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開戦①

 篝火が灯った事に全員が一斉に武器を構えた。この状況で相手が友好的だと考えるほど呑気な思考回路を持っている者などこのメンバーにはいない。

 そして篝火が灯った所で一人の男が歩いてくるのを全員が気づくとそちらに向き合った。


(なるほど……)


 シオンが篝火が灯った事で相手の狙いを察した。相手の狙いが分かった以上、シオンとすれば先手を打つためにすかさず行動を起こした。その行動とは構えた武器を持って斬りかかる。


 斬りかかった先にはアルメックがいる。シオンは迷う事なくアルメックのがら空きの背中を斬り裂いた。


「が……」


 アルメックは呆けた声を発しつつ、そのまま倒れ込んだ。調査隊のメンバーから動揺の気配が発せられるが、ルフィーナはシオンに三秒ほど遅れて行動に移す。移した行動はシオンを止めるためのものではなく。シオンの援護であった。


 ルフィーナは腰に差している双剣を抜き放つと紅い風(シュキュール)に向かって斬りかかったのだ。

 アルメックが斬られた事に気づいた紅い風(シュキュール)達が怒りの声を上げようとするところにシオンとルフィーナは容赦なく排除にかかる。


 シオンの斬撃が振るわれる度に紅い風(シュキュール)が斬り伏せられ地面に倒れ込んでいく。ルフィーナもまた動揺に双剣を振るって紅い風(シュキュール)達を斬り伏せていく。

 

 紅い風(シュキュール)達はほとんど斬り結ぶことも出来ずにほぼ一方的に斬り伏せられ一分も経った頃には全員が地面にひれ伏していた。


「お、お前ら……気でも狂ったか?」


 あまりの事に呆然としていたフィグム王国側の傭兵が我に返るとシオンとルフィーナに詰問した。


「待て!! よく見ろ!!」

「え?」


 しかしその弾劾を止めたのはジュークであった。制止された事が傭兵にとって意外だったのだろう。その傭兵は呆けた表情を浮かべたがすぐに驚愕の表情へと変わった。


 地面に斬り伏せられた紅い風(シュキュール)達の体が崩れ始めるとそのまま塵となって消滅したのだ。


「こ、これは……」

「あの連中は偽物というわけだ」


 ジュークの言葉に傭兵はゴクリと喉をならした。シオンとルフィーナに視線を向けるがその視線が疑惑が含まれている。傭兵としてみればどうしてわかったのかというところであろう。


「やるのう。坊主、嬢ちゃん」


 ナルクの賛辞にシオンは首を横に振りながら返答する。


「何言ってるんです。すぐにナルクさん達もこいつらが偽物だと気づいたでしょう。一分もナルクさん達が呆けるなんてあるわけないでしょう」

「しかしそれでも影がない(・・・・)ことに真っ先に気づいたのは確かじゃ」

「そうね。実際に私が気づいたのはシオンがアルメックの偽物を斬った後だものね」


 クシャーナの言葉に何人かの者達が首肯する。


「まぁ気づいてくれた人達があの男の動向に注意を向けてくれたので俺達は安心して偽物退治できましたよ」


 シオンはそう言うとニカッと笑う。シオンの言葉にナルク達もまたニヤリと笑って返す。シオンはナルク達が気づいていたのに動かなかった理由についてずばり言い当てたのだ。

 シオン達はそう言いつつも歩いてくる男から意識を外すような事はしない。その事に相手も気づいているのだろう。まったく歩を乱すことなく近付いてきてシオン達の間合いのギリギリの所で止まった。


「このような子供だましは通じぬか」


 男はそう言うとニヤリと嗤う。その嗤いを見たときに全員に緊張が走る。虚勢ではない自信を男から感じたのである。

 男の技量であればこちらの戦力はある程度察する事が出来るであろう。だが男はそれを察した上で嗤ったのだ。この事はシオン達に警戒させるには十分な理由である。


 男は空間に右手を突っ込み武器を引っ張り出してきた。空間魔術の一種であることは間違いない。

 男が取り出した武器は見た事もない武器である。三方向に刃がついて中央に持ち手のある大きな輪がついている。


「初めまして侵入者の諸君。私はこの城の責任者の一人であるバサルという」


 バサルと名乗った男は左手を胸の前に置いてゆっくりと一礼する。隙が大きすぎる動作だがシオン達はその隙を衝くことが出来ないでいた。隙だらけに見せてはいるが罠の可能性が非常に高い事に思い至ったからである。


「君達を心から歓迎するよ」

「歓迎?」


 バサルの言葉にシオンがほぼ反射的に返答する。先程バサルはシオン達のことを侵入者と呼び次に歓迎という言葉を使った。そのいとは敵意の現れであることは間違いない。その事をシオンは当然ながら分かっているのだが少しでも情報を得るために会話を続けようとしたのだ。


「ああ、エルゼオン様の顕現のためにこれだけの人数が生贄としてやって来てくれるのだ。感謝の気持ちでいっぱいだよ」


 バサルの言葉に少しずつだが嘲りの感情が含まれ始めた。


「生贄……ということはあんたは俺達を供物に捧げるカルト教団といわけか?」


 シオンの言葉にバサルは少しばかり気分を害したようである。


「おいおい。あのようなまやかしの神を信じるようなアホウ共と同一視されるのは気に入らんな」

「だが、事実だろう?」

「いや、カルト教団ははっきり言って生贄ごっこをしているだけだ。だが我らはそうではないよ」

「その言い方だと実際に神を降臨させることが出来ると言うことか?」


 シオンの問いかけを受けてバサルは薄く嗤う。嘲りを含んだ嗤いではあるがシオンとしては不快感が刺激されるよりもバサルから発せられる得体の知れ無さが気になっていた。


この世界(・・・・)では神の血を引く者が一定数いるのは分かっている。だが、純粋な神ではない」

「?」

「純粋な神と不純物の混ざった神……どちらが巨大な神の力を振るう事が出来るか考えるまでもない」

「何を言っている?」

「勘の鈍い奴だな。今までの私の話からわかるだろう?」


 バサルは何の躊躇いもなく一歩踏み出してきた。


「お前さんはこの世界の者ではない……神界からやってきたというわけか?」

「さぁ~て……どうだろう……なっ!!」


 バサルはそう言うといきなり動く。まるで瞬間移動したかのような急激な踏み込みであった。


 キィィィィン!!


 奇妙な形の武器を振るってシオンの首を狙う。シオンはその斬撃をアルムから贈られたミスリル製の剣で受け止める。魔力を咄嗟に武器に流して受け止めた事でバサルの武器を受け止める事に成功したのだ。


「やるねぇ~」


 バサルはシオンが自分の一撃を受け止めた事に動揺する事なくニヤリと嗤った。



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