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367.叱責

「アルメデさま」

 立ち上がったエストラ国王が、少女に歩み寄る。

 ナノ・マシンによって、もうすっかり足の傷はえたようだ。


「ようこそおいでくださいました。エストラは、あなた方を歓迎いたします」

「ありがとうございます」

「ですが、先ほどの怪物は――」

「あれは、もう大丈夫だと思うよ」

 ユイノがシャルラ王に言う。

「たぶんエネルギー切れだし――」

 ユイノは、降り立った少女たちを見回して。

「これだけ()()(そろ)ったら、ギデオン()()()、敵じゃないからね」


「ユイノ」

 アルメデが名を呼ぶ。

 なんだかこわばった顔をしている。

「色々尋ねたいことはありますが、まずは、一番重要なことから聞きます」

「な、なんだろう」

 いつにない、アルメデの切迫(せっぱく)した言い方にユイノが身構える。

「その、胸に輝いている襟玉石クロイツェはどうしたのです。まさか――」

「ああ、これは、その……」

 だんだんユイノの声が小さくなる。

「アキオが出店で取ってくれた」

 最後は、聞こえないほど小さい声だが、ナノ強化した聴力をもつ少女たちには、はっきり聞こえた。

「ああ」

 アルメデがため息交じりの声を出す。

「ついに、あなたが二人目の――」

 言葉の最後は、突然響き渡った轟音(ごうおん)にかき消された。


「ギデオン!」

 ユイノの叫びに、全員が音の方角を見る。


 広場の中央付近に、巨大な土煙が舞い上がっていた。


「いったい何だい――」

 ほこりがおさまると、そこには葡萄色ワインレッドの髪の大きな少女が立っていた。


「ラピィ、おぬし、もう少し静かに降りられぬのか」

 シミュラが苦笑する。

「彼女は、まだ杖の操作に慣れてないのです」

 アルメデに瓜二(うりふた)つの髪の長い少女が擁護ようごした。


 大柄(おおがら)な少女は我関われかんせず、といった様子で豊満グラマラスな身体を運んで広場のケルビに近寄り、首に手を当てる。


「アキオ」

 シャロルは、見事な銀髪の、どこかで見たことのある美少女が彼に話しかけるのを見た。

「さっきのあれはギデオンですね。『神』とやらはどうなりました」

「分離はした」

「プログラムは役ち立りましたか」

 金色の瞳の少女が続いて(たず)ね、

「完璧な効果だった」

 アキオの返事に美しい笑顔を見せる。


「ですが、ギデオンはまだ活動中のようです」

 いきなり地面から突き出て襲ってきた黒い槍を、振り返りもせずに拳で消滅させた赤い瞳の少女が告げる。


「こいつらの、最後の()()()をどうするか、だね。もうすぐエネルギーが切れるだろうけどさ」

 ユイノが皆に問う。


「簡単です」

 声と共に、ぐわん、と音がなって、ひときわ大きい槍が空中に吹き飛んで行った。

 ギデオンを殴り飛ばした拳を握ったまま、たくましい美少女が続ける。


「ユイノ、あなた、ポケットに()()()()()()()を持ってるわね」

「ラピィ、な、なんで――」

「わたし、あなたが、いつもキューブに入れたギデオンを持ち歩いて、時々話しかけてるのを知っているの」

「へぇ、なんでユイノはそんなことを?」

 緑の髪の少女が、アキオにしがみついたまま尋ねる。


推察(すいさつ)ですが、おそらく独りごとを聞いてもらっているのでしょう」

 手を振って話を()めるように懇願(こんがん)する舞姫(ダンサー)に構わず、少女は続けた。


「ということは、そのギデオンを捕まえたら、ユイノの恥ずかしい独り言を、いろいろ聞くことができるんだね」


「な、な、なんてことを……」

 慌てるユイノを無視して、

「とにかく、早くキューブを出してください」

 少女は穏やかに言う。


「あれ、ラピィ、なんか少し怒ってる?」

 緑の髪の少女が、不思議そうに尋ねた。


 その問いには答えず、気の進まない様子でユイノが差し出す小さなキューブを手にした少女は、蓋を開け、再び彼女に襲い掛かった黒槍の中に腕ごと打ち込んだ。

 突き刺さった腕の中でキューブを握りつぶす。


「聞け、ギデオン!」

 槍が崩れ去ると、広場に向かって少女は叫んだ。

 素晴らしい体格から放たれる声は、深く、よく響き、そして威圧感があった。


「やっぱり怒ってるよ」


「あなたたちは、わたしのアキオを傷つけた」


「え、怪我をしたのですか?」

 少し暗めのピンク髪の少女が驚く。

 その髪色はサンクトレイカの王族の色だ。

 アキオのもとに駆け寄って顔を見あげた。

「無事だ」

「たぶん、ドッホエーベのことじゃろうな」

 大姫シャトラが説明する。


「そして、今も皆を傷つけようとしている!嘘をついてもダメです。先ほど()()()()()()()()()。さあ、姿を見せなさい」


 今まで土中にいたギデオンが地表に現れ、公園の芝の上で巨大なキューブ状になった。


「いいですか、今、()()()()()()()()()から、よく学ぶのです。そしていい子になりなさい」


 その様子を見ながら、

「ああ、思い出しました」

 栗色の髪の少女、これも驚くほど美しい、が手を叩くようにしていう。

「最終的に、うちのギデオンは、ラピィによって矯正(きょうせい)されたのでした」

「そうです。どうすればギデオンが恐れるのかは謎ですが、彼女の教育を受けた途端(とたん)に、素直になっていましたね」

 灰色の髪の少女が笑顔を見せずに言う。


 シャロルが、眼を丸くしてその様子ようすを見つめる中、

「ここにいる者で全部ですか」

 ラピィという名の少女が尋ねる。

 キューブの表面が揺れて、返事らしきものを返した。

「本当でしょうね。わたしにはわかりますからね」

「本当にわかるのでしょうか」

「それはわからんな、カマラ。なにせラピィじゃからの」

「もはや、そういった問題ではないような気がします――要するに、()()()()()()()()()()()()()上書(うわが)きした、ということですね」

「そのようじゃな」

「それはよい考えです。ただのギデオンが、数は少ないとはいえ、アカラとの融合を経験したギデオンに勝てるはずがありませんから」

 銀髪の少女が断言する。


「もし、嘘をついたり、一部分でも逃亡したら、()()()()()()()わたしが駆り出して駆除します。わかりましたね」

「それって……」

「多分――彼女ならできるのでしょうね」


「あ、あの――」

 声をかけたシャロルに、少女たちが振り向く。

「おお。久しぶりじゃの、シャロル姫」

 シミュラが嬉しそうな声を上げ、近づいた。

「あ、あの、大姫さま。皆さまにご紹介を」

「ああ、すまなかった。そうじゃな――当面の危険は去ったか。よし」

 シミュラは、シャロルの前に立ち、

「とりあえず名前を教えるぞ。左から、カマラ、ピアノ、キィ、ヨスル、ヴァイユ、ミストラ、アキオにしがみついているのがシジマ、ユイノは知っておるな、アルメデ、そしてラピィじゃ。あとひとりいるが今日は来ておらぬ――どうした」

 シミュラは、王女が、胸の前で重ねた手を握りしめるのを見て尋ねる。


「いえ、皆さまお美しいかたばかりで」

「そうじゃな、だが、前にもいったであろう。この者たちの値打ちは()()にはない」

「はい」

 シャロルはきっぱり返事をする。

「恐怖で、後ろに下がらない気持ち、折れない心をお持ちなのですね」

 シミュラが笑顔になる。

「良い姫であろう」


 わっと少女たちが、シャロルとソニャを囲んで口々に話し始める。

「あなたがソニャさま。お話はユイノさんからお聞きしています」

「アキオが巨大なゴランを倒すのをご覧になったとのこと、お話し願えますか、その時のことを」

「王女さま、螺旋塔スパイラル・タワー浮彫(ゾエント)について――」

 わいわい言いながら質問攻めにする。


「アルメデ」

 シジマから解放されたアキオが、その輪から離れて立つ少女に声をかけた。

「メデ、です」

 美少女がほんの少し目を(けわ)しくして(こた)える。

「メデ、君はシャルラ王に会ったことがなかったのか」

「はい。エストラは、シミュラに任せていましたから」

 アキオはうなずく。

「君たちは、どうやって、ここまできた」


 全員が、噴射杖ロケット・ケーンで飛んで来たとは思えない。


「シジマやカマラたちと、最近作った高速艇できました。アキオは、まだ見たことがありませんでしたね」

「高速艇」

 アキオのつぶやきに、アルメデは美しく笑い、

「確かに最高速度は速いのですが――皆の希望で、かつてあなたが皆と一緒に旅をした馬車をイメージして作られた大きな船です。今は、アカラに任せて上空を旋回させています」

「名前はあるのか」

「はい」

 アルメデは、金色の髪をサラサラ揺らして答える。

白鳥号(シーニュ)です」

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