表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
338/749

338.朝餐

「おはよう、アキオ」

「おはようございます」

 朝、目を覚ますと、彼を上から見つめる四つの目があった。

 紫がかった青い瞳と金色の瞳、シジマとヴァイユだ。

「どうした」

 アキオが尋ねると、ふたり同時に彼の首元に抱き着く。

「なんでもないよ」

「そう、何でもありません」

 そういいながら彼の髪をくしゃくしゃとかきまわす。


 目覚めてからの数日間、日替(ひが)わりに少女たちから似たようなことをされているので、特に疑問はない――が、今朝は少々激しいようだ。


「嘘です。この三か月、ずっと目をつむったままのあなたの寝顔を見ていたので――」

「朝、起こして目を開けるところを見たかったんだ」


「そうか」

「本当に目を覚ました瞬間は、ラピィに()()()()からね。(くや)しかったんだよ」

 そういって、シジマはアキオから身体を離すと、全裸のままシーツから滑り出て寝台の横に立ち、大きく伸びをした。


「まあ、シジマったら――全部見えてますよ」

 同じようにアキオから体を離したヴァイユは、シーツの下で下着をつけ、ヴォドノフ、地球で言うシュミーズのような肌着姿でベッドサイドに降り立った。


「なんかなぁ、肌の出し惜しみをして、何かいいことあるの?」

「何ですか?」

「だって、お風呂は一緒に入ってるし、さっきまでアキオの身体を()でまわしていたくせにさ。突然、こそこそと服で隠して……」

「な、撫でまわしてなんかいません――()()()()

「してるんじゃないか!」


 ヴァイユがシャツとスカートを身に着けながら言う。

「それとこれとは、()()()別です」

「たぶん、って――」


「何というか――女性としてのたしなみですよ。あなたやラピィのように、なんでも奔放ほんぽうにすればよいというものではありませんからね」


「ひとつしか違わないのに、年上ぶってさ」

 シジマは腕を組み、

「アルメデさま、シミュラ、ユスラさま、ピアノ――カマラも似たようなもんじゃないかなぁ」

「あの方たちは、全員、王族じゃないですか。高位貴族と王族は――仕方ありません、ね」

「ラピィも女王らしいけどね――アキオはどっちが好み?恥じらいと大胆と」


「恥じらいと大胆……」


「ユイノとラピィだよ」


「どちらも健康だな」


「もういいよ。これは、わかってないよ。それともわからない振りをしてるのかな」

「シミュラさまとラピイの話だと、実際、よくわかっていないようです。少しはわかりつつあるらしいのですが――アキオの一番の関心事は、わたしたちの健康だそうですから」


「ボクさ、アキオって、動物も人間のように扱っているんだと思ってたんだけど、最近、人間も、男も女も、動物のように扱ってるんじゃないかと思う時があるんだよね」


「どっちでも同じじゃ」

「わっ」

 突然、背後から響いた声に、シジマが飛び上がった。

 窓枠(まどわく)にシミュラがつかまって外から部屋を見ている。


「おぬし、いつまで素っ裸でおるのだ。早く服を着よ。アキオはもう着替えておるではないか」

「あーいつのまに」

「なぜ、窓から来られたのですか?」

 この部屋は地上4階にある。

「今朝は庭園で朝食をとる予定じゃぞ。皆が席につこうとしているのに、おぬしたちがまだじゃから、わたしが使()()()()をさせられたのじゃ。どうせ、そやつの寝顔でも見ていて遅くなったのじゃろう」

「鋭い――けど、使い走りは仕方ないよ。()()()()()()、ここまでくるのに2秒もかからないもんね」

「なんじゃ」

「なんでもありません。すぐ行きます」

「待っておるぞ!」

 

 アキオたちが庭園に出ると、降り注ぐ朝陽(あさひ)のもと、長いテーブルに真っ白な布をかけた食卓に少女たちはついていた。


 それぞれの席の前には、白い皿の上に、アキオの知らない野菜と、見たことのないパンのようなもの、そして彼の知らない塩豚ハムに似たものが置かれていた。


「遅いよ、シジマ」

「そうだよ。今日も仕事がつまってるんだからね」

 ユイノとキィが声をかける。


「では、いただきます」

 全員がそろうと、少女たちはユスラの掛け声で、手を合わせてから食事を始めた。


 数日前、彼が目を覚ましてからは、毎朝、こんな調子で食事が始まるのだ。


 初めのうち、なぜ彼女たちが地球の()()()()()()()()をしているのかわからなかったのだが、聞いてみると、彼の記憶にあるアカネ・ヘルマンの食事が気に入ったから、という答えが返ってきた。


 おそらく、シミュラが彼の記憶を読み取ったのだろう。


「皆がそろって温かいものを食べると、それだけで美味(おい)しい、でしたね」

 ヨスルが微笑んだ。


 その言葉にふさわしいなごやかな雰囲気ふんいきで朝食は始まった。


 が、その食事時間は、ゆっくり楽しんで食べる、という言葉からは程遠い短いものだった。


 無作法ではないが、決して優雅とはいえない速さで食事を終えると、

「ごちそうさまでした。アキオ、お先に失礼します」

 そう言って、各自がトレイごと自分の食器を手に取り、テーブルのかたわらにひかえるライスのワゴンに置いて、そのまま、それぞれが様々な方角へ散って行く。


 アキオが目覚めてからも、少女たちは、追われるように各自の作業に没頭しているのだった。

 どんな作業なのか、彼は詮索(せんさく)しない。

 必要なら、彼女たちの方から伝えてくるだろう。


 ちなみに、もと軍人のアキオは、誰よりも早く食事を終えている。


「おやまあ、みんなせわしないねぇ」

 そんな中で、ただひとり、ゆっくりと食事を続けていたユイノが言う。


 どうやら、今日のアキオの相手は彼女のようだった。


 目覚めた日に、これから10日間程度は研究を忘れて、一日にひとりずつ少女の相手をして過ごすように言われているのだ。


 これは、()()()調()()()()()()()()()()()()、少女たちの苦労をねぎらうためのものだから、必ず守ってほしいと、アルメデとシミュラから釘を刺されている。


 もちろん、アキオにいなやはない。

 彼が眠っている間に、少女たちが、彼とミーナの起こした厄災やくさいの後始末をしてくれたのだから。


 ふたりだけ残った食卓で食事を終えると、ユイノがテーブルを回って、立ち上がったアキオに近づいてきた。


「どうしたんだい」

 じっと自分を見るアキオの視線に気づいて少女が尋ねる。


「いや、()()()()()君の歩く姿は完璧(パーフェクト)だ」


 因果いんがならしょうによって、アキオは、人が動くときには常に、その重心と荷重移動を計ってしまう。


 格闘において、敵の重心把握じゅうしんはあく重要事項(じゅうようじこう)だからだ。


 重心を足の位置より外にずらしてやるだけで、たやすく人は転倒する。

 さらに、爪先、膝、腰、背中のどれかを使って身体を跳ね上げてやれば、自重によって重大なダメージを受けることになる。


 物心ついた時から、薬物による強化で怪力であった彼は、それほど重心を重要視していなかったが、その後に受けた戦闘訓練では、それこそ血を吐くほどその技術を叩きこまれたのだ。


 それゆえ――彼は、踊子ダンサーが歩く際の()()()()()()()()()()()()()に、いつも見惚みとれてしまうのだった。


「なんだよ、あんたらしくない」

 そう言いながら、素早くあたりを見渡して、少女たちの眼がないことを確認すると、ユイノは身体をアキオにしっかり寄せて、身長差のある彼の腕を抱きしめる。


 紅髪の舞姫ダンサーは、舞台ステージ以外では相変わらずの恥ずかしがりやなのだ。


「今日は、城の外に出るんだよ。エストラのカヅマ・タワーを見に行くんだ」



 惑星上に無い希少金属レアメタルラグナタイトを探すため、カマラ、ピアノ、ユスラとサフランは定期的に宇宙に出ている。


 その際は、シジマが改造を加えたカイテンアルファとカイテンブラボーの二つの成層圏ロケットを使っているのだが、できるかぎり、そのことをアキオに気づかれないように、彼女たちが宇宙に出る時はアキオをジーナ城から離すようにしているのだ。



 ただ、今回、エストラのカヅマ・タワー近郊(きんこう)では、いわく言いがたい出来事が発生していたため、その調()()()()()()()()()――ユイノにとっては逢引デート、をするように、アルメデたちから頼まれている。


ザルド()で行くと時間がかかるから、今日はセイテン改で行くよ」

「わかった」


 少女たちによって、ギデオン・ラッシュ、あるいは、灰色の拡散グレイ・ディフュージョンと名付けられた、()()()()の後に、シジマが改良を加えたのがセイテン改だ。


 この日の予定――

 本来なら、ユイノを、アキオと二人だけで、一日過ごさせるためだけの道行みちゆきだった。

 カヅマ・タワーの視察はつけたしだ。

 目的地も、舞姫ユイノが、アキオとシミュラが()()()()()()()で見た、王都オルトの螺旋塔スパイラル・タワーを見たいといったから決まったようなものだ。


 だが、事態は予想外の展開を見せ、その結果、この惑星に、()()()()()()()()()()を生み出すこととなるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ