ルフィーナ③
フードをとったルフィーナの顔は美人とはかけ離れたものである。鼻はつぶれ、口元は歪み、バランスというものが完全に欠如していた。
蒼い瞳と金色の絹糸の様な柔らかな髪は文句なく美しいためにより顔の造詣の悪さが目立ってしまう。
「あの……ごめん。すぐに隠すね」
ルフィーナはすぐに再びフードを被った。その様子は容姿にかなりの劣等感を持っていることを思わせるものであった。
(この容姿のせいでルフィーナは苦労したのかもしれないな)
シオンはルフィーナの態度からそのように察する。容姿の優れない者がそれを元にからかわれて心が傷付くという事の例は別に珍しい事では無い。
(気にすること無いのに……)
シオンは同時にルフィーナを哀れに思った。これはシオンがルフィーナの容姿が優れない事に同情したのでは無く。容姿で判断するものしか周囲にいなかった事に対する同情である。
シオンも祝福により人生を大きく狂わされた。本人には何の責任もない事で両親から虐待を受けたのだ。シオンとしてみれば意に沿わぬ祝福を与えられた事と生まれ持った容姿で蔑む方が遥かに卑しいのであるが、それはこの世界では中々受け入れられない事であった。
シオンはルフィーナの境遇に自分と似たものを感じてしまったのだ。
「確かに美人じゃ無いけど隠すような顔じゃ無いだろ」
不躾なシオンの言葉に職員が険しい視線を向ける。だが、シオンは意に介した様子も無く自分の意見を変えるつもりはないようであった。
「でも……」
「良いからフードをとれって」
ここでシオンが“お前は美しい”と言う類の事をいうのは簡単であるが、それは逆の意味でルフィーナを傷付ける事になる。それよりもここは敢えて正直な感想を述べた方がシオンの誠意は伝わると思ったのだ。
「……うん」
ルフィーナの承諾の返事には躊躇はあったが奥底に嬉しさが含まれているのをシオンは察した。
「よし、それじゃあ。とりあえずは登録は終了と言う事ですね」
「はい」
シオンは職員に向けて言うと職員もまた苦笑未満の表情を浮かべて返答する。ルフィーナに対して不躾なシオンの態度であったが、ルフィーナがシオンの不器用な優しさを気づいた事にほっと胸をなで下ろしていたのだ。
「それじゃあルフィーナさんはこれから三つの依頼をシオンさんと共にしてもらいます。依頼料はシオンさんに七割、ルフィーナさんは三割で分配してもらいます。シオンさんには、受けた仕事の報酬の五割がギルドから別個に支払われます」
「わかりました」
「はい!!」
職員の言葉に二人は即座に返答する。この辺りの配分はギルドの規定で定められているためにシオンとしても異論はない。
「それじゃあ、登録はこれで終わりです。シオンさんとどの依頼を受けるかどうか相談してから依頼を受注して下さい」
「わかりました」
職員の言葉にルフィーナは再び返答するとシオンとルフィーナは掲示板の方に歩いて行く。
「ルフィーナは戦闘はどれぐらい出来る?」
「えっと、ドルゴークにくるまでに一度だけ灰犬と戦ったけど何とか勝ったわ」
「灰犬には勝てると言う事か。それじゃあそれなりの討伐任務をこなせると考えた方がいいな」
シオンはルフィーナの灰猟犬との戦闘を終えているという話から討伐任務を受ける事を提案する。
灰猟犬は文字通り猟犬のような尻尾が二本ある魔獣である。獰猛な肉食獣であり、通常は群れで行動する。
家畜だけでなく人間も容赦なく襲うためにギルドにはたびたび討伐依頼が舞い込んでくるために冒険者達にとっては馴染みの魔獣であった。
「少々、不安だけど一人じゃないからやるわ!!」
ルフィーナの言葉にシオンは表面上はにこやかに頷く。
(やはりルフィーナは何かあるな。さっきは『気殺』とかいうスキルだけあると言っているがそれだけでないのは確実だ)
シオンは先程の会話でルフィーナが『気殺』という気配を絶つスキル以外の何かがあることを察していた。灰猟犬は群れで獲物を狙う。その事を考えればルフィーナは複数の灰猟犬との戦闘で生き残った事になる。
一人で灰猟犬の群れに襲われて大したケガを負うことも無く斃したのだからルフィーナの戦闘力は軽く見積もってもシルバーランク以上であるとシオンは見ていたのだ。
「それじゃあ、やはり冒険者には戦闘がつきものだからな。討伐任務を三つこなすとしよう。それ以外の野営とか準備の件などはその都度教えていくな」
「うん♪」
ルフィーナは嬉しそうに笑い返答した。ルフィーナの容姿は決して優れたものでは無いのだが笑顔が周囲に与える印象は良いものになるのは間違いない。
「とりあえずはこれとこれにするか」
シオンは無造作に三枚の依頼書を掲示板からとった。
「え? そんな適当で良いの?」
シオンの行動にルフィーナは呆気にとられた表情と声でシオンに尋ねる。
「ああ、ゴブリンの討伐と灰猟犬の駆除、そしてアンデッドの駆除だ」
シオンは三枚の依頼文書をルフィーナに見せながら言う。
シオンは無造作に選んだように見せているが実際はぞれぞれタイプは違う。ゴブリンは亜人種と言われるタイプのものであり、知性は人間には劣るが存在する。そして灰猟犬は魔獣タイプ、最後のアンデッドは何の感情も無い動く物体、ルフィーナの能力が何かを見極めるために違うタイプの討伐依頼を受けるつもりなのである。
(ルフィーナには悪いが何のスキルを持っているかというのは気になるんだよな。それにスキルを理解できれば俺の能力も増える)
シオンはルフィーナのスキルを見極めると同時に自分の能力強化を心がけていたのだ。シオンの目的のためには能力はありすぎて困ることは無いのだ。
「わかったわ!! 私がんばる!!」
シオンがそう思っているとはまったく気づいてないようにルフィーナは元気にシオンに告げた。
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