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侵入前夜②

 シオン達がエルクイッドに到着して二日経ちフィグム王国からの遺跡調査隊と合流する事になった。


 フィグム王国の遺跡調査隊は全部で二十四人である。傭兵風の男が六人、魔術師風の男女が三人、そして残りの者達はシオンとルフィーナも知っている者であった。


 残りの十五人は悪食(イベルジスト)であった。フィグム王国で引き渡した悪食(イベルジスト)がこの場にいることに流石にシオンとルフィーナも驚きを隠すことが出来なかった。


「なぜお前達がここにいる?」


 シオンの問いかけに悪食(イベルジスト)の面々はビクリと身を震わせた。


「そうよ。あんた達は裁判を待つ身のはずよ」


 ルフィーナも同様に悪食(イベルジスト)に問いかけると首領のイーブスが緊張の面持ちで二人に返答する。


「はっ、それが取り調べが終わったらすぐにこの遺跡調査に参加しろという命令を受けたのです……はい」


 イーブスの弱々しい声はシオンとルフィーナを完全に恐れきっている者の声であった。


「坊主、嬢ちゃんこやつらを知っておるのかの?」


 ナルクがシオン達に問いかける。ここで嘘を言ってもまったく意味がないためにシオンは正直に答える事にする。


「はい。実はこの間フィグム王国に行ったときに護衛対象者を狙って襲ってきたんです」

「ほう」

「どういう流れか知りませんがこんなに早く釈放されるなんて……」

「ふむ……確かに取り調べが済んだからといって釈放されるには少々早いの」


 ナルクがジロリと悪食(イベルジスト)の面々に視線を走らせる。ナルクの視線を受けて悪食(イベルジスト)の面々はまたもビクリと身を震わせる。


「そういじめんでくれ。これでもこちらのメンバーなのでな」


 苦笑混じりに隻眼の傭兵がナルクに言う。隻眼の傭兵は、年齢が三十後半という所であるが筋骨逞しく些かの衰えも感じる事は出来ない。


(強いな……この人)


 シオンは隻眼の傭兵の実力が凄まじいものである事を察した。その強さはシオンの見た所ナルクと同格と言った所である。


「なるほどの……お主が高名なジューク=ランゼルか」

「あんたがあの『戦神』ナルクか」


 ナルクとジュークは視線をぶつけ合う。両者の視線に込められたものは決して敵意、害意などと言うものではないが、それでも強者同士の視線の交わりは周囲の者達に緊張を与えるのは事実である。


「こいつらは確かに犯罪行為を行うような奴等ではあるが、こちらの責任できちんと押さえるつもりだ」

「そう気にするものでもなかろうよ。誰しも脛に傷の一つや二つ持っているものじゃよ」

「そう言ってくれると助かる」


 ナルクとジュークは互いにニヤリと笑うと緊張感が嘘のように霧散する。互いに威圧をするのを控えたらしい。


悪食(イベルジスト)と君達がどのような関係にあるかは理解した。納得がいかんかもしれんがここはこらえてくれんか?」


 ジュークは次いでシオンとルフィーナに向かって言う。口調は丁寧ではあるがそこに込められた圧は相当なものである。


「こらえるもなにも俺達はそいつらに勝ったんですよ? 俺達よりも弱いそいつ等を恐れる理由はないでしょう。となると警戒すべきは不意を衝かれるぐらいですが、それはそちらが対処してくれるのでしょう?」


 シオンはまったく動じることなくジュークへと返答する。ナルクは超法規的に犯罪者が出てきたことに懸念を生じたようであるが、シオン達にしてみればこのような超法規的な対応をされたのはアルム達が手を回したからであるという推測をしている。思い当たる節があるのなら、それほど恐れる必要はないものである。


「ふ、剛毅なことだな」


 ジュークはそう言うと笑う。もちろんジュークはシオンが少年特有の蛮勇による発言ではないことを察している。


「確かにそうだな。こいつらが裏切るような真似をすれば俺達が始末する事を約束しよう」

「それは助かります。あ、そちらの方々がいない時に襲ってくる場合もありますがその時はこちらで処理(・・)します」

「当然だな。聞いたかなイーブス殿?」

「は、はい!!」


 突然問われたイーブスは思い切り狼狽すると上ずった声で返答する。イーブスにして見ればもはやシオンとルフィーナは恐怖の対象でしかない。その二人にこの場で再会した事は不幸の種でしかないのだ。

 実際の所、シオンとルフィーナも悪食(イベルジスト)から自分達に向けられる感情は恐怖であることを察している。にもかかわらずシオンが殊更に脅しの言葉を混ぜるのは念押しに過ぎないのだ。


「それでは顔合わせは終わったと言う事で明日出発、明後日に突入という流れで良いな」


 ナルクの提案に全員が頷く。


 顔合わせは終わり全員がそれぞれの部屋に引き上げていく。



 *  *  *


「中々、面白い見世物だったな」


 四聖天(レミュオン)のリグガルドが子ども達に告げる。


「ええ、確かにあのシオンという子は相当な胆力ですね。頭も相当に回ります」


 長兄のフィリトが即座に返答する。フィリトとすれば出来るものがいるというのは助かるというものである。


「確かにあいつは中々やるがよ。フィグムの連中も相当に出来るやつらだぜ」

「私もそう思うわ。あのジュークという人はものすごく強いわ」


 次兄のアルカイトと末妹のディアルの言葉にリグガルド、フィリトは頷く。


「ふふ、これほどの強者が集まって挑まねばならない城……一体何が待っているのでしょうね」


 フィリトの声には恐れも何もない。絶対的な強者の風格が漂っている。長兄の頼りがいのある言葉にアルカイトとディアルも頷く。年少の二人も恐れを感じている様子はない。


(頼もしい奴等だ。油断ではなく自分の実力を把握した上で言っておる)


 リグガルドは三人の子達の言葉に心の中で呟いた。



 *  *  *


「ジュークさん、帝国の奴等は相当なやつらを投入してきましたね」

「ああ、一流どころを集めてきたようだ」

「それだけ、今回の話はヤバイって事ですよね?」


 ジュークに問いかける男は言葉の内容は恐れていると評して良いかもしれない。だがその口調がそれを否定していた。


「だがこちらも帝国に劣るものじゃないさ」


 ジュークの言葉は自信に満ちていた。

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