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新たな依頼

 シオンとルフィーナはそれから程なくして冒険者ギルドに到着した。冒険者ギルドはレンガ造りで、四階建ての大きな建物である。冒険者ギルドの建物の両隣には、酒場と食堂があるのはある意味様式美というものだろう。


「何かこっちのギルドは洒落てるな」


 シオンの言葉にルフィーナも頷く。帝都にある冒険者ギルドと大きさは変わりないがこちらの方が洗練されているように二人は感じた。

 ドルゴーク帝国はどちらかというと質実剛健を好むために建物は質素な傾向なのだ。


「まぁ、文化の違いというやつでしょうね」

「そうだな。個人的には帝国の方が好きだな」

「フィグム王国出身なのに?」

「ああ、単なる個人的な好みというやつさ」


 シオンはそう答えるとギルドに向かって歩き出した。ルフィーナもシオンに続いてギルドに向かう。


 ギィ……


 扉を開けると冒険者達がおりなす喧噪が広がった。あちらこちらでガヤガヤと冒険者同士で立ち話をしているのが目に入った。


(活気はやはり相当なものだな)


 シオンが周囲に視線を送りさりげなく観察する。王都の冒険者達の装備はかなり整っているように思われる。王都で活動する冒険者達は高ランクの者達が他のギルドよりも高い割合にあるのだが、冒険者達の装備はそれを裏付けるに十分すぎるものである。


「とりあえず、仕事の依頼文書を確認するとしよう」

「うん」


 シオンがそう言うとルフィーナも即座に頷く。すれ違う冒険者達がルフィーナの容姿を見て口笛をふくような仕草をする。ルフィーナの容姿に感歎したのだろう。


「ちょっかいを出すような人はいないわね」


 ルフィーナの呟きにシオンは苦笑を浮かべた。それを見たルフィーナはシオンに抗議の視線をおくってきた。


「ああ、王都の冒険者クラスになるとそんなレベルの低い事はしないよ。ハウンゼルトのギルドでもそうだったろ?」

「うん、でもあれってシオンが私を自分の恋人と言ったからじゃないの?」

「それもあるけどさ。基本的にハウンゼルトを拠点とする冒険者の質は良いんだよ。この王都の冒険者も同様に質が良いのさ」

「なんで?」


 シオンの言葉にルフィーナは首を傾げる。


「簡単だ。王都や帝都のようなギルドを拠点にすれば、貴族や大商人の依頼を受ける事になるだろ。素行の悪い冒険者を雇うのは避けたくなるのが正直なところだろ。もし後ろ暗い事を頼もうとするならば闇ギルドを使うだろうしな」

「なるほどね。納得だわ」


 ルフィーナは納得の表情を浮かべるとうんうんと頷いた。


「さてと……」

「え~と……」


 シオンとルフィーナは掲示板に貼られている依頼文書に目をやる。


「何々……ビシュモール山脈に飛竜(ワイバーン)が飛来……。クルムガス山にある洞窟の調査依頼。ゴブリンの一団がイブトス森林地帯で暴れている……殲滅依頼だな」

「珍しいのは今シオンが言ったのぐらいね。あとは大体ハウンゼルトの依頼と変わんないわね」

「ああ……そうだな……ん?」

「どうしたの?」

「この依頼……見覚えがある」

「え?」


 シオンが指し示した依頼文書にルフィーナも視線を移す。


「え~と……ズヴィルグ山にある洞窟の遺跡の調査……?」

「ああ、ハウンゼルトの冒険者ギルドでも同様の依頼があった。依頼人は……ミルガス=オズローム」

「帝都の方の依頼人と同じ?」

「いや、この名前では無かった気がする」

「同じ依頼内容なのに依頼人が違う……妙な話と言えば妙な話ね」

「ひょっとしたら早い者勝ちって事かしら?」

「う~ん……正直、よくわからんな。共同出資で依頼を出してる可能性もあるしな」

「それじゃあ確認した方が早いんじゃない?」

「だな」


 ルフィーナの意見にシオンは賛同すると受付の方に向かう。二人は三十代半ばの男性の職員に尋ねることにする。


「すみません。あそこに張り出されているジヴィルグ山の洞窟にある遺跡調査の件で聞きたいんですけど」

「ああ、あれですか」


 シオンの問いかけに職員はすぐさま思い至ったようであった。


(これは尋ねる冒険者が多いと言う事か?)


 シオンは職員が淀みなく返答したことから尋ねられることに慣れているように感じたのだ。


「あれは最近、ドルゴーク帝国との国境沿いにあるジヴィルグ山に遺跡が見つかったんですよ。遺跡と言うよりもダンジョンといった方が良いかもしれませんね」

「実は俺達、ドルゴーク帝国のハウンゼルトを拠点にしているんです。そこで同じ内容の依頼を見たんですよ」

「ああ、それは今回は王国のオズローム商会と帝国のフィムドル商会の共同出資による依頼なんですよ」

「共同出資?」

「ええ、国境沿いと言う事でなかなか微妙な……ね?」

「なるほど」


 職員は言葉を濁すがシオンはすぐさま察する。国境沿いと言う事でこのダンジョンでお宝が見つかった場合に争いの種になりかねないために互いに抜け駆けしないようにしているのだ。


(ひょっとしたら商会に依頼したのは王国と帝国の政府……若しくは皇族、王族か)


 互いに戦争の火種となりかねないために国が表立って関わり合いを避けた可能性をシオンは考えたのだ。ちらりとルフィーナを見るとルフィーナもシオンと同様の結論に至ったのかも知れない。こくりと頷いた。


「その依頼なんですが帝国のギルドに所属している我達でも受けれますか?」

「まぁ問題無いと思いますよ。ただこちらで受けた場合には雇い主であるオズローム商会の雇用条件に従う事になりますけどね」

「まぁそれは当然ですね」

「実はここだけの話、この依頼は冒険者ギルドだけでなく、傭兵ギルド、魔術師ギルドに加えて……闇ギルドにも依頼を出してるらしいんですよ」

「闇ギルド?」


 職員の闇ギルドに依頼という事にシオンとルフィーナは目を細める。


「ええ、少しばかりきな臭いって事で冒険者達は慎重になっているというわけです」

「そうですか……ありがとうございました」


 シオンはぺこりと職員に頭を下げると職員から離れていく。ルフィーナも職員に頭を下げるとシオンについていった。

 シオンとルフィーナはそのままギルドを後にする。


「ルフィーナ、遺跡の調査に参加しないか?」

「え?」


 シオンがギルドを出てすぐにルフィーナに尋ねた。


「どういうこと?」


 ルフィーナは訝しがるように尋ねる。わざわざギルドの外に出てルフィーナに尋ねた事に対する意図を図りかねたのである。


「見つかった遺跡には何かある。それも中々厄介なものがな」

「根拠は?」

「人集めの幅が広すぎる。冒険者、傭兵、魔術師だけでなく闇ギルドにまで声かけをするということは相当なものがあるんだと思う」

「それは確かに私も思ったけど……何か面倒な事になりそうだわ」

「ああ、兄さんが勇者を発動した事になにか関係がありそうな気がする」


 シオンの言葉にルフィーナは虚を衝かれたような表情を浮かべた。


「アルティナも聖女を発動した……」


 ルフィーナもまたポツリと呟く。


「……」

「……」


 シオンとルフィーナはしばしの沈黙の後に同時に頷いた。

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