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突入①

 シオン達遺跡調査隊はズヴィルグ山の中腹にある空洞に入り、しばらく進むと開けた空間に出た。

 

「ここか……」


 遺跡調査隊のメンバーの中から小さく声が発せられた。ポツリとした声は目の前に広がっている光景があまりにも現実離れしていたからである。

 空洞の中に城があるというのは聞いていた通りであったが、その大きさはシオン達の想定よりも遥かに大きなものであったのだ。


「ありえないわね……」


 ルフィーナがシオンに囁いた。


「ああ、いくらなんでも巨大すぎるな」


 シオンも即座に返答する。同様のやり取りはシオンとルフィーナ以外にも見られていた。


「こんな巨大な建造物をわざわざ山をくり抜いて内部に……ね」

「しかも、その事に誰も気づかない。伝承すら残ってない……ありえないな」

「ということは何かしら規格外の方々がいらっしゃると言う事ね」


 ルフィーナの言葉にシオンは頷いた。この城を直に見てしまえばルフィーナの言葉を否定する事は出来ないだろう。


 ゴゴゴゴゴ……


 その時、全員が呆気にとられた。巨大な城門が突然地響きとともに開いたのだ。


「これはこれは……我々を歓迎してくれとるようじゃの」


 ナルクの声がシオン達の耳を叩いた。決して大声を上げているわけではないのだが、はっきりとナルクの声は叩いたと称するに相応しいほど力強い印象をシオン達は受けた。


「どうする?」


 エミュリスがナルクに尋ねる。気のせいかエミュリスの声には僅かばかりの怒りが感じられた。


「エミュリスよ。考えるまでもなかろうよ。歓迎をしてくれておるのじゃから応えるというのがこちらの誠意というものじゃよ」

「ああ、そうだな。中々舐めた真似をしてくれるな」

「ふむ、確かにな。この城の主は中々芝居かかった者のようじゃな」

「油断は禁物だな」

「うむ、自信か過信かは終わってみらねばわからんが、少なくとも我らを恐れておらんのは間違いないの」


 ナルクはそう言うとメンバー達に視線を移して口を開く。


「さて、どうやら相手は儂等を歓迎しておるようじゃ。当然相当な相手であろうし、厳しい戦いが予想される。ここで抜ける事を希望する者がいたら申し出てくれ。流石に咎めるような事はせぬよ」


 ナルクの言葉に調査隊のメンバー達は互いに顔を見合わせる。


(確かに城門がこのタイミングで開いたと言う事は俺達の動きを相手は把握していると考えた方がいいな)


 シオンはナルクの言葉を受けてそう考える。普通に考えれば相手は自分達を待ち構えていると考えるのが自然である。この状況で引くのは状況判断的に何も間違っていない。


「俺は行きますよ」

「私もです」


 それでもシオンとルフィーナは即座に参加を表明する。元々ここで引くという選択肢は二人にはない以上当然の事であった。


「そうか坊主と嬢ちゃんは参加か……他はどうかな?」


 ナルクが視線を四聖天(レミュオン)に向けるとリグガルドが口を開く。


「ここで帰るのも癪だ。俺達は参加する」

「そうか」


 四聖天(レミュオン)の四人が参加が決定する。


「俺は止めておく」

「俺もだ」


 傭兵達は重々しく口を返答する。その事に対してナルク達はまったく気にした様子もなく頷いた。それを見て魔術師ギルドの三人も口を開く。


「私達も止めておくわ。流石にこの状況で突入するのはリスクが高すぎる」

「確かにの。お主等はどうじゃ?」


 ナルクは紅い風(シュキュール)へ向け言うとアルメックが返答する。


「もちろん参加する。ここまで来て手ぶらでは帰ることは出来ないのでな」


 アルメックの返答に紅い風(シュキュール)の面々も同様に頷いた。


「そうか。ならここで抜けるお主等に頼みたい事があるんじゃ」

「?」


 ナルクの言葉に傭兵と魔術師達はゴクリと喉をならした。


「これから一週間経っても儂等が戻らなかったら、その旨をディスウォルへ伝えて欲しいんじゃ。そのためにはエルクイッドに一週間滞在してもらう必要がある」

「……わかった」

「大事な仕事じゃ。頼むぞ」

「はい!!」


 ナルクの言葉に傭兵、魔術師達は力強く返答する。


(ナルクさんはこの人達の心理的負担を軽くしようとしてるわけだな)


 シオンはナルクの気遣いに一定の理解を示す。この場で抜ける傭兵と魔術師達を臆病者と罵る者が出ないように仕事を与える事で任務の一環である事を宣言したのだ。ここで抜ける者達もナルクの気遣いを察したのだろう。その目には感謝の心情が大いに含まれている。


「そっちはどうじゃ?」


 ナルクはフィグム王国の方へと視線を移す。ナルクの質問にはジュークが返答する。やはりジュークがフィグム王国側のリーダーなのだろう。


「うちはそちらのように余裕があるわけじゃないからな。離脱を認めるわけにはいかないんだ」

「そうか」

「さて、それじゃあ行くとしよう」


 ジュークが言うとフィグム王国側も全員が頷く。


「それではお主等はここを離れるんじゃ。十分に周囲を警戒して帰るのじゃぞ」

「はい。皆さんもお気をつけて」


 一人の傭兵が頭をぺこりと下げると脱落した傭兵、魔術師は移動を開始する。脱落者が見えなくなった所でシオンがナルクに囁いた。


「良いんですか? 下手したら俺達よりも危険かも知れませんよ」

「まぁそれはそうじゃが、儂等にはどうする事も出来ん。あやつ等は自分で判断して抜ける事を選択したんじゃからな」

「はぁ……ナルクさんはこんな時には常識人っぽくなりますね」

「年の功というやつじゃ。敬っても良いんじゃぞ」

「はいはい」


 シオンは苦笑を浮かべつつ、ナルクの言葉へと返答する。シオンとしては冗談ぽく言ったが、ナルクの判断に理解を示しているつもりである。

 城門が独りでに開くという状況から考えて城の中には規格外の者達が待ち構えている可能性があり、その事を全員が察している。今回の降りた者達は自分の実力では生き残れないと判断したのだ。

 命が失われればまだしも動けぬほどのケガをした場合にこちらにとって大きな負担となる可能性があるのは確実だ。ある意味、ナルクの行動はふるいにかけたと行って良いだろう。戦力ダウンは否めないが精査が終わったと考えれば決して悪い手ではないのだ。


「それではいこうかの……」


 ナルクはそう言うと全員が頷き歩を進めた。


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