ルフィーナ⑤
(う~む……気を使ってる感じがつらい)
翌日になってルフィーナがシオンに対して少しばかり気を使っているのを感じてしまい少々シオンとしては居心地の悪い思いをしていた。
「ルフィーナ、昨日のことは気にするな。大した事じゃ無い」
シオンの言葉にルフィーナは一瞬だが嬉しそうな表情を浮かべた。しかし、一瞬だけ浮かない顔が浮かんだことからシオンの言葉をまた深読みしたのだろう。
(ルフィーナって善人だよな)
シオンは心の中でルフィーナの対応が卑屈なものではなく人の好さがにじみ出た結果であると思っていた。
「うん!! あんまり気を使いすぎるとシオンも思い出しちゃうからいけないわね!!」
ルフィーナはそう言うとシオンに聞く前と変わらない態度で接するようになった。
「そうそう、元々そんなシリアスな事じゃ無いからな」
シオンはそう言うとうんうんと頷く。本当に仲間を失ったという事実がなくルフィーナの勘違いなのだから本当の事を告げれば良いのだが、そうすると【偽造者】の祝福の事を隠しながら話を作らないといけないので、本当の事を告げないことにしたのである。
「とりあえず、朝メシ食ってから出発するぞ」
「うん」
二人は食事の楽しみを放棄した朝食をとるとゴルグに向け再び出発した。それから三日後に二人は何事もないようにゴルグに到着した。
冒険者ギルドに顔を出し、情報を集めると安宿に部屋をとることにした。
「二部屋空いてますか?」
「ちょっと待って、そこは一部屋で良いんじゃない?」
シオンの言葉にルフィーナが待ったをかける。シオンとすれば当然の事なのだがルフィーナとすればなぜそんな事をするのかわからないという声の調子であった。
「あのさルフィーナ、年頃の男女が同じ一部屋というわけにもいかないと思うぞ」
「大丈夫よ。シオンがもし私に何かするつもりがあるのなら、この四日でわかってるわ」
「でもな……」
「なによりも私に何かしようとするんだったらとっくに何かしてるわよ。目撃者が皆無の状態ではなく町に入ってから襲うなんておかしいもん」
「はぁ……」
ルフィーナの言葉にシオンはため息を一つ付くと宿屋の女将に向かって言う。
「というわけで一部屋に変更して下さい」
「はいはい、ベッドは一つ? 二つ?」
「二つにして下さい!!」
シオンの反応に女将は苦笑を浮かべた。それを見てシオンはやや憮然とした表情をうかべた。
「はいはい、一泊銀貨一枚ね」
「一人分?それとも二人分?」
「うちは一部屋換算だから銀貨一枚よ」
「想像以上に安いな」
「うちは良心的な料金設定を心がけてるのよ」
「そのようですね」
シオンはそう答えると銀貨一枚を女将に手渡すとすぐに鍵が手渡される。鍵には205と書かれていた。
「そこに書いてある部屋があなた達の部屋だよ。ゆっくりしていってね」
シオンとルフィーナは頷くと荷物を持って部屋へと向かった。
部屋に入った二人は早速、部屋に荷物を置くとベッドに腰掛けて明日からの予定を話し合うことにする。
「基本はゴブリン、灰猟犬を探して、アンデッドの方はその後の順番で行こうと思ってる」
「アンデッドを最後にするのはどうして?」
「単純にアンデッドは日中よりも夜間に出ることが多いからだ」
「ああ、明日は朝からリブト大森林地帯に入るつもりだ」
「骨が折れそうね……」
ルフィーナのため息混じりの言葉はシオンとしても大いに納得するところである。リブト大森林地帯の広さからゴブリン、灰猟犬を探し出すというのは簡単な話ではないと思っているのだろう。
(まぁルフィーナの反応は当然だな。でも俺と一緒なら簡単に見つける事が出来るんだよな)
シオンはルフィーナに自分の能力を教えていないためにルフィーナの反応は当然だがそれに対する「スキル」もとっくにシオンは偽造済みであった。
偽造したスキルは『探知』『獣寄せ』の二つである。『探知』に関しては説明は無用であろう。シオンは半径三百メートルの円形内にいるものの気配をほぼ正確に察知する事が出来る。
また『獣寄せ』は【魔獣使い】の祝福を持つ者のスキルであり、これを使えば魔獣を呼び寄せることが出来るのだ。
「その辺はゆっくりとやろう。食糧をこれから三日分仕入れてから明日の朝出発といこう」
「わかったわ」
二人はそう言うと食糧の買い出しに二人で出かけ食糧を確保すると、食堂で食事を摂り、部屋に戻ってきた。
「それじゃあ、お休み」
「お休み~」
シオンとルフィーナはお互いに挨拶を交わすとベッドに潜り込んだ。するとルフィーナはものの数十秒で寝息を立て始めた。なんだかんだ言って野営では疲れが完全にとれなかったのだろう。
シオンは明かりを消しそのまま寝ようとしたときに、ルフィーナの顔が月明かりに照らされた。
(え!?)
シオンが驚きの声を出さなかったのはある意味奇跡であった。月明かりに選らされたルフィーナの顔は美の極致ともいうべきものであったのだ。すっと伸びた鼻筋に愛らしい唇、まつげの長い閉じた瞳が完璧なバランスで配置されている。まるで美の女神が気まぐれに地上に降りてきたのでは無いかと考えたぐらいだ。
「おい、ルフィーナ!!」
「ふぇ……」
シオンは思わずルフィーナを起こし、明かりをつけるとそこにはいつものルフィーナの顔があった。
「どうしたの?」
「え……いや、お前の顔が別人に見えたんだ」
「何言ってるのよ?」
ルフィーナは寝ぼけ眼に事情が良くわかっていないような反応を示した。しかし、やや頬が強張ってるのがシオンにはわかった。
「もう、シオンったらそんなに欲求不満なの? 私なんかに欲情するなんて」
「え、いやそんなことはないぞ」
「ふふふ、私はこんな顔だけど初めての相手は好きな人と決めてるのよ♪」
「だから違うって!!」
「実はシオンって私のような子が好みだったの?」
ルフィーナのからかうような言葉にシオンは反対側を向いて布団をかぶってしまった。
「ゴメンネ♪ 気持ちよく寝ていたところを起こされたから仕返し♪」
「悪かったよ……もう寝よう」
シオンはそう言って明かりを消すと今度はシオンがすぐに寝息を立て始めた。
(危なかった……)
ルフィーナはシオンが寝たのを確認してからぱちりと目を開ける。その顔はシオンが先程驚いた美しい顔であった。
よろしければブクマ、評価をお願いします。