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聖剣②

「聖剣?」


 アルムの言葉にシオンは鸚鵡返しで返答する。勇者の使う聖剣と言えばその価値はもはや天文学的なものになるのは間違いない。そのようなものをぽんと渡された事でシオンが戸惑うのも仕方のない事だろう。


「まぁ聖剣といっても由緒あるものじゃなく職人に打ってもらったばかりの一振りなんだがな」

「へぇ~その職人って?」

「ジルク=カーベント」

「ぶっ!!」


 アルムの言ったジルク=カーベントとは、当代一の腕前を持つと言われる鍛冶職人であり、ありとあらゆる武器を作り上げることに人生をかける職人である。ただ気むずかしい事で有名でどれだけ高い身分であっても気に入らなければ絶対に武器を作ったりしないのだ。

 本来、上の身分に逆らう事は許されないはずであるが、彼の場合はその技量を評価しているものが有力者の中にも多いために、おいそれと傷つける事は出来ないのだ。

 また、彼には息子が二人おり、その二人は鍛冶職人としての腕前もさることながら、冒険者としても活動しており、二人とも『オリハルコン』クラスである。


「ジルク=カーベントと言ったら気むずかしい事で有名じゃないか。よく打ってくれたな」


 シオンの言葉にアルムは首を横に振った。


「いや、気の良いおっちゃんだったぞ。息子さんも気さくな人達でな。色々と良くしてくれたぞ」

「それは兄さん(・・・)だからだよ」


 シオンは苦笑混じりに言う。アルムが勇者だからという事でジルク=カーベントが剣を打つなんて事はない。どこかの国の国王が依頼したが断ったという話があり、ジルク=カーベントは肩書きで人を見ないのだ。それは例え勇者という肩書きを持ってしても覆えせるものではないだろう。


「やはり俺の人間的な魅力のためか……まったく俺も罪な男だな」


 アルムはやや芝居かかった口調で言う。アルムにしてみれば冗談のつもりなのだろうがシオンにしてみれば完全にシオンの意見と一致していたのだ。


「まぁ兄さんは“人たらし”なところがあるからな。しかも天然ものだ」

「いや、冗談なんだから否定してくれないと恥ずかしいんだが」


 シオンが否定しなかったことでアルムはややバツが悪そうな表情を浮かべつつ言う。冗談を真面目に返されると逆に気恥ずかしいものなのだ。


「まぁいいや。この聖剣はジルク=カーベントが打った業物と言うわけだね。でも抜けないという事は何かしらの魔術が込められていると?」

「ああ、こういうことだ」


 アルムはシオンから聖剣を受け取るとそのまま抜き放った。聖剣アビスベルムは片刃の剣でやや反りがあった。


「つまり兄さん以外はこの剣を扱えないと言う事かい?」


 シオンはアルムが剣を抜き放ったことにより、込められた魔術について事情を発した。


「いや、正確に言えばこの剣が抜けないのは鞘に仕掛けがあるのさ」

「鞘?」

「ああ、この剣の鞘には俺以外のものが抜こうとすると強い抵抗を示すようになっているのさ」

「なるほどね。そこまで念入りにすると言う事はこの聖剣の力はそれほど危険というわけか」

「ああ、そういう事だ」


 アルムはそう言うとシオンに聖剣を手渡した。


「へぇ……随分と変わった剣だね。この反り……ん? 兄さんこの剣の材質ってまさか……ガヴォルム?」


 シオンは聖剣を手に取り見ていたが、材質について恐る恐る尋ねる。


「おお流石だな。その剣はガヴォルム製だ。知ってのとおりガヴォルムは自己再生の力が備わっているし、使用者の魔力を込める事でより堅くしなやかになる」

「ふぇ~ガヴォルム製の剣なんて初めて見たよ」

「そしてこの剣の能力は込めた魔術の威力を増大させるんだ」

「どういうこと?」

「つまりな。火炎魔術を込めれば炎を纏うし、氷雪魔術ならば冷気を纏う事が出来る。それにガヴォルムは魔力を貯めることも出来る」

「なんとまぁ……そこまで揃うと反則レベルだな」

「ああ、そういう事だ。これぐらいでこの剣の事は大丈夫か?」

「え?」


 アルムの言葉にシオンはつい芸のない返しをしてしまう。


「どこまでやればシオンが自分の武器にこの剣の特性を偽造できるかわからないと言う事だよ。これぐらいなら大丈夫か?」

「……ありがとう兄さん」


 アルムの言葉にシオンはなぜアルムが聖剣を見せたのかその理由を理解した。アルムは聖剣の能力をシオンへの餞別として贈ろうとしたのだ。シオンの能力を道具を偽造することと認識しているアルムとすればおかしな事ではないだろう。


「ああ、それから渡したいものはこれだ」


 アルムはそう言うと一本の剣と手甲を差し出した。シオンは剣と手甲を受け取ると受け取った剣と抜き放ち確認する。


「これってミスリル製?」


 一目で剣の材質を見抜いた眼力にアルムは満足そうな表情を浮かべる。


「ああ、もし聖剣の力を偽造した場合に今までの剣では耐えきれない可能性があるから、こっちを使った方が良いと思ってな」

「こっちの手甲もミスリル製……こんな高価なものをもらっていいの?」

「ああ、もちろんだ。兄からの餞別だ。遠慮無く受け取れ」

「ありがとう兄さん!! 使わせてもらうよ」


 シオンはにっこりと笑ってアルムに御礼を言う。剣も手甲もシオンの収入からすれば手の届かないものであるのは間違いない。だがアルムが自分のために仕入れたものを受け取らないという選択肢はシオンにはない。しかも、ここまで実用的なものである以上、シオンとすれば有り難い事この上ないのだ。


「気に入ってもらって良かったよ」


 シオンの反応にアルムも嬉しそうな表情を浮かべた。自分の贈った贈り物で相手に喜んでもらったのはやはり嬉しいものなのだ。


「さて、それじゃあ。今日は寝ようか。明日は早いんだろ?」

「うん」


 シオンとアルムはそう言葉を交わして、武器庫を出て行った。

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