新たな依頼②
「それでどうするの?」
ルフィーナがシオンに尋ねる。ここでいうルフィーナの問いかけはフィグム王国とドルゴーク帝国のどちらでズヴィルグ山の遺跡の調査を受けるのかという事である。シオンもルフィーナも二人の意見は受ける事で一致しているのだ。
正直な所、厄介な事例になる可能性が非常に大きいのだが、アルムとアルティナが関わる事になるかも知れないと思うと少しでも露払いをすべきであると二人は考えていたのだ。
「俺達の根拠地はハウンゼルトだからな当然ながら帝国の方だな」
「やっぱりそうよね」
「ああ、こちらではやはり俺達はよそ者だからな。助けてくれる人も限られている」
「そうね。アルティナの関係者からしか助けはないと考えた方が良いわね」
「そういう事だ」
ルフィーナの言葉にシオンは頷く。光輝騎士団の助力を得ることも出来るかも知れないが、あまり借りを作らない方が良い事は明白である。
「となると三日程こちらに滞在して……それから帝国へという事で良い?」
「ああ、それぐらいすれば旅の疲れも癒えるだろう。それに色々と準備もいるしな」
「そうね」
二人は互いに再び頷いた。やるべき事が決まれば二人とも行動は早い。すぐさま準備のために王都を回る事にするのであった。
* * *
日が落ちてからシオンとルフィーナはアルム達の屋敷に戻ってきた。門番の二人は二人を見ると静かに一礼する。どうやらアルム達からすでに話は通っているのだろう。
「失礼します」
「失礼します」
シオンもルフィーナも門番に挨拶をすると門番の二人の顔は綻んだ。シオンもルフィーナも笑顔を浮かべての挨拶であり、特に容姿の優れるルフィーナの笑顔を向けられて不快になるわけはない。
(でっかい屋敷だけど、なんか貴族の屋敷と言うよりも学生寮っぽいな)
シオンは敷地に入ってから周囲を見ると貴族の屋敷と言うよりも寄宿舎のような印象を持った。
「何か寄宿舎みたいね」
ルフィーナも同様の印象を受けたらしい。
バタン!!
建物に向かってきていた所でバタンと扉が勢いよく開かれるとアルティナが飛びだしてきた。
「お姉様~~♪」
アルティナはそのままルフィーナの胸に飛び込むと嬉しそうにルフィーナの胸に頬ずりを始めた。
「ちょ、アルティナびっくりするじゃない」
「えへへ~お姉様~♪」
ルフィーナはアルティナの嬉しそうな声に苦笑を浮かべると頭を撫でてやる。その仕草はアルティナへの愛情に満ちており、ルフィーナにとってもアルティナがいかに大切な存在であるかを物語っていた。
「お~帰ったか。シオンもルフィーナさんも上がってくれ」
そこにアルムが声をかける。シオンがアルムに視線を移すとアルムの後ろにはイリーナ、ヴィアス、エルリアが立っていた。全員が二人を待っていたようで和やかな雰囲気が満ちていた。
「うん。兄さんお邪魔するよ」
「おう。入れ入れ」
アルムがそう言うとシオンがルフィーナ達に声をかける。
「ほら二人ともいくぞ」
「うん」
シオンの言葉にルフィーナは即座に返答し、アルティナもルフィーナの胸から離れると片腕をとった。
「お姉様♪ 行きましょう♪」
アルティナはそう言うとルフィーナの手を引いて中に入っていく。シオンも二人に続いて建物の中に入っていく。
建物の中は華美とは縁遠いものであるが、造りはしっかりしているものであった。
「シオンもルフィーナさんも今日は疲れたろ。まずは風呂にでも入ってきたらどうだ?」
アルムの提案にシオンとルフィーナは互いに視線を交わすと襟元や袖口の臭いを確かめる。
「お姉様、安心して下さい!! お姉様がいくら旅の汚れがついていたからと言っても私はいっこうに構いません!!」
「お風呂に入ってきます!!」
アルティナがルフィーナにそう宣言するとルフィーナは即座に返答した。アルティナの言葉はフォローのつもりだったのだろうが、実際の所臭うと宣言したのに他ならない。
ルフィーナも冒険者という職業に就いてはいるが乙女である事は間違いない。体臭が臭うなどと言われれば恥ずかしくもなるというのも当然だ。
もちろん、ルフィーナは冒険者である以上、野宿をする事も旅塵にまみれることも嫌とは言わない。だが仕事以外の時には人並みの衛生観念が顔を出すのは当然の事であった。
「それじゃあお姉様、私がお背中をお流しいたします!!」
アルティナはそう言うとルフィーナは少しだけ困った様な顔を浮かべるがすぐに微笑んで頷いた。ルフィーナの了承が得られた事にアルティナは本当に嬉しそうな表情を浮かべる。この世の幸せを独り占めしたような無駄に良い笑顔であった。
「お姉様こっちです!!」
アルティナはルフィーナの手を引っ張っていくと残された者達の間に苦笑にも似た空気が流れる。
「それじゃあ、シオンも風呂に行ってこい。全員が揃ったところで晩飯にしよう」
「はい」
アルムの言葉にシオンは頷くと風呂の位置を教えてもらうと一人風呂に向かうのであった。




