表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
366/749

366.推参

「ユイノ、空中の槍は引き受ける、君は王を――」

「分かったよ。誰一人、殺させない」

 アキオはユイノの近くに移動し、彼女を狙う槍を蹴り飛ばした。


 その隙に、紅髪(あかがみ)の少女は凄まじい速さで地面に急降下する。

 突進する槍をかわし、地表に激突するギリギリでジェットを逆噴射させた。

 

 そのまま噴射杖(ロケット・ケーン)から飛び降りて、空中で収納し、美しく回転してシャロルの前に降り立つ。


「慌てなくていい」

 インナーフォンに響くアキオの声に、彼女はうなずいた。


 太陽フレアの影響を受けない、ソリトン波を利用した短距離通話だ。


「久しぶりの物理操作のためか、エネルギー不足が原因か、そいつの動きは遅い」

「そうだね」

 アキオの予想が正しければ、ギデオンは、ここしばらくグレイ・グーの中で休眠状態だったはずだ。


「ユイノさま」

 彼女の背にシャロルの声がかかる。

「もう大丈夫だよ。あんなやつに指一本触れさせやしない」

 振り返ったユイノが少女を見た。

「はい!」

 その信頼しきった様子に、彼女は表情を緩める。

「見てたよ、王女さま。たいしたもんだ。でも、怖かったら逃げてもいいんだよ。逃げるのも――」

「いざという時、逃げるのが勇気、それはわかります。だから、わたしのは勇気ではありません。わたしは、ただ、()()()()()()()()だけなのですから」

 巨人を見上げながら、王女に近づいたユイノは彼女の肩を抱いた。


 味方を見捨てて逃げられない、それは()()()()()()者の美質(びしつ)だ。


 舞姫ダンサーは少女の髪に触れ、優しい声で言う。

「姫さまにこっそり教えるよ」

「はい」

「あたしが前にいったこと――一応、勇気っていってるけどね。実はそんなはっきりしたもんじゃない。勇気なんて、人と状況によって変わるもんさ。ただ――」

 ユイノは王女の髪を撫で、

「長い人生を闘い続けてきたアキオは、その()()()()()が好きなんだ。あたしたちにとっちゃ、それだけで充分じゃないかね」

「ユイノさま!」

 シャロルが涙ぐむ。

 彼女の後ろに立つソニャも笑顔でうなずいていた。


「イワーナさま」

 振り返らずにユイノが名を呼ぶ。

「はい」

 舞姫(ダンサー)は、コートの隠しポケットからナノ・カプセルを取り出した。

「これをシャルラ王に、怪我が治る薬だ」

「わかりました」

 駆け寄ったイワーナがカプセルを受け取る。


「さてと」

 ユイノは改めて、いまだ動かない巨人を見た。

 

 こいつはギデオンだ。

 少々破壊しても、すぐにもとに戻るだけだろう。


「どうするかね」

 少女のつぶやきに、アキオがインナーフォンで答える。

「試したいことがある。君は皆を守っていてくれ」


 通信を終えたアキオは、地表から、しつこく伸びてくる槍を破壊した。


 荒野の記憶の残滓(ざんし)があるのか、彼を危険要素と見なすギデオンは、空中に足止めしながら巨人を動かそうとしているのだ。


 ならば――

 アキオは、ポーチから紫のカプセルを取り出した。

 ナノ強化された指の力で上空に向けてはじく。


 先ほど、グレイ・グーに打ち込んだナノ・マシンには、()()()()()()()が書き込まれていた。


 ヴァイユに頼んで作成(コーディング)してもらい、今朝、データとして受け取ったものだ。


 それは、ある種のウイルス・プログラムで、グレイ・グーに感染して中身を書き換える。

 ()()()()()()()、ナノ・マシンは、異物であるギデオンを排出(はいしゅつ)したのだった。


 さっき始まった太陽フレアの異常は、まだ続いているため、グレイ・グーはカヅマ・タワーによって分解されていない。

 つまり、さっきギデオンから解放されたナノ・マシンは、希薄(きはく)ながら上空を(ただよ)っているはずだった。


 アキオは、なおも続く槍攻撃をかわしながらアーム・バンドを操作すると、空に向かって命じた。

「リトー起動スタートアップ

 上空で小さな破裂音が鳴り、()()()()巨大に膨らんだ膜が、徐々(じょじょ)人形(ひとがた)に変わっていく。


 アキオは苦笑した。


 一応、リトーは起動しそうだが、この程度では、とてもギデオンとは戦えないだろう。

 プランB(別の方法)を考えなければならない。


 彼は地上を見た。

 巨人が動き始めるのが目に入る。


 同時に黒槍が発生しなくなった。


 おそらく、ギデオンの数とエネルギーの()ね合いで、同時操作はできないのだろう。


 リトーの操作をあきらめたアキオは、ジェット噴射を使って地表に向けて急降下した。


 飛びながらP336を取り出し、動き始めた巨人の両腕をレイルガンで破壊してから、シャロルの前で巨人と向き合うユイノの横に降り立つ。


「それで、どうするんだい、アキオ」

 ユイノが良い笑顔で(たず)ねる。

 不安など微塵(みじん)も感じていない顔だ。


 アキオはコートに手を入れ、シジマが開発した携帯型ポータブル・粒子加速器コライダー(つか)んだ。


 一時的にせよ環境に悪影響を与えるため、あまり使いたくない武器だが、守るべき友軍が多く、戦いに時間がかけられない現状では仕方ないだろう。


 腕が復元された巨人が、再び攻撃をしかけた。

 アキオが、ワンド型の粒子加速器(コライダー)を取り出したその時――


 轟音(ごうおん)とともに、巨人の胸から上が吹き飛び、緑色の光に似た物体が胴体を突き抜けた。


 それは、あたかも重力機動飛行(スイングバイ)するように急速に向きを変え――


 小ぶりな緑のかたまりが、巨人の体をぐように縦横に走ると、残った腕、胴、足が寸断されて崩れ去っていく。


 緑の物体は、素晴らしい速さで地面に着地すると、そのままアキオに衝突――飛びついた。


「い、いったい……」

 驚くシャロルやイワーナたちの耳に、無邪気(むじゃき)で可愛らしい声が響く。


「ねえ、見た、見た?ボクの今の動き――アキオ!」

 彼は苦笑する。

「珍しく派手だな」

「だって、ドッホエーベじゃ、ボクだけ良いところが見せられなかったからね」

緩和曲線(クロソイド)、いやスイングバイに似た軌跡(トラジェクトリー)だな」

「やっぱり、アキオだ。分かってくれたんだね。あれは伸縮性のナノ・ワイヤーを獲物(エモノ)にひっかけてね――」


「ちょっと、なんだいこれは。びっくりするじゃないか、シジマ!」

 ユイノが腕を組んで(とが)った声で少女の言葉を(さえぎ)る。


「へへ」

 緑の髪を彼の胸にこすりつけながら、小柄な少女が笑った。


 ユイノと同じデザイン――ただし、かなり(たけ)の短い――緑色のコートの(すそ)が可愛く揺れる。


 可憐(かれん)な姿を見て、

「なんてきれいな方――」

 シャロルがつぶやいた。

「ん?」

 ユイノが、何かに気づく。

「ちょっと待って!あんたが来てるってことは、ひょっとして――」

「もちろん、()()()来たよ」

「みんな――」

 ユイノが絶句する。


 その時、空から様々な色が、尾を引くように素晴らしい速さで広場に降りてきた。

 地表間近(まぢか)で急減速し、優雅にふわりと着地する。


 全員が、色違いながら、ユイノと同じデザインのコートを身に着けた少女だった。


 一人が歩み出る。

「まあ」

 シャロルがつぶやいた。

 風に揺れる短い金髪、澄んだ(あお)い眼の少女は、彼女が見たことがないほど美しく――威厳があったからだ。

 少女は、優雅に美しいお辞儀を見せると笑顔で言った。

「初めまして、エストラの皆さま。わたしはアルメデと申します。ヌースクアムを代表して親愛のご挨拶をいたします」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ