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依頼受任③

「今度見つかった遺跡はズヴィルグ山にあるのは知っていると思うが、どこにあったまでは知っているかな?」

「いえ……」

「見つかったのはズヴィルグ山の中にあった」

「中?」

「そうだ。山の中腹にある洞窟から中に入ったら山の内部に遺跡があったのだ」


 ディスウォルの言葉にシオンとルフィーナに“ほう”という表情が浮かんだ。シオンもルフィーナも遺跡は山間の平地にある小規模のようなものと思っていたのだが、山の内部にあるというのなら、二人の想像の遥か上にある規模のようである。


「山をくり抜いてその中に建造物を建てるというのはかなりの技術、手間が必要ですね」

「ああ、しかもその建造物は城だ」

「城?」

「ああ遺跡、いや城には何らかの魔術がかけられているために経年劣化は無いということだ」


 ディスウォルの言葉にシオンとルフィーナは怪訝な表情を浮かべた。


「その城を誰が作ったのか心当たりはあるんですか?」

「いや……記録、伝承にはそれらしきものは一切無い」

「それはかなりのロマンがある遺跡ですね」

「だろう?」


 シオンの言葉にディスウォルはニヤリと笑う。


「ひょっとして複数のギルドに依頼を出したのは、高等魔術がかけられている事と関係があるんですか?」


 ルフィーナの問いかけにディスウォルが頷く。


「うむ、正直何がおこるかわからん。ありとあらゆる事態に対処するために複数のギルドに依頼を出したというわけだ」

「闇ギルドにも?」

「当然だ」


 ディスウォルは何の躊躇いもなく闇ギルドに依頼を出していることを宣言した。正直なところ闇ギルドに依頼を出した事を言うとはシオンもルフィーナも思っていなかったのだ。部下の誰かが勝手にやったという立場をとると思っていたのだ。


「君達は闇ギルドに依頼を出した事を部下のせいにするとでも思ったのかね?」


 ディスウォルの言葉にはやや棘があるようにシオンとルフィーナは感じる。


「ええ、正直そう思ってました」

「ちょっとシオン」

「どうせ取り繕っても会長は納得しないさ。そうでしょう?」


 シオンが尋ねるとディスウォルは静かに頷く。


「ここまで来たんだからついでに答えて下さいよ。この商会に依頼したのは帝国なんですか? それとも皇族ですか?」

「ほう、どうしてそう思うのかね?」

「闇ギルドに依頼した事ですよ。何だかんだ言っても闇ギルドに依頼するというのは商会にとってリスクが高すぎます。ところが国、皇族のお墨付きがあれば握りつぶせる」


 シオンの言葉をディスウォルは黙って聞いている。


「どうです? あたらずとも遠からずと言った所じゃないですか?」


 シオンがそう言うとルフィーナもディスウォルに視線を移した。その視線には少しばかり棘があるようにも思われる。


「ふむ、その若さでそこまで考える事が出来るか。確かにこの遺跡調査の本当の依頼者はドルゴーク帝国だ」

「帝国が雇い主ですか。国家の体面というやつですか」


 シオンの言葉にディスウォルは静かに目を閉じる。


「それだけ遺跡調査が重要だと言う事だ。見つかった遺跡は奇妙な事が多すぎる。先程も言った経年劣化を防ぐ魔術だが、魔術体系が我々のものとは違いすぎる」

「まったく新しい魔術と言う事ですか?」


 シオンの質問にディスウォルは静かに首を振る。


「いや、それすらわからんのだ。今必死に国家魔術師達が解析を行っているが進度は思わしくないようだ」

「ドルゴーク帝国の国家魔術師が解析しているけどわからない……か」

「ちょっと良いですか?」

「何かね?」

「そんな莫大な利益を生む可能性のある遺跡をどうしてフィグム王国と共同調査するんです? 確かに話を聞く限り手に余る遺跡かも知れませんが、それを上回る利益がもたらされる可能性があるはずです」


 ルフィーナの言葉にディスウォルは静かに首を横に振る。


「確かにそう思うかもしれんが、フィグム王国(・・・・・・)と連携する事に意味はあるのだよ」

「意味ですか?」

「うむ」


 ディスウォルはそう言うとシオンとルフィーナは視線を交わして頷いた。


「そこは機密というわけですね。なら確認したいことはもう一つあります」

「何かね?」

「俺はフィグム王国出身なんです。フィグム王国の人達を苦しめるような非道な目的はありませんよね?」


 シオンの言葉にディスウォルは静かに頷く。正直な話、真実を言っているかどうか判断はつかないのだが、シオンとすればそこは問題ではないのだ。


「それだけは断言できる。それでどうするかね。話を聞いて参加する意思は動かないかね?」


 ディスウォルの言葉にシオンとルフィーナは頷いた。元々、遺跡探索を諦めるという選択肢は無かったのに、魔術体系が自分達と大きく異なるという魔術がかけられている遺跡である。上手くいけば新たなスキルを手に入れるかも知れないと考えれば参加しないという選択肢が生じることはない。


「そうか。それではこちらの契約書にサインをしてくれるかな?」


 ディスウォルは二枚の書類を取り出した。差し出された書類をシオンとルフィーナは目を通していく。


(報酬は一日あたり銀貨三枚、城の中で手に入れたものはフィムドル商会が優先的に買い取る。ただし被契約者が亡くなった場合は一日あたりの報酬以外はフィムドル商会が全ての所有権を所有する。必要経費はフィムドル商会が持つ?)


 シオンはルフィーナと再び視線を交わすとそれぞれ頷いた。


「必要経費はフィムドル商会が持つとありますが……?」


 シオンが尋ねるとディスウォルは当然だろうと言わんばかりの表情で頷いた。


「準備を万端にしてもらわねばならないのでな。個別に任せるとどうしても懐事情により準備をケチる可能性がある」

「なるほど、正直助かりますね」

「それから、出発までこちらが用意した宿舎で生活してもらうよ」

「え?」


 ディスウォルの提案はシオン達にとって有り難い事この上ないものだ。だが二人とすればその意図が気にかかるというところである。


「理由は一括管理した方が面倒がなくて良いからね。伝言があるときにいちいち王都中に使いを走らせるのは面倒なんだよ」


 ディスウォルの言葉にシオンは納得の表情を浮かべた。確かに王都の何処にいるというのをいちいち把握するのは大変だし、時間もかかる。それなら一箇所にまとめておけば、時間も手間も節約できるというものである。


「わかりました。それで良いです。ルフィーナは?」

「反対する理由はないわね」

「よし、決まりだ。あ、それから一つお願いがあるんですが」


 シオンがそう言うとディスウォルは即座に頷く。“言ってみなさい”という仕草にシオンは口を開く。


「俺とルフィーナの部屋は一緒にして下さい。あと、防音の魔術を使用するのを許して欲しいです」

「なるほど……君達はそういう関係だったのか。若いというのは良いね」


 ディスウォルは小さく笑いながら言うとシオンもにっこりと微笑んだ。ルフィーナは最初事情が分からず首を傾げていたが二人の言葉の意図を察すると顔を真っ赤にして抗議の声を上げようとした。


「ご理解いただけて幸いです。それじゃあルフィーナ、サインをしよう!!」


 ところがシオンはルフィーナが抗議の声を上げるよりも早くディスウォルに向けサインをする旨を告げるとそのままサインをした。ルフィーナもそれを見てシオンに続いてサインをする。


「これで契約成立だね」


 ディスウォルはサインされた書類を見てニッコリと笑って言った。



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