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277.黒蟻

「あれをごらんよ」

 空中に打ち上げた、一つ目(サイクロップス)小僧・アイから送られた映像を見つめるアルメデに、ユイノが叫ぶ。


 ごう内に置かれたディスプレイには、荒野を進むギデオンに、無限軌道クロウラーを破壊される巨大戦車バルバロスが映し出されていた。


 そのバルバロスが、巨体を揺らして、まさにふわりといった感じで空中に浮かび上がったのだ。


「あり得ないわ。あの重量が空に浮かぶなんて。物理法則を無視している」


「でも、実際に飛んでおるぞ。きっと、我らの知らない魔法を使っておるのだろうな」

「シミュラ、あなた、コラドが太古に失われた巨大要塞の飛行技術を復活させたというの」

 アルメデが、信じられないといった口調で叫ぶ。


「以前に、カマラが地上に落ちた空中要塞の残骸をいくつも見つけておるからな」

「そう、ね――」

「あ、戦車の底から何か出てきた」

 ユイノの言葉どおり、バルバロスの下部からせり出た砲門が、ホイシュレッケを攻撃し始める。


「ほう、あれはいったい誰だ」

 再び、ギデオンの声が響いた。

「バルバロスを指揮するのは、コラド・ドミニスでしょう」


 アルメデは、ギデオンがバルバロスの浮遊について感心したのだと思ってそう答える。


「違う、あんな男の攻撃など、脅威きょういでもなんでもない。見ろ」

 ギデオンの言う通り、連続で放たれるホイシュレッケの槍によって戦車の無数の砲門は次々と破壊されていく。


「わたしが言うのは、わたしの姿に似た、黒い破壊者のことだ。不思議な武器でわが配下(ホイシュレッケ)を攻撃している――」

「アキオのこと?」

「アキオ――そうか、あれが魔王なのか。あの凄まじい動き、速さ。それに……どうやって地上からホイシュレッケを攻撃している?」


 ギデオンの言葉を聞きながら、アルメデは考える。


 おそらく、アキオが身にまとう合金は、色から考えて、シジマが実験段階だといっていたブラック合金アロイだろう。


 彼は、ヘレン合金アロイより強度が強く、しなやかなブラック合金ごうきんを、薄く長く伸ばしてホイシュレッケを切断しているのだ。


 だが、それだけではイナゴは爆発しないはずだ。


 前に彼女が見抜いたように、ホイシュレッケ(イナゴ)は電気に弱い。


 魔法使いと違って、球電アラメイを使えないアキオは、身体の一部を電気ウナギ同様に発電はつでん細胞に変化させ、その内部で細胞膜さいぼうまくを操作して、ナトリウム・イオンとカリウムイオンのバランスを変えて電圧を得ているのだろう。


 その方法だと、電圧は高いが得られる電流が少ないため、タイミングを合わせてホイシュレッケを攻撃しているに違いない。


「そうか、体内で高電圧を――頭が良いな」

 ギデオンも、アキオの攻撃方法に思い至ったのか、AIらしからぬ声音で感心している。


 だが、体内で発電すること自体は大した発想ではない。


 機械を埋め込まない(ノン・メカナイズド)、つまり生身(なまみ)のアキオが、生物の生体反応を使って攻撃する方法は、毒を生成する以外なら、電気を使う他はないからだ。


 それより素晴らしいのは、彼の意思に従って際限(さいげん)なく伸びるブラック合金アロイの強度と()()()()()、スピード、そして何より、気絶すらできないほどの苦痛の中で、それを冷静に扱うことのできるアキオの精神力だ。


「黙りなさい、ギデオン。おまえごときの、浅い理解でアキオを評価してほしくありません」

 アルメデが冷たい声を放つ。


「なんだ、嫉妬しっとか?ニューメアのアルメデ女王」

「――知っていたのですか」

「もちろん、そのデータもわたしにはある。お前が()()()()であることもな」

「ふふ」

「何がおかしい」

「生まれて初めてです。自分が()()()()()()だといわれて腹立たしく感じるのは――そういう言葉は()()()()にはいわれたくはないものですね――それより、良いのですか。先ほどから、アキオの攻撃があなた自身にも向かっているようですが」


 アルメデのいうとおり、ホイシュレッケが、破壊を(まぬかれ)れたバルバロスの砲門によって反撃の集中砲火を受けだすと、アキオの攻撃は地表のギデオンに向かい始めていた。


 地面を駆けながら、高電圧をまとった長いやいばで黒アリを破壊する。

 ひとなぎで、数万という数が倒されていた。


 だが、もともとの総数が100億以上のギデオンは、その程度の損害では減った感じすらしない。


 ギデオンの力の本質は()()()にある。

 一匹ずつは、空も飛ばなければレーザーも発射しないのだ。

 ただ、一切、後退はせず前にのみ進み、敵にまとわりつき、その強烈な顎の力(プラズマ)で破壊し、使えるものは新しいギデオンを作る材料として再利用する。


 だからこそ、その数による圧力が凄まじいのだ。


「では、そろそろ、本気でおまえたちの魔王を仕留めよう」

 ギデオンがそういうと、ホイシュレッケによる凄まじい攻撃がアキオに集まりだした。


 アキオの残像ざんぞうに向けて、次々と荒野に巨大な槍が突き刺さる。


 息もつかせぬ攻撃が、執拗(しつよう)にアキオを襲う。

 そのすべてを、彼はきわどい間合いで(かわ)していた。


「やるではないか」

「当たり前です」

 そう答えながら、アルメデの、傷の治りきらない額を汗が流れる。


 アキオが、U.C.N.を使い始めてから15分が経っている。


 理論上はあと15分動けるはずだが、彼は、一度、戦闘用ナノ・マシンを使っているため、実際には、もう少し稼働時間は短くなるだろう。

 初めのうちは、余裕をもってかわしていたホイシュレッケの攻撃が、徐々に彼の身体をかするようになっていた。


 ギデオンもホイシュレッケも、アキオと、攻撃を続ける浮遊要塞バルバロスに集中しているため、塹壕ざんごうが無事なのは不幸中の幸いだが、そう遠くない未来に、アキオは攻撃につかまってしまうだろう。


「では、アルメデ女王、わたしの次の攻撃形態をお見せしよう」


 インナーフォンにギデオンの声が響くと、ホイシュレッケから逃れながら、蟻を攻撃するアキオの背後に黒い塊が盛り上がった。


 それは、見る間に巨大な手に形を変えると、拳を握り締めて、アキオの頭上へと鉄槌を振り下ろした。


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