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310.教育

「ギデオンか――」

「そして、紅良アカラね」

「生きていたのか、紅良アカラ

「アイ。爆発の寸前に、AIキューブを射出してしまいました。腰抜けで申し訳ありません」

「よくやった。可能な限り命を惜しむのが兵士の要諦ようていだ」

「ありがとうございます。ボス」

「アキオでいい」

「イエス、ア、アキオ……アキオ」


 甘い口調で名を呼ぶAIにシミュラが呆れる。

「まったく、こやつにかかると、人も動物も機械も区別がないの」


「ギデオン、あなたも挨拶なさい」

 アルメデが命令する。

「は、はい。わたしはギデオン。役に立つ……と思うので消さないで」


 ()()()()と話す黒蟻(ギデオン)に、微妙な表情になるアキオの視線を受けて、アルメデが笑いだした。


「ずいぶん可愛くなったでしょう。そう――まるで借りてきた(あり)……」

 女王は、地球人にしかわからない成句(せいく)を言う。


()()()()わたしが見つけたのだ。こういうものには勘が働くのでな」

「はい、シミュラさまに、AIキューブを見つけていただかなければ、わたしはきっと灰色の悪魔(グレイ・グー)に侵食されていたでしょう」

「ヴァイユたちを救出するときに、地面に転がっているのを見つけたのじゃ。なんとなく気になったので拾って帰ったのだが――正解だったの」

「でも、仮にも、エストラの女王が、あの騒動の中、地面に転がってるものを拾って帰るっていうのもすごいよね。なんていうのかな。王族なのに貧乏性(びんぼうしょう)……」

「聞こえておるぞ、シジマ」


「ギデオンも生き残っていたのか――」

「ああ、こやつは、ニューメアの連絡艇の(すみ)で、干からびそうになっておったのじゃ。気になったから袋に入れて――」

「やっぱりおかしいよね。そもそも女王さまが袋なんて持ち歩くのかな」

「わたしは、子供の頃から市井しせいの者と交わって、いろいろとじゃな――」

 アキオの表情をうかがいながら、微妙に慌てるアルドスの魔女を(さえぎ)ってアルメデが言う。

「と、まあ、意外なシミュラの一面に驚きながら、2体のAIを手にいれたのですが……」


 アキオはうなずく。


 ギデオンは、思考過程の不明の危険なスウォーム・知能インテリジェンスだ。

 いつまた世界の破滅を考えるかわからない。

 いろいろと手は講じているだろうが、それを利用するのはかなり危険だろう。


「危ないことをしたな」

「はい。すみません」

 アルメデが肩を落として謝る。


「手が足りなかったのだ!」

 シミュラがかばうようにアルメデの前に立った。


「ミーナはいない。ジーナ城の娘たちは全員眠っている。科学に関しては、ニューメアの一部の者以外、この世界では誰ひとり役に立たない――」


 シミュラは猫のように切れあがった眼で、アキオを見つめながら続ける。


「だが、グレイ・グーの処置は待ったなしじゃ。キラル症候群シンドロームを治す竜娘サフランの手伝いも必要であったし、何より――」

 アルドスの魔女は声を震わせる。

「無理をし過ぎたおぬしの心臓は、何度も何度も止まるのじゃ――わたしはいったぞ。世界は放っておけ、まずアキオを救おう、と。だが、アルメデは、おぬしに世界を頼まれたからと――」

 蒼い眼の女王が、そっとシミュラの腕に手を触れる。

「ありがとうシミュラ。あなたは優しいですね――アルドスの魔女なのに」

 柔らかい笑顔とともに、そう冗談を言い、勢いで話していたシミュラが我に返る。

「魔女は余計じゃ」

 そういって女王から顔を背ける。


「すまなかった、アルメデ。無理をさせた」

 ぽつりとアキオが言った。


 しばらく、誰も言葉を発しなかった。


 ミーナさえいれば、それらの問題すべてが解決されたであろうことが分かっていたからだ。

 いなくなって、皆が、あの姉御肌あねごはだでお節介で、思慮深く優しく厳しい、史上最高に有能なAIの素晴らしさに、あらためて気づく――


「ニューメアと回線をつないで、ラートリと紅良アカラ、わたしとサフランで何度か話し合いました――そして、ギデオンをナノ絶縁カプセルにいれて、再教育(リエデュケイト)しながら使うことに決めたのです」

再教育(リエデュケイト)……」

「ギデオンがあのように破滅的な性格になったのは、もともとゆがんだコラドの人格をベースに、急速に膨れ上がった総個体数、つまり()()()()()()()()()()()()したことが原因、とラートリは判断したの。スウォーム・知能インテリジェンスであるギデオンにとって、簡単にいえば、各個体が脳細胞の一つのようなものだから――人格が安定する前に、知力を持ちすぎたというわけね」


「数を制限――つまり知力を制御コントロールしながら再教育すれば安全に使える、か」


 アルメデがうなずく。


「シミュラが袋にいれて持ち帰ったギデオンは、両手に乗る程度の数しかなかった。それもエネルギー切れで死にかけていたの。わたしたちは取引を持ち掛けた。助ける代わりに、厳しい教育を受けて生まれ変わらないか、と。彼女は承諾したわ」


スウォーム・知能インテリジェンスとは面白いものだの。袋に入れて持ち帰って最初に話をした時、こやつは子供のような話し方しかできなかったのじゃ。数が減りすぎていたのだな。あの悪魔のような話しぶりだったギデオンの成れの果てが、これだと思うと少し哀れではあった」 


「わたしがずっとついて教育することはできなかったから、紅良アカラを教育係にして、一日中倫理や人の道を教えさせた。シジマの育てた紅良アカラは、ミーナの進化をシミュレートした教育プログラムで作られた完成度の高いAIだったから」


「過ぎた高評価、ありがとうございます」

 AI(アカラ)が礼を言う。


「最初からミーナのプログラムで育てるには時間がなかったから、わたしとシミュラが手の空いた時間に、そして大部分の時間を紅良アカラによって再教育を行い、3日でプログラムを終えたの」


「あの傲慢ごうまんだったギデオンが、見違えるように従順じゅうじゅんになりおったぞ。まあ、わたしの見るところ、紅良アカラよりわたしより、こやつはアルメデを恐れておったな。いったい、どのようなを与えられたのやら――」


「失礼なことをいわないでください。わたしは、ただ人の道を説いただけです。もちろん、アキオとみんなに対して(おこな)った仕打ちから、多少は感情的になることもありましたが――ねえ、ギデオン」


「ひぃ――も、もちろんです。アルメデさま」


「じゃろう?」

 我が意を得たように笑うシミュラを見て、少女たちが何ともいえない顔をする。


「その後、みんなが回復するにつれ、時間を作ってギデオンと話をするようにしてもらったの。AIの人格形成はコミュニケーションが基本だから」

 アルメデが、にっこり笑う。


 その笑顔のまま、凄みのある声を出す。


「当然のことながら、あの黒蟻ギデオンをそのまま信じて、アキオの治療を手伝わせるわけにはいかない。だから知能制限をかけた彼女を制御コントロールするように、紅良アカラを接続して、融合人格(フュージョン)として働かせることにしたの」

「それでアカラ・ギデオンか」

「そう」

「今は、分離しているのか」

「やるべき仕事も多いので、先日から部分的にだけ融合させているわ」

 アキオはうなずいた。


「さらに、アキオの治療補助のために、ニューメアから医師も連れてきています。あとで会わせましょう。コラドの従兄弟いとこです――あ、血縁といってもご心配なく。彼とはまったく違う温厚な人格者だから」

「わかった」

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