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ルフィーナ④

 シオンとルフィーナは三つの依頼を受注すると一日で準備を行い任務に出発した。


 シオンはいつもの黒を基調とした服の上に革鎧、厚手のマントを羽織っている。腰にはやや反りのある片刃の剣と一本のナイフを差している。そしてリュックには五日分の食糧と“ポーション”と呼ばれる体力回復薬、傷薬、包帯などを詰めている。


 ルフィーナは出会った時同様に黒っぽいローブを纏っている。その下には黒を基調とした服に革鎧を身につけており、腰には二本の刃渡り五十㎝程の剣を差している。リュックにはシオン同様に五日分の食糧、ポーション、傷薬、包帯が詰め込まれている。ただシオンよりも下着の量が多いのはやはりルフィーナが女性であるという事の証拠と言えるだろう。


 今回の任務は帝都から四日ほど離れた場所にある“ゴルグ”という町である。“ゴルグ”は古くから宿場町として栄えた町であり、品物の流通も盛んである。もちろん、冒険者ギルドの支部も置かれており多数の冒険者達がゴルグを拠点として活動している。

 ゴルグの近くには“リブト大森林地帯”が広がっているためモンスターの討伐任務が多数あり、支部の冒険者達では手が回らなくなることもあった。そのような時には帝都の冒険者ギルドに依頼を出すことが多いのだ。


「ねぇシオンの祝福(ギフト)って【剣士】なんだよね?」


  シオンとルフィーナは互いにたわいの無い話をしながら目的地まで歩いていたのだが話題はシオンの祝福(ギフト)の事になった。


「ああ、それほど珍しいものじゃないけどこの稼業をやるには向いてるから俺は運が良かったな」

「へぇ~シオンって欲がないのね」

「へ?」


 ルフィーナの言葉にシオンは意表をつかれたような声を出した。


「だって、【剣士】ってそんなに希少価値があるわけじゃないでしょ? でもシオンはそれで満足してるようにみえるわ。人によっては【勇者】とか【聖騎士】とか【剣帝】とかそういうのを欲しがるじゃ無い」


 ルフィーナの言葉にシオンは虚を衝かれた。もちろん表面に出すような事はしなかったが自分の甘さを察したのだ。シオンが察した自分の甘さとはシオンがルフィーナを観察しているようにルフィーナもまたシオンを観察している事を気づいたのだ。


(自分だけが相手を観察しているわけでは無い事を忘れるなんて、俺もまだまだ甘いよな)


 シオンがそう思っている事にルフィーナは首を傾げる。


「どうしたの?」

「え?」

「あのね。ちょっとだけシオンが厳しい顔をしたから」

「厳しい顔?」


 ルフィーナの言葉にシオンは訝しながら返答する。


「うん、少しだけね。私が欲が無いねと言った時だよ」

「そうか。ルフィーナが俺の事を欲がないと言った事に驚いたんだよ」

「あ、そりゃそうよね。いきなり欲が無いなんて言われれば戸惑うか」

「まぁな。俺自身が欲にまみれた人間と思ってたからルフィーナの評価には驚いたよ」

「あはは」


 シオンとルフィーナはそう言ってお互いに笑う。これでこの話は終わりになった。


 その後もシオンもルフィーナも特段重要な話をする事もなくゴルグへの道を歩んだ。日が傾き始めた事でシオンとルフィーナは野営の場所を探すことにする。

 二人の食事は携帯食をかじるだけのものであるために野営というよりも寝る場所の確保だけであるのだが、それでも夜間の移動は避けるべきなのだ。


 すぐに野営の場所は見つかると火を起こして簡単な食事に入る。燻製肉と冷たくなった黒パンという食事の楽しみを完全に放棄した食事である。

 食事の後はマントに包まって二人ともすぐに横になった。野営の場所では体力温存と回復に努めるべきなのだ。


「ねぇシオン……」


 横になってしばらくしてルフィーナがシオンに声をかけてくる。


「どうした?」

「シオンはどうして一人でやってるの?」


 ルフィーナはどうやらシオンが一人でやっている事に疑問を持ったようである。ルフィーナはギルドでさりげなく冒険者達を観察しており、ほとんどの冒険者はチームを組んでいるのだ。安全面であってもチームを組んだ方が遥かに生存確率があがるのだ。


「そうだな。一人でやったほうが気楽で良いと言うのが一番の理由かな」

「気楽?」

「ああ、俺は自分自身のことで精一杯なんだ。とても他のメンバーの命を背負うことは出来ない」

「背負う?」

「ああ、思い上がりに聞こえるだろうが俺は仲間を失うのが辛いんだよ」


 シオンの言葉にルフィーナは少しばかり悲しそうな表情を浮かべたのが焚き火の向こうに見えた。


(あれ? 何か誤解させたか?)


 シオンは今の返答がルフィーナにシオンがチームを組まない理由にかつて仲間を失ったためと誤解させた事を察した。

 実際の所、シオンは一度もチームを組んだことは無いため仲間を失った事などないのだ。単純に自分の“偽造”がバレて使えなくなるのを避ける目的で組んでいないだけなのだ。シオンとすれば裏切らないという確信があれば組む事も辞さないのだが、シオンは心のどこかに“裏切る”という意識を捨てられないのでいたのだ。

 これは祝福(ギフト)で【偽造者】を得た時に両親に裏切られた事に起因するのだろう。シオンが【偽造者】を得るまでは両親は兄同様に愛してくれていたのだ。それが兄が【勇者】を発現し、シオンが【偽造者】を発動したときに両親にとって自分は不要な者になっただけでなく兄の足を引っ張る邪魔な存在になったのだ。

 それがシオンに人間は状況によってコロコロと態度を変えるという意識を植え付けたのだ。もちろんシオンは頭では全ての人間がそうではないと言う事はわかっているのだが、自身の経験がそれを否定しているのだ。


「ごめんね……辛いこと思い出させちゃって……」


 ルフィーナの謝罪の言葉にシオンは自分の返答がルフィーナに誤解を与えた事を察した。


(う~む……誤解を解くべきかな)


 シオンは気まずい思いをしながら曖昧に返事をするのであった。

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