

「タワー建設の終盤は、世界各地に作るミニ・タワーの建設速度を上げるため、組立工法プレファブリケーションを使いましたから」


 アキオはうなずく。

 ジーナ城で部品を作って、白鳥号で運び、現地で組み立てたのだろう。


 少女は困ったように少し笑い、

「ニューメアは、()()()を倒すため大陸中から金属を集めていました。それが補償によって無尽蔵(むじんぞう)に供給されたので――シジマが大喜びして作ったのが、白鳥号シーニュなのです」


 彼は、広場を見渡した。


 ヴァイユとカマラが、ユイノと何か話し込んでいる。


 兵士たちも、皆、事態の終息(しゅうそく)を知って緊張を解き、それぞれが談笑(だんしょう)していた。


 ギデオンによって殺された者はおらず、怪我した者も、治療用のナノ・マシンを与えられて回復している。


 地球と同様、低濃度ながらこの世界の人々の身体に入ったナノ・マシンは、感染症(かんせんしょう)にかかりにくくし、小さな怪我を(すみ)やかに治すが、完全な治癒効果は持たない。


 ザルドは何頭か逃げたようだ。


 このまま、()きと同じ隊列を組んで帰ることは可能だが――


白鳥号シーニュを呼んでくれ、皆を乗せて帰ろう」

「はい」

 アルメデが、アーム・バンドを操作すると、はるか上空から白い鳥のようなものが降下してきた。


 遠目(とおめ)には、楕円(だえん)形の胴体から、首と小さな羽が生えた鳥に見える。

 地球でいう白鳥の胴体を、もう少し円形にした形だ。

 近づくにつれ、それがかなり大きいサイズであることがわかり始める。


「大姫さま、あのゲルベに似たものは?」

 シャロルが、シミュラに尋ねるのが聞こえる。

 彼は知らないが、この世界のゲルベという生物が白鳥に似ているのだろう。

白鳥号シーニュ、わたしたちの乗り物じゃ。アキオ、皆で、あれに乗っていくのか?」

 彼がうなずく。


 地球の科学力を、この世界の者に見せるのは良くないが、視察に同行した40数名は、特にメルクが選び抜いた兵士だ。

 王が命じれば、簡単に秘密を口外することはないだろう。

 もし、漏れたとしても、魔王の乗物ということで収まるはずだ。


 やがて、静かに飛行艇は着陸した。


 伸縮性の脚が伸びて胴体が持ち上がると、底の一部が開いて、スロープになる。

「さあ、皆、馬車とザルドに乗って、中に入るのじゃ」

 シミュラの言葉で、白鳥号シーニュの大きさに唖然あぜんとしていた兵士たちが、出発の準備をして、スロープを登り始める。


()()はどうします、アキオ」

 ミストラが、キューブ状態のまま待機しているギデオンを指さした。

「つれて帰りますか?」


「危険だと思うなら、この船の武器で完全消去できるよ」

 シジマが何でもないことのように言う。


「それより――」

 カマラがヴァイユと視線を交わす。

「あのギデオンに()()をさせましょう」

「仕事とはなんじゃ?」

 シミュラが尋ねる。


「目立たぬように大陸を移動して、ギデオンの残りを見つけたら、わたしたちに報告、合体して再教育させるのです」


 アキオがヴァイユを見た。


 少女はうなずいて、

「そう、()()()()()と同じように――」

「あの子たちって?」


 アルメデは、すでに馬車がスロープを登りきり、王と王女たちが、彼女たちを待ってかたわらに立っているのを見て言う。

「その話はあとにして、先に中に入りましょう」


 金の瞳の少女がアキオを見た。

「ギデオンに、命令コマンドを送っても良いですか」

 彼はうなずき、

「制限はつけてくれ」

「わかっています。ある程度以上の知能は持たせないようにします」


 ヴァイユが手にした端末に触れる。

 肩から、小粋(こいき)に斜めにかけた小鞄(ポシェット)から、小さな青いカプセルを取り出して、指で(はじ)いてギデオンに打ち込み、

「これでいいでしょう」

 そう言って、彼女を見ていたラピィに目配せした。


「では、行きなさい!」

 少女が力強く命じると、巨大なキューブは溶けるように平たくなり、地面に消えていった。


「わたしたちも行きましょう」

 アルメデが言い、王と少女たちは、アキオと共に歩いて白鳥号シーニュの格納庫に乗り込んだ。


「広いですね」

 馬車5台が入っても、まだ広々としている庫内を見てシャロルが驚く。


「ご指示を」

 滑るように近づいてきたライスが声をかけた。


「兵士の皆さんを展望室へお連れして」

 ピアノが命じる。

「はい」

 返事をして兵士たちのもとへ向かう人形を見て、イワーナが尋ねた。

「あれは何ですか」

「うちの乗組員です」

「人間ではありませんのね」

「そうなのです。でも、よく気がつく良い子たちですよ」

「はぁ」

 エストラの少女たちは、眼を丸くして、数体のロボットが兵士を案内するのを見ている。

「ライス、皆さまに、ご挨拶なさい」

 ミストラが、一体のライスに命じた。


 アキオは、その動きで気づいたが、白鳥号シーニュ乗組員クルーであるライスの内部は、リトーのようにナノ・マシンでぎっしり詰まっているわけではなさそうだった。


 おそらく、そのほとんどが空気だ。


 ジーナ城のライスも空気が入っているが、もう少しナノ・マシンの割合が高い。

 力仕事が必要な度合いに応じて、マシン充填じゅうてんの度合いを変えてあるのだ。


 彼は、バルーン・ロボットと会話して笑う少女たちを見る。


 ライスに新しい科学技術はつかわれていない。

 これまであったものの応用だ。

 もとは、シミュラの発声練習のために作られたものだが、その基本(ベース)となった技術は、ずっと前に完成されている。


 250年の長きに渡り、独り研究室で過ごしてきた彼には、こういった奉仕(サービス)ロボットを作るという発想が抜け落ちていた。

 すべてを自分自身で行っていたのだ。


 兵士として生きてきた彼にとっては、その方が確実であったし安心だった。

 それが彼の生き方であり――限界であった。


 だが、少女たちは、彼が生み出した技術を使って、易々(やすやす)と彼の限界を飛び越え、より暮らしやすい人間的な環境を作っていく。


 家具などもそうだ。

 北極の研究所にいたころの彼は、木製の椅子やテーブルなど使ったことがなかった。

 いわゆる、木のぬくもり、というものが分からなかったし、必要だとも思わなかったからだ。


 実際のところ、彼には、今も、それがよく分かってはいないのだが、少なくとも()()()()()()()()王やソニャたちは、木のぬくもりを()きものと感じるだろう。



「シャロル王と姫さま方はこちらへ」

 アルメデが先導して、王と王女、イワーナとソニャを制御室コントロール・ルームに連れていく。


 (つや)やかに光る白亜(はくあ)の通路を歩いて、シュッという音とともに自動的に開いた扉をくぐると、

「まぁ」

 ソニャが胸の前で指を組んで、感嘆の声を上げた。


 広い制御室コントロール・ルームは、進行方向にあたる壁の三分の二が、有視界飛行のために透明になっており、外の美しいカヅマ・タワーが見えていた。


 その上部には巨大なスクリーンがあり、様々な情報を映し出している。


 窓に向かって、制御盤コンソールと椅子が並び、その後ろにはソファが扇形(せんけい)に並べられていた。


「おかけください」

 ライスに声を掛けられて、王とイワーナ、シャロルとソニャが、ソファに座る。


「アキオはこちらへ」

 ピアノに手を引かれて、彼は、部屋の中央に位置する椅子に導かれた。

 装飾がなにもない、ただの金属製の椅子だ。

「これはいい」

「はい。アキオならきっと気に入ると思っていました」

 少女が喜ぶ。


 他の少女たちもそれぞれ席に着いた。


 白鳥号シーニュ制御盤コンソールには、誰も座らない。

 基本的に、AIが操縦を受け持つので、座る必要がないのだ。


「離陸準備できました」

 穏やかなアカラの声が室内に響く。


 アルメデがアキオを見た。


 彼がうなずくと、

「出しなさい」


 アルメデの命令で、白鳥号シーニュは、ゆっくりと上昇を始める。


 窓から見えるカヅマ・タワーが、下に移動していき――頂点を超えると、アカラは上昇速度を上げた。


 スクリーンの一部に、みるみる小さくなっていく塔が映る。


 雲が見える高度まで上昇すると、白鳥号シーニュは、水平飛行に移った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ