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侵入前夜①

 シオン達は“エルクイッド”にいた。


 シオン達が遺跡調査に本当に参加する事になった事で、契約書が新たに作り直されることになった。ディスウォルに提出した契約書と基本は変わらないのだが、支払われる報酬が一日当たり銀貨一枚から金貨一枚となっている。

 シオン達が宿舎に泊まり三日後にエルクイッドに全員が移動する事になった。本来、帝都ハウンゼルとエルクイッドの距離は馬車で五日間はかかるのだが、遺跡の調査隊は転移魔術でのエルクイッドの行政府に設けられた受け入れ場所に転移したために、実質的な移動時間は皆無であった。


 ここでフィグム王国からの調査隊と合流する事になっているのだが、到着は二日後となっておりシオン達はここでつかの間の休息を取ることになったのである。


 今回の調査隊はシオン、ルフィーナ、ナルク、エミュリス、クシャーラの冒険者組と四聖天(レミュオン)の四人、傭兵組の五人、魔術師ギルドの三人、紅い風(シュキュール)の一六人である。

 当然と言うべきか調査隊の中にシオンとルフィーナに絡んでくるような者は誰もいない。ナルク達が目を光らせているというのもあるのだが、それ以前にわざわざ揉め事の種をばらまくような愚かな連中はいないのだ。


四聖天(レミュオン)か……確かにナルクさん達が求めていた人材っぽいよな。しかし思ったよりも若いんだよな)


 シオンは四聖天(レミュオン)に視線を少しだけ向けてそんな事を考えていた。四聖天(レミュオン)は、リグガルド、フィリト、アルカイト、ディアルの四人で全員が血縁者とのことだ。

 リグガルドが父で年齢は四十三歳、茶色の髪を短く刈り込んだ長身の男だ。性格も穏やかで暗殺を稼業にしているというのが信じられないほどだ。

 フィリトは長兄で年齢は二十一歳とのことだ。女性的な顔立ちの美青年であるが見かけだけではないのは確実だ。フィリトは線は細いがそれは一切の無駄を排除した鍛錬の賜であるのは間違いない。

 アルカイトは次兄で年齢は十九歳。父親に目鼻立ちは似ており野性味溢れる容姿をしている。シオンは少し話しただけだが中々感じの良い青年で良くも悪くも一本気な青年であるように思われた。

 ディアルは末娘で年齢は十六歳。ほんわかした印象の美少女であり将来はさぞかし人目を引くような美女になりそうである。


 この四人は大層仲が良く。特に末娘のディアルに対しては全員が溺愛しているようであった。ナルク達と四聖天(レミュオン)の仲も良好のようであり、クシャーラもディアルを可愛がっているようであったことから、ディアルは愛された体質なのかも知れない


(傭兵、魔術師の人達も一流どころが揃ってる)


 シオンは次いで傭兵、魔術師に目を向ける。傭兵の五人は全員が男であり年齢は上は二十代後半から二十代半ばである。

 極自然にローランドという最年長者が傭兵達のリーダーとなっている。シオンが見た所ローランドという人物は傭兵達の中でももっとも実力的に秀でているように思われる。戦闘力だけでなく、統率力も優れているようである。

 魔術師は全員が女性であり二十代半ばの妙齢の女性であるジーンがまとめ役となっている印象だ。魔術師達はよくよく見ると綺麗な顔立ちをしているのだが、黒っぽいローブを身に纏い、全体的に暗い印象なのだ。

 だが話してみると意外と気さくな人達であり、シオン達とも普通に会話をしているためにコミュニケーション能力は高いようである。


紅い風(シュキュール)か……闇ギルドという話だがやはり油断ならない連中だな)


 最後にシオンは紅い風(シュキュール)に目を移す。こちらの一団はアルメックというリーダーが統率とする集団であり、全員が黒装束に、まるで骸骨のような仮面を被っている。

 当然ながら人相は誰一人わからないことで読み取れる情報が他のチームに比べて圧倒的に少ないのだ。

 ただ、メンバー達が自分達を下に見ているのは十分に感じていた。特にシオンとルフィーナの冒険者ギルドでのランクを伝えてからその度合いは他のメンバーよりも下に見ているように思われる。


「さて、二日間の休息なんじゃがそれぞれ思い思いに過ごすと言う事で良いな?」


 ナルクが全員に向けて言うと全員がそれぞれ頷いた。それを見てナルクも頷くと解散と言おうと口を開こうとしたのだがそこに紅い風(シュキュール)のアルメックが先に口を開いた。


「ナルクさんよ。ここはっきりしておきたいことがあるんだが」


 妙に険のこもった口調に場の空気は一気に緊張した。ここにいるのは全員が一流の実力者達だ。空気が変わった事に気付かない者などいないことが逆に場の緊張を高めう事になった。


「なんじゃな?」

「あんたがリーダーなのか? 俺達はあんたの部下になった覚えはないのだがな」

「無論、お主等は儂の部下ではない。だが現場に着くまでは何かしらのまとめ役が必要なのはわかるじゃろう? 儂はその役をやっておるに過ぎんよ。現場ではそれぞれの意思で行動してもらう。誰と組むかは自由じゃし、連携するもせぬも自分で決めるべきじゃよ」


 ナルクの言葉は淡々としており、それが全員にナルクが本心を言っていると言う事を思い知らせた。


「それは勝手に動けと言うことで良いのかな?」

「さっきから言っておるじゃろう。儂等はこの仕事のために集まった烏合の衆。なら連携など最初から期待せん方が遥かに効果的に動けるというものじゃろ?」


 ナルクはアルメックに対して冷然と言い放った。それは自主性を重んじるという甘っちょろいものではなく“何かあったら自分で対処しろ、儂は知らん”と言っているような冷徹さが感じられた。


「ふん、確かにそうだな。全員がそれぞれの流儀で動いているんだから無理に他の連中に合わせる必要はないな」


 アルメックの口調にやや嘲りの感情が含まれた。


「ただし……」


 そこにナルクの一段低い声が発せられ、同時に威圧感が放たれるとアルメックが虚を衝かれたような空気を発する。


(呑まれたな……油断するなんて少々甘いな)


 シオンはアルメックがナルクに呑まれた事を察した。アルメックがこの場で突然、このような事を言い出したのは自由に動くことを確保しようとしただけではない。ナルクを論破することによってこの調査隊の主導権を握ろうとしたのだ。しかし、その目論見はナルクによって見事に打ち砕かれることになった。

 アルメックは心理的に攻勢に出ており防御が意識から外れた瞬間をナルクによって衝かれたのだ。反撃が来ないと思っていた所に不意を衝かれたのだ。そしてこの好機をナルクが見逃すはずはない。


「契約はきちんと守ってもらうぞ。そして他の者を排除しようとするのも絶対に認めん。仮初め(・・・)とはいえ仲間である事は間違いないからの……」


 ナルクの言う仮初めという言葉にアルメックはゴクリと唾を飲み込んだ。ナルクの言う仮初めという言葉は裏切りのカードを握っているのは紅い風(シュキュール)だけでないという強烈すぎるメッセージであった。


「……わかった」


 アルメックはナルクに手玉に取られた形となってしまったのだ。

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