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011.言語

 わたしの名はマキイ・ゼロッタ。傭兵だ。

 父も母も傭兵だった。

 特に父は傭兵仲間でも有名な手練てだれで、「狂犬」の二つ名を持つほどの戦士だった。

 ものごころつく頃には、母は傭兵家業から足を洗っていたが、彼女が営む酒場には、いつも荒くれた傭兵たちがたむろして酒を飲み、気炎をあげていた。


 両親ともに体が大きかったので、わたしも幼い頃から大柄だった。そのためか、近所の女の子から可愛い遊びには誘われず、男の悪ガキ連中に誘われて、危険で悪い遊びばかりしなければならなかった。


 この国の女性の体はそれほど大きくない。


 だが、10歳で8エクル(約160センチ)あったわたしの身長は、15歳には9エクル(約180センチ)を軽く超えていた。

 体重も160シュタイン(約90キログラム)以上あるわたしを、もはや、誰も女扱いしてくれなかった。


 16になると両親に勧められて父の属する傭兵団に入った。

 毎日、男たちに混じって教練を受け、大剣を振るうと、体質もあってか、恐ろしいほどの筋肉が身に付き始めた。

 さらに身長は伸びたようだが、もう計る気も失せて、伸びるままにしておいた。


 18の歳に父がゴランに殺されると、わたしは父に代わって傭兵の1小隊を率いて戦うようになった。

 ここ十年ばかり、戦火の火種はないので、仕事はほとんど魔獣退治だった。人を殺すよりは気楽だ。


 そして19の歳に、わたしは最大の困難に直面したのだった。


 始まりは春のゴラン退治だった。そこで、上司の指揮ミスから、傭兵団は多くの被害を出してしまった。

 上司はそれをわたしの責任として糾弾した。

 わたしにやましいことはなかったので、非難を受け流すと、なぜかわたしは捕らえられた。

 女の身であるわたしが、小隊を任されることに不満を持つ者たちが、口裏を合わせてわたしの失敗を捏造ねつぞうしたのだ。

 これまでの団への貢献から、わたしは汚名返上の機会を与えられた。

 選ばれた部下と共に、逃がしたゴランを退治せよ、とのことだった。


 牢から解き放たれたわたしのもとに集まった20人の部下を見てわたしは悟った。

 彼らは傭兵内でも鼻つまみの無能者ぞろいだったからだ。

 要するに、この機会に、団内にはびこる害虫を一掃するということなのだろう。

 部下たちも、このままではなんらかの処罰を受けるために、嫌々ながら作戦に参加したのだ。


 討伐隊出発の前日、外出を許されたわたしは、夜更けに母の酒場に向かった。

 信頼できる、かつての部下の一人が、母とわたしを落としいれた上司が通じていると教えてくれたのだ。

 それを聞いてもわたしは驚かなかった。

 子供のころから、父も母も、わたしに愛情など感じていないように思えていたからだ。

 そうでなければ、明日をも知れぬ傭兵団に「娘」を入れようとは思わないだろう。

 わたしを女と思っていたら、の話だが。


 深夜にも関わらず、酒場には明かりがともり、中からは話し声が聞こえていた。

 他人に聞かれるとは思ってもいない大声の会話だ。

 窓の下に身を潜めて聴いていると、とりとめのない世間話から小金を儲ける噂話へと話題は移り、最後にわたしの聴きたかった話が始まった。

「討伐隊は明日出発だ」

「しかしうまくいったね。これで、あんたのしくじりは消えてなくなる」

「俺の失敗じゃねぇよ。お前の娘の失敗だろ」

「娘?おお嫌だ。あの怪物がわたしの娘なわけないだろう。あんたより首ひとつ大きいんだよ。あれは間違って人の世に生まれてきた魔獣なんだよ。子供のころから可愛いと思ったことは一度もなかったね」


 わたしは、母の言葉を冷静に聞いていた。


 親子といえども、情が通わないことはある。

 だが、落とし前はつけさせてもらう。


 わたしは酒場に入ると、驚く母に平手をくれて気絶させ、上司の男の頭を拳で上から殴りつけた。

 頭は見事に胴体にめり込んだ。


 わたしは冷静だった。

 悲しみも怒りも感じない。

 冷静に歩いて団の宿舎に戻っていく。

 だが、わからない。

 冷静なはずなのに、なぜ街の明かりがこれほど滲むのだろう……


 翌朝、夜明け前に、わたしは宿舎の中庭に出た。

 予定通り、部下たちが不満顔ながら隊列を組んで待っている。

 本当なら逃亡したいのだろうが、それはできない。

 街の衛兵とは違って傭兵団は甘くない。

 裏切れば、地の底まで追いかけて罰を与えるだろう。


 明かりを消し、扉を閉めてきたので、上官殺しはまだ発覚していないようだ。

 母は夕方まで目を覚まさないだろう。

 今、出発すれば、上官殺しの捕縛隊が差し向けられるまでに、わたしはゴランと雌雄を決することができる。

 おそらくわたしは死ぬだろう。

 だが、何の恐れがあろう。

 人に愛されず、必要ともされない怪物が、クズの兵隊と共にこの世から消えたところで何の問題もない。

 未練はない。

 後悔もない。

 せめて、存分に授かった力をふるって死のう。


 誰かに頬に触れられた気がしてマキイは意識を取り戻した。

 気のせいに違いない。

 物心ついてから、他人に自分の顔を触れさせたことも、触れられたこともないのだ。

 そう思ったとたん、マキイの記憶がよみがえった。

(そうだ、わたしはゴランと戦って、それから、それから、杖を構えた男が――)

 そこで記憶が混濁し、体を起こそうとして、倒れた。

 再び起きようとして、大きな手で肩を抑えられて止められる。

(大きな手?ありえない。わたしにとって、すべての他人はわたしより小さな生き物なのだから)

 目を向けると、ダークブラウンの瞳の男がマキイの肩を抑えていた。

 微笑んでいる。

 落ち着け、とでもいうように何度か彼女の肩をたたき、反対側の肩を押して、ゆっくりと寝かせようとする。

「――」

 男が何か言葉を発するが、彼女には理解できなかった。聞いたことのない言葉だからだ。

 男が再び声をかけながら、彼女の体を布で覆う。体を起こした拍子に滑り落ちていたのだ。

 彼女は自分が裸であったことを知った。

 男を見ると、身振り手振りで、彼女の怪我を治療したと伝えてくる。

 表現が上手なので、伝えたいことはすぐに理解できたが――

 ぱっとマキイは立ち上がった、今度こそはっきりと思い出したのだ。自分の部隊がゴランと戦闘に入り、全員が殺されたことを。

 男が近づき、彼女に布を巻こうとする。

 それを払いのけて彼女は尋ねた。

「ゴランはどうなった?」

 それが知りたかった。

 裸であるのは気にならない。今まで、他人を含め、自分も自らを女扱いしたことなどないのだ。

 彼女の質問の意図がわかったのか、男は肩にかけた変わった形の杖を差し示した。

 それで、マキイは思い出した。この杖でゴランどもは、ことごとく頭を消し飛ばされたのだ。


 彼女は男に向き直った。

「ありがとう、あなたは命の恩人だ」

 そういって男の手を取ろうとして躊躇する。

 すると、男はその手をしっかりと握って上下に振った。大きな手だった。

 マキイは、笑顔の男の顔を見上げ――

 彼女は気づいた。これはおかしい。彼女が他人を見上げるはずがないのだ。

 11エクル(2メートル強)の上背をもつ彼女は、人を見上げたことがない。

 見下ろすだけだ。

 あわててマキイは自分の手を見た。小さい。

 体を見る。

 全裸だ。だが、それはかまわない。

 今までも、よく男たちに交じって上半身裸で作業をしてきたのだから、今さら恥ずかしくはない。

 だが、今、見下ろす腕は細くしなやかで形よく、胸は見たことがないほどやわらかそうで、たわわに揺れていた。

「これは、これはなんだ!」

 マキイは男に向かって叫んだ。


(そうなるだろうな)

 女性が興奮するのを見てアキオはつぶやいた。

 自分の体が突然変わったらこうなるだろう。自然な反応だ。

 アキオは、笑顔のまま手をゆっくり上下させて、落ち着くように伝え、手にした布を肩から女性にかけてやる。

 今度は彼女も布を振り払おうとはせず、ぎゅっと身体に巻き付けた。

 もう一度、自分の体に触り始める。


 アキオはザックを降ろし、その中からウェア・パックを取り出す。男女兼用のナノ・ウェアだ。一見大きめのセパレートの服だが、ざっくりと来てから首のボタンを押すと、最適な大きさに縮まるようになっている。もちろん、靴もセットだ。

 緊急用衣服エマージェンシー・ウェアで、デザインは今ひとつだがないよりはましだろう。

 アキオは、ひと通り体を調べ終わって、茫然としている女性にそれを渡した。

 身振りで着かたを教える。

 女性戦士の体型がまったく違うものになったので、彼女が着替えを持っていたとしても着ることはできないはずだ。

 彼女はうなずき、言われた通りにした。

 ボタンを押すと、シュッと音がして、服が女性の体に密着した。

 かなりタイトに締まるので、体の線が露わになり、素晴らしいプロポーションが浮かびあがった。

 それを見て、女性は可愛らしい声で嬌声を上げる。


(さて、これからが本番だ)

 アキオは、アーム・バンドに触れて、ナノ・マシンの言語習得プログラムを起動すると、右手で女性の剣を持ち、左手で彼女の手を引いて、怪物の死体が見えないあたりまで森に入った。


 日当たりの良い大きな木の根に腰掛けさせる。

 剣を女性に渡すとその横に自分も座った。

 兵士が銃を欲するように、剣士なら剣を側に置かないと不安だろうと思ったからだ。


 本当は、ゴングのいたこの地域を離れてから言語習得を行いたいのだが、最低限のコミュニケーションをとらないことには、戦士を連れ出すこともできない。

 幸い、ゴング程度なら、20体以上来ても問題ないだろうから、とりあえずやるべきことをやってしまおう。


 女性が何かを尋ねようと口を開きかけるが、それを手で抑えて、

「アキオ」

 自分を指して言う。カマラの時と同様だ。

 手のひらで女性を示す。

 彼女が黙っているので繰り返す。

 女性は、ぱっと顔を輝かせて笑った。

 アキオの行動の意味が分かったのだ。

「マキイ・ゼロッタ」

「マキイ?」

 アキオがいうと、女性はうなずいた。

 うなずくのが肯定を意味するのは共通なようだ。

 もう一度だけ、確認のために繰り返す。

 アキオは自分を指さし、

「アキオ」

 女性を手で示し、

「マキイ」

 女性は笑顔でうなずいた。


 それからアキオは、様々なものを指さしながらマキイに尋ねていった。

 時に、木の枝で地面に絵を描いて説明を求める。


 彼が何をしようとしているのかを理解したマキイは、まず初めに聞きたいであろう、自分の怪我と体型変化の質問を先伸ばしにし、アキオの問いかけに積極的に答えてくれる。


 言語の習得で大切なのは、ものの名前、名詞だ。

 過去の経験から、迅速な意思疎通で最重要なのは形容詞でも副詞でも、動詞でもない。

 まずは物の名前、ついで状態を表す形容詞、会話に微妙なニュアンスを与える副詞、動きを表す動詞は最後で良い。

 時制などの文法要素はあとまわしだ。

 極端にいえば、形容詞をはさみながら名刺を並べるだけで会話は成立する(もちろん、最低限の実用会話だが)。

 表情や手拍子、指文字などを複雑に組み合わせた言語もあるが、それは例外だし、その時は、その時でやり方がある。

 幸い、マキイの使う言語はそれほど変わったものではなかった。


 アキオはナノ・マシンの力を借りて、すさまじい勢いで単語と言語知識を増やしていく。

 一時間足らずで、日常会話を交わせるほどになった。

 一度、聞くだけで決して忘れないナノ・マシン補助のおかげだ。


「あらためて礼を言う、ハル・アキオ」

 ある程度会話が通じるようになると、背筋を伸ばしてマキイが言った。

 ハルは、ミスターにあたる単語らしい。

「アキオでいい」

「では、アキオ――」

 それからしばらくマキイは絶句して、

「わたしの、わたしのこの姿はなんなのだ。わたしはどうなったのだ。たしか、ゴランに顔を殴られたことまでは覚えているのだが……」

 そこでアキオは、マキイがゴランという怪物と闘っている現場に居合わせて加勢をし、それらを殲滅せんめつしたことを伝え、その後に傷ついた彼女を治療したと説明する。

「そんな、潰れた顔と喉を治療するなんて聞いたことがない。アキオは医者なのか?それとも――なのか」

 知らない単語が出てきたので、確認する。

 どうやら、それは例の能力を使う者のことらしい、魔法使いとでも訳しておく。

「魔法で傷は治るのか?」

「いや、わたしはきいたことがない。医者か薬師くすしでないと怪我は治らないはずだ。団の中にも魔法使いはいるが、彼らは炎を出したり雷撃を出して魔獣を攻撃するだけだった」

「魔法じゃない。そういう技術がある。俺はナノクラフトと呼んでいる――進んだ医術と考えてくれていい」

「ナノクラフト――」

 アキオはうなずき、

「ここは早く離れるべきか」

 気になっていたことを尋ねる。

「なぜ?」

「ゴランがまた襲ってくるかもしれない」

「多分、それはない。ゴランは必ず決まったグループで行動するから。縄張り意識も強いし。今回のは5体のグループだとわかっている。だから、アキオが倒したやつで全部だ」

「そうか」

「ゴランの近くには、他の獣もいなくなる。ゴランも含めて」

「わかった」

 アキオは言った。


「これからどうする」

 アキオの言葉に、マキイはきょとんとした顔になった。もともとが美しいだけに、なかなかコケティッシュな魅力がある。

「どういうことだ?」

「君を助けるために体を変えてしまった。望むなら、時間はかかるが、もとの姿に戻すことはできる」

「わたしは、今、どんな顔をしている?」

 間髪をいれずにマキイが尋ねる。

「普通の顔だな。だが、君にはどう見えるかわからない――」

 アキオはナイフを取り出すと、木の枝へむけて刃を振う。

 たちまち、2メートルと1メートルの枝が2本ずつ地面に転がった。

 それを四角く組み合わせて長方形を作り、ザックから取り出したカプセルの蓋を開け、中身のナノ・マシンを枝に着ける。

 アーム・バンドを操作すると、ピン、という音がして、銀の被膜が枠に広がった。

 ピシリと音がして硬化する。

 マキイは目を丸くしてそれを見ていた。

「鏡か。だが、こんな大きなものは見たことがない」

「これで顔が見える」

 アキオは、でき上がった姿見を持って、マキイの全身が映るように角度を調整した。


(あの、たくましい肉体がこんなに細く小柄な体になったんだ。さぞかしショックだろう。それに、美の基準が違えば、いくら『地球で一番美しい』顔であっても意味がない)


「な!」

 マキイは鏡を見ると絶句した。

 しばらく目を見張っていたが、やがて、顔を手で覆ってしまった。

 泣いているらしい。

「すまない、なるべく早くもとの体に戻すように――」

「いらない!」

 マキイは叫んだ。澄んだ鈴のような声音が森に響く。

「必要ない。このままでいい。ああ、なんて細い腕、細い首、そしてこの声」

 マキイはアキオに近づく。

「それに、今、わたしはアキオを見上げている。見上げているんだ。こんな小さな体になって……それに、この靴にはヒールもある。信じられない!」

 そう言って、くるりとアキオの前で回る。

 くるり、くるりと何度も回る。

 男っぽい口調とは裏腹の、その娘のようなしぐさが微笑ましい。

 もっとも、小さい、といっても、それはあくまでも元の体格と比較して、のことだ。

 アキオの目からみると、地球の標準的な女性より少し背が高いくらいくらいだ。


「本当に戻さなくていいのか?容姿が変わりすぎていたら今後の生活に困るだろう」

 マキイは鏡を見ながら、自分の頬を両手で挟んで答える。

「こんな綺麗な顔に文句なんて言うわけがない。顔も体も変わったって問題ない。どうせ身寄りはないし、隊も全滅した――」

 どうやら、美の基準は共通なようだ。黄金比のように、ヒトが美を感じる共通の尺度があるのかもしれない。

 アキオは、今のマキイの言葉で思い出し、尋ねてみる。

「仲間はどうなった。あの場所に血だまりはあっても死体はなかった」

「ゴランが持っていったんだ。奴らは人を食べるから。アキオに助けてもらわなければ、今頃はわたしもゴランの胃の中だな」

「報告はしなくていいのか?」

 軍人として、報告は必須だ。

 これほど外見が変わったら、マキイとして報告することはできないだろうが。

「いいよ。訳ありでね。わたしたちは死んだと思われているほうが、お互いに幸せなんだ」

「わかった」

 アキオはそう言い、

「剣はどうする?君の部下の剣だ。地面に何本か落ちていたから、まとめておいた」

「奴らの剣なら、さほどの業物わざものもないだろうが……」

 マキイはしばし思考し、

「いや、それでも売ればいくらかにはなるだろう。実は、わたしは一文無しなんだ。生き残るつもりはなかったから、すべての財産をある者に渡してきた」

「財産、か」

 この世界でも金の概念はあるらしい。

「あんた――」

 言いかけてから、マキイはアキオをじっと見つめ、

「とりあえず、剣を見てみるよ。良いものだけ持っていけばいい」

と、言う。

「わかった」

 アキオは空を見上げた。

 日没が近づいてきたのを感じる。

 このあたりまで南下すると、完全に真っ暗にならないまでも、しっかりとした夜が訪れるらしい。


「暗くなってきた。野営をしよう。一緒に来るか」

「ああ、世話になる。少し向こうに、小川のそばの平地があった。あそこなら快適に過ごせるだろう。それに――」

 マキイは血のこびりついた金髪に触れ、

「水浴びもしたい」

 アキオは、マキイに注入したナノ・マシンを、肉体デザインモードにしたままなのを思い出した。通常モードに切り替える。

 これですぐに髪の血も分解され、清潔になるだろうが、気分的に水を浴びたいのなら、止める必要もないだろう。


 アキオが再びアーム・バンドに触れると、鏡が一瞬にして消え去った。カプセルにナノ・マシンを回収する。

「便利なもんだねぇ。それもあの……」

「ナノクラフトだ。あの木の車はどうする」

 アキオは、樹林の向こうに見える倒れたままの木の乗り物を示す。

「ああ――ね」

「あれはどうやって動く」

「ケルビで引くんだ」

 ケルビは馬のような生き物らしい。

 つまり馬車だ。

「あれは置いていくか」

「ケルビも逃げたし。あの重い車を盗むやつもいないだろう。置いていくよ。どうせ中身は空だから」

「わかった」

 武器以外、なんの荷物も持たずに、ゴランと闘いに来た傭兵、先ほどのマキイの言葉と共に、その背景はなんとなく察せられるが、アキオは余計なことは聞かなかった。

 言いたくなれば、自分から話すだろう。

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