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依頼受任②

 シオンとルフィーナはギルドにズヴィルグ山の遺跡調査の仕事を受ける事を伝えると十分に注意するようにグレイスに言われた。

 その注意が闇ギルドと行動を共にする事に対してなのか、ナルク達の騒動に巻き込まれないようにするものなのかはシオンには判断はつかない。シオンからすればナルク達の方が厄介というものであるが音声化するような事はしない。


 グレイスは依頼主のフィムドル商会に向かうように言うとシオン達は即座にフィムドル商会へと向かう事にした。


「それにしてもフィムドル商会か……冒険者だけでなく、複数のギルドに声かけしてるのは気にかかるわね」

「確かにな。普通に考えれば冒険者ギルドに依頼すれば事足りるのにな」

「王国の方も似た感じだったわよね」

「ああ、色々と不可解な事が多いけど俺達にしてみればそんなに大した問題じゃないさ。俺達の目的は兄さん達の露払いだ」

「うん。アルティナのためにも出来るだけ危険は取り除いておかないとね」

「情報を持って帰るだけでも兄さん達の助けになるさ」


 シオンとルフィーナはズヴィルグ山の遺跡調査を受けるのはアルム達への手助けのためである。もちろんアルム達の実力を考えれば手助けが必要であるとは思えない。だがシオン達にしてみればまったく動かないというのはあり得ない選択であった。

 もし、この遺跡調査がアルム達の活動にまったく関わりない可能性も大いにあるのだが、シオンは不思議とこの遺跡調査は関わりがあると考えていたのである。


 冒険者ギルドから三十分ほど歩いた所にフィムドル商会の建物があった。四階建ての煉瓦造りの建物は帝国屈指の商会に相応しい威容を誇っており、人がせわしなく出入りしている様子が見えた。


「あの、すみません」

「はい」


 軒先にいた若い店員にシオンが声をかけると店員は愛想良く応答する。若い店員はシオンを見てそれからルフィーナに視線を移すと一瞬呆けた表情を浮かべた。恐らくルフィーナの容姿に目を奪われたのであろう。


「ズヴィルグ山の遺跡調査の件で来たのですが担当の方をお願いします」

「あ、はい」


 シオンの問いかけに店員は我に返ると慌てて商会の中に入っていった。


「さてどんな感じかな」

「私達がランクが低いから結構ぞんざいな扱いを受けるかもね」

「その辺の事は期待しないでおこう。むしろ舐めてくれてる方が動きやすくなるさ」


 シオンの言葉にルフィーナは静かに頷く。期待されないと言う事は逆に言えば自由に動けるというものである。しかし、捨て駒に使われる可能性もあるために適度に存在感を示す必要があるのでその辺りが中々難しい。


(ルフィーナは守らないとな。良からぬ事を考えるやつが必ずいるだろうしな)


 シオンは横目でルフィーナを見て心の中で呟いた。


「あれ? ひょっとして私に見惚れちゃった?」


 ルフィーナがシオンの視線に気づくとニヤニヤしながら尋ねてきた。シオンをからかおうというルフィーナの意図をシオンは察すると即座に返答した。


「ああ、俺の恋人は本当に美人だからな。見惚れるのは当然だろ」

「ふぇ!!」


 シオンが事も無げに返した事でルフィーナは大いに戸惑いの声をあげた。ルフィーナは自分からシオンをからかうくせにシオンの返答にいつもやり込められてしまうのである。


「どうした? 俺に見惚れたか?」


 今度はシオンがルフィーナにニヤニヤして言うと、自分が手の平で転がされていた事に気付きルフィーナは憮然とした表情を浮かべた。ルフィーナの反応にシオンは苦笑を浮かべる。

 端から見たらバカップルと呼ぶに相応しいやり取りであり、独り身のものにしてみれば路上に唾を吐きつけても仕方のないじゃれつきであった。


「さ~て、店員さんはまだかな~」


 シオンはやや強引に話題を逸らすように言う。露骨な話題逸らしにルフィーナの憮然とした表情が続いていた。


(次こそは見てなさいよ)


 ルフィーナが闘志を燃やし始めたところで店員が戻ってくる。幸いにして先程の二人のやり取りは見られていなかったようである。


「お待たせしました。ご案内します」


 店員は二人に言うとシオンとルフィーナはニッコリと笑って頷き店員についていく。コミュニケーションの基本は笑顔であるとシオンもルフィーナも思っているため、二人とも笑顔を見せることは自然に行えるのだ。


 フィムドル商会の中は活気に満ちあふれている。あちらこちらで指示が飛び、部下と思われる店員が忙しそうに走り回っていた。


「凄い活気ね。ドルゴーク帝国屈指の商会は伊達じゃないわね」

「ああ」


 シオンもルフィーナも感心したように周囲を見渡している。もちろん素直に感心しているというのもあるのだが、二人は出入りしている人達を観察するのも忘れていない。


(貴族……騎士、傭兵……魔術師、文官、商人……幅広い客層だな)

(……あの人の服装……地味を装っているけど生地自体は相当良いものだわ。それにあの仕立ても相当な職人のものだわ。あんな仕立てが出来るなんてよほどの高位貴族かしら?)

「こちらです」


 店員はシオンとルフィーナを一つの部屋に案内するとドアをノックする。


「どうぞ」


 中から入室の許可をもらったので店員が扉を開けた。部屋の中には一人の初老の男性がいた。半白の髪をオールバックにした端正な顔立ちの男性である。男性は執務机の上に書類を置くとシオンとルフィーナにニッコリとした笑顔を向けてきた。


(なんだ……この人、妙に凄味がある)

(只者じゃないわね)


 シオンもルフィーナの第一印象がこれであった。別に男性はシオンとルフィーナに威圧感を放っているのでも脅しつけたわけでもない。しかし、シオンとルフィーナが受けた印象は侮れないというものであったのだ。


「あ、俺はシオンと言います。ズヴィルグ山の遺跡調査の件で来ました」

「私はルフィーナです」


 シオンとルフィーナは、固さを感じさせないよう、それでいて軽薄にならないように男性に挨拶を行う。男性は二人の挨拶を受けて笑顔を崩すことなく応対する。


「シオン君とルフィーナさんだね。私はディスウォル=フィムドル。このフィムドル商会の会長だ」

「え?」

「は?」


 ディスウォルの肩書きを聞いたシオンとルフィーナは流石に驚きを隠すことが出来なかった。二人の反応に気を良くしたのだろうディスウォルはにこやかに笑う。


「まぁ、立ち話も何だから、かけてくれたまえ」

「あ、はい」

「失礼します」


 ディスウォルは机の前に置かれているソファに着席を促すと二人は素直に従いソファに腰掛けた。座り心地はシオンが経験した事のないほどの快適なものである。地味な装いなのだが、やはり帝国屈指の大商人に置かれているものは品質が素晴らしい。

 二人が腰掛けるとディスウォルもまた二人の前のソファに腰掛ける。


「ズヴィルグ山の遺跡調査に参加すると考えて良いのかな?」


 ディスウォルはいきなり本題に入った。腹芸をするつもりはないようである事を二人は即座に察する。


「はい。俺達はまだ駆け出しでランクもシルバーですがこの調査に参加したいと思って来ました。もしまだ受け付けているのならお願いします」


 シオンとルフィーナは頭を下げた。


「ふむ、冒険者の参加が著しく少ないのは困っていたのだよ。参加してくれるというのなら助かるよ」


 ディスウォルはにこやかに笑いながら言う。


「あ、ありがとうございます!!」

「がんばります!!」


 ディスウォルの言葉に二人は嬉しさを含んだ声で返した。ディスウォルは笑顔を収めると威厳のこもった声で二人に告げた。


「今回の遺跡調査は君達が考えているよりも遥かに重要だ」


 ディスウォルの言葉には並々ならぬ決意が漲っている事を二人は察した。

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