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028.油断

 アイギス・ミサイルに搭載されていた光量子ソリトン・レーダーによって、飛行経路の半径10キロの地形が立体測量されている。

 そのデータによると、ゴランに接敵せってきした地点から2キロ南西に、アジトにおあつらえ向きの洞穴が存在していた。

 その内部でヒトサイズの動体が検知されているため、おそらく盗賊のアジトはこの洞窟に違いないだろう。


 アキオは、洞窟の50メートル手前の樹上で停止した。

 隣の枝にユイノが降り立つ。

 アキオは、こっちに来いとユイノを手招きした。

 あらかじめ手信号ハンド・シグナルを教えるべきだったかもしれない。

 ユイノは、うなずいて音を立てずにアキオの枝に飛び移った。

 アキオは、彼女の耳に口を近づけて言う。

「この先の洞窟、あそこに入口が見える、あれがおそらく盗賊のアジトだ」

 暖かい息を感じて、硬直したユイノにアキオは続ける。

「見たところ奴らは銃声には気づいていないらしい。だが、付近にゴランがあと3体いるはずだ。警戒していてくれ。俺が先行して盗賊の見張りを倒す。その後にユイノに合図を送るから入口まで来てほしい」

 少女は声を出さずにうなずいた。

 ダテに舞踊団の警護をしてきたのではないようだ。いつ声を出し、沈黙を守るべきかをユイノは心得ている。


 アキオは、ジャンプし、できる限り枝を渡って洞窟前の樹が途切れるところまで進み、幹に隠れながら地面に降りた。

 音は立てない。

 そこから洞窟入口までは、20メートルほどだ。

 出入口に柵はなく、直径4メートルほどの円形の横穴が壁に空いているだけだ。

 周囲を見渡し、ゴランの気配がないのを確認してから中に入ろうとすると、洞窟入り口から男が顔を出した。

 アキオは身を隠す。

 周辺の気配をうかがったのち、男は洞窟内に戻っていく。


 アキオは、キイの短剣を取り出すと、素早く入口に走り、奥に歩いて行こうとする男の髪の毛をつかんで、ナイフを首の後ろから延髄に突き刺した。

 電撃に撃たれたように、一瞬、痙攣けいれんし、動きを止めた男の体をそっと地面におろす。

 ユイノを手で招き、やって来た彼女に、入口を見張るように言って、自分は奥へ向かう。


 アーム・バンドをタップして、暗視強化を行う。

 洞窟はかなり奥が深く、進むにつれて広くなっていた。

 左に緩やかにカーブしている。

 入口の光が届かなくなるあたりに、メナム石が置かれてあった。


 やがて、洞窟の奥から音が聞こえだした。

 野卑やひな男達の声だ。エコーがかかっている。

「お前たちをつれて帰るために、あいつらもゴランに喰われたんだからな」

「そうよ、ちょっとは俺たちの役に立ってもらわないとな」

「でも、もう壊れてるんじゃないのか?」

「そりゃ8人相手でぶっ続けじゃ壊れるわな」

 そう言って、下品な笑い声を立てる。 


 暗視強化したアキオの目に、広くなった洞窟の最奥部が映った。

 複数のメナム石に照らし出された床には、二人の女が横たわり、それぞれに男が覆いかぶさっている。

 それを6人の男たちが立って見ていた。


 アキオは無表情なままだ。

 きつく奥歯を噛む。


 アキオは一挙動でRG70を構えると、立っている左端の盗賊の頭を狙って引き金を引いた。

 男の頭部が消失する。

 レイル・ライフルの発射音自体はそれほど大きくはない。

 それでも、音速をはるかに上回る弾丸の衝撃波は閉鎖空間の洞窟内を駆け巡り、かなりの音量で響き渡った。

「誰だ!」

 男たちは意外なほど素早く反応し、遮蔽物に身を隠す。


 アキオは、雑に作られた椅子の陰に隠れた男ごと撃ち抜く。

 横殴りに巨大なハンマーで叩かれたように、男は吹っ飛び、地面の上で平たくなる。

 続いて3人を始末し終わった時、アキオは頭上に、不気味な輝きが発生したのを知った。

 危険を感じるより先に、体が動く。

 横っ飛びに避けたアキオの体の残像に、複数の青白い光が突き刺さる。

 雷球アラメイだ。

 賊の中に魔法使いがいる!

 それも複数の!

 ランダムに攻撃を避けて飛ぶアキオに向けて、次々と雷球アラメイが遅いかかる。


 突然、アキオの体が燃え上がった。

 (これは!)

 彼の体は、突然現れた巨大な火球アータルに包まれたのだった。

 アキオはコートを跳ね上げ、足のホルスターからP336を引き抜くと、親指で連射モードに切り替えて引き金(トリガー)を引いた。

 炎は、強力な衝撃波によって引き裂かれ消滅する。

(カマラの協力で、火球アータルが衝撃波に弱いことが判明していて助かった)

 だが、銃を抜く一瞬の動きの遅延のために、雷球アラメイの一つが、アキオに命中した。


 一般人なら即死するほどの電圧だ。


 前回、アキオは雷球アラメイで深刻なダメージを受けた。


 今回は、ナノ・コートを身に着けていたため、アキオは致命的な影響からは(まぬか)れる。

 それでも体内のナノ・マシンはしばらく休止状態になった。

 アーム・バンドも使用不能だ。

 コート内のナノ・マシンも死んだ。

 RG70とP336も、電装系の機能不全で一時的に機能停止におちいった。

 全体的に、前回ほどひどいダメージではないが、身体の動きも制約される。


 武器を離して倒れたアキオに、さらなる火球アータル雷球アラメイが襲いかかった。

 思い通りに動かない体を意志の力で動かして、攻撃を避ける。

 

 残り3人の盗賊は全員が魔法使いのようだった。

 背の高いローブの男と、痩せて小柄な二人の男だ。

 アキオは自分の愚かさ加減(かげん)に呆れる思いだった。

 シュテラ外では魔法が使え、盗賊の中に魔法使がいる可能性を軽視していたツケが回って来たのだ。


 逃げながら観察すると、魔法の力には個人差があるようで、ローブの男が最も魔法が強く、そいつが生み出す火球アータルは、カマラの3倍はある大きさだった。


 ナノ・マシンがダウンし、ただの人間としての能力値になったアキオは、火球アータル雷球アラメイを前転で逃げながら男たちに近づき、起き上がりざまにキイの短剣をローブの男に投げつけた。


 (ねら)あやまたず、短剣は、吸い込まれるように男の心臓に突き刺さる。

 胸から妙な光を発しながら男は倒れた。


 すべての武器をなくしたアキオに、残りの男2人が協力して巨大な雷球アラメイを生み出し、アキオに叩きつけてきた。


 さすがに、今の状態で、これほどの高電圧を受ければ、ただではすみそうにない。


 近づく青白い光を見ながらも、アキオは目を逸らさなかった。

 バチバチと音を立てて近づく雷球アラメイが目前に迫る。


 次の瞬間、破裂音がして、突然明かりが消えたようにあたりが暗くなった。

 魔法使いの男2人が、ゆっくりと前に倒れる。

 その腕には、細い投げナイフが刺さっていた。


「お前たち、あたしのアキオに手を出すんじゃないよ!」


 声のする方に目を向けると、紅いコートに身を包んだ美少女がナイフを投げ終わった姿勢で不敵に笑っている。


「大丈夫かい」

 ユイノが駆け寄ってアキオを抱き起す。

「大丈夫だ」

 アキオは少女の小柄な体にすがって立ちあがった。

 ユイノから離れ、よろめきながら歩き、拳銃と小銃を手にする。

 まだ使用不可能なことを確認すると再び地面に置いた。


 地面にボロ布のように横たわったままの女性たちに歩み寄る。

 近づいて分かったが、2人は少女といってよい年齢だった。

「ユイノ、何か掛けるものを」

 アキオの言葉で、彼女は、椅子の上に置かれていた毛布らしきものを2枚渡した。

 彼は、それで全裸の二人を毛布で包み、並べて寝かせる。


 早く手当てをしてやりたいが、電撃のショックのため、まだナノ・マシンは停止中だ。

 ユイノから与えることも考えたが、しばらくすれば再起動するだろうから、それを待つことにする。


「少し待ってくれ。すぐに治療する」

 アキオの言葉に少女たちは無反応だ。

 大きく見開いた目で天井を見ている。

 毛布を掛ける前に見えた体は全身傷だらけだった。

 顔もはれ上がっている。

 ひどい裂傷も起こしていた。


「アキオ……」

 少女たちの様子に、ユイノが悲痛な表情を見せた。

「すぐに、ナノ・マシンが再起動するから治療ができる――」


 アキオは、二人の少女の額に手を伸ばし、発熱の具合をみようとしたが、今の彼女たちは男に触れられたくないだろう、と思いなおして手を引いた。

 少女たちは、2人同時にアキオの手をつかむ。

「……?」

 どうしたらよいか尋ねようと、振り返ったアキオの目の前で、突如ユイノが横に吹っ飛ばされた。

「ユイノ!」

 洞窟の壁に激突し、転がる舞姫ダンサーの名を呼ぶアキオの目前に、巨大な3匹のゴランが現れる。 

 魔獣は、ゴリラのようにドラミングをしながら咆哮ほうこうをあげた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 見た目変えてもキイの化け物女の感じとかユイノの元おばさんだった感じが残ってるのはリアルで良かった。 設定だけの言動美少女になってたら色々おかしいし。 [一言] 一人で大丈夫だと最初にいいつ…
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