戦い終わって②
ちょっと内容がくどいかなと思いましたが必要と思いこのままでいきます。
闘技場を出たシオンとルフィーナはギルドまでの道をテクテクと歩いて行く。
「ねぇシオン、確認しておきたいんだけど」
歩きながらルフィーナはシオンに問いかけてきた。ルフィーナの問いかけにシオンは周囲に注意を向けたところでルフィーナが自然な声でシオンに告げた。
「安心して尾行はいないわ」
ルフィーナの言葉にシオンもニッコリと笑うと口を開く。シオンもルフィーナもシオンの祝福、能力に対して隠すことに余念はない。先ほどのアルムとの試合で、シオンは『身体能力倍増』『瞬神』『炎の魔剣』の三つのスキルを使用した。
『身体能力倍増』、『瞬神』の二つのスキルは身体能力を強化するものなのでそれだけの身体能力を身につけたという事で一応の説明はつくが、炎の魔剣に関して言えばものすごく分かりやすい形で大勢の前で見せてしまった事になる。
実際にアーヴィングはシオンの偽造の力に少しばかり興味を持ったようである。偽造という能力をシオンが使用しているとは分からないまでも何やら特殊な能力を有しているという可能性を察したようである。
「ああ、ルフィーナも気にしていたんだな」
「そりゃそうよ。マッシャー団長は決して油断できるような相手じゃ無いわ。尾行されていても不思議じゃ無いわ」
「まぁな、でも今の所は大丈夫だと思うぞ」
シオンの言葉にルフィーナは怪訝な表情を浮かべる。ルフィーナにとってシオンはどんな時でも油断しないという印象だったためにシオンの言葉に違和感を感じたのだ。
ルフィーナの表情を見てシオンは少しだけ口元を緩めた。
「心配するな。何の根拠も無く言ってるわけじゃないよ」
「じゃあその根拠というのを聞かせてよ」
「まずは俺が勇者アルムの弟である事だ」
「どういうこと?」
「つまりな、俺に何の理由も無く手を出すと言う事は兄さんを敵に回すことになる」
シオンの言葉にルフィーナは頷く。ルフィーナにしてもアルムがシオンを大切にしているのは確実だ。そのシオンに手を出すという事はアルムがこの国を見限る事になりかねない。
「それはフィグム王国にとって間違いなく国益に反する事になるだろうな。マッシャー団長はそんな国益に反することはしない」
「他には?」
「もう一つは俺の能力の有効性が不確かなことだ。さっきもマッシャー団長は俺と友好関係を築いた方が良いと言ったろ? あれは逆に言えば俺の能力をきちんと看破したわけでない証拠だ」
シオンの言葉にルフィーナは納得の表情を浮かべる。シオンの偽造の能力は間違いなく軍の関係者としては喉から手が出るほど欲しいものなのは間違いないだろう。
どんな能力であっても偽造して使用する事が出来、しかも一つだけであるがその偽造した能力を使用させる事が出来るのだ。
例えば、『身体能力倍増』のスキルを全兵士に使用すればそれだけで軍の力を一気に撥ね上げることが出来るのだ。そしてこの事でもっとも重要なのは育成期間がいらないという事だ。素人であってもスキルを使用した瞬間から超一流の兵士とすることが出来るのだ。
「確かにマッシャー団長がシオンの能力を看破してれば、あの対応はないわね」
「そういう事だ。マッシャー団長の基本原理はフィグム王国の国益を守る事さ。だからこそ兄さんを敵に回すような対応をとる事は無い」
「シオンの能力を正確に看破したわけでないから取り込むのも中途半端と言う事ね」
「そういう事さ」
シオンはそう言うとニヤリと笑った。
「それじゃあそっちの事は置いといて……ルフィーナが確認したい事ってなんだ?」
「うん。アルムさんはシオンの祝福を知っていたじゃない? と言う事は炎の魔剣が偽造されたものである事に気づいたと考えるのが自然よね。でも炎の魔剣は消えなかったわよ」
「ああ、その事か」
シオンはそう言うとニヤリと再び笑った。妙に嬉しそうなのは種明かしが出来ると言う喜びなのかも知れない。それを察したのだろうルフィーナはやや憮然とした表情を浮かべた。
「一応保険をかけておいたからな」
「保険?」
「ああ、試合が始まる前に俺は兄さんに魔法をかけておいたんだ」
「え?」
シオンの言葉にルフィーナが驚きの声を上げる。あのアルムに魔法をかけておいたと言われれば驚きもすると言うものだ。自分はまったく気づかなかったし、あの場にいるもの全員が魔法をかけた事に気づいた者はいなかったからだ。
「そんなのいつかけたわけ!?」
ルフィーナの驚きの声にシオンは苦笑を浮かべた。今度の苦笑はルフィーナを馬鹿にするもので無く自分の言葉が妙にハードルを上げてしまった事に対する自嘲であった。
「いや、そんなにハードル上げられるとこっちも照れるんだが、魔法といっても俺がかけたのは言葉だよ」
「言葉?」
「ああ、試合が始まる前に『兄さんはずっと味方だよね?』といったら兄さんは『俺はシオンの味方だ』と答えたろ」
「うん」
「俺の能力は敵に見破られたら発動しなくなるけど、味方なら問題ないだろ」
シオンの返答にルフィーナは呆気にとられた表情を浮かべた。ある意味ルフィーナの反応は当たり前だろう。そんな事だけでスキル発動が保障できるというのは肩すかしも良いところだ。
「そんな事で大丈夫なんて……シオンの能力って懐が広いというか、適当というか……」
「そういうな。最悪、炎の魔剣が偽造品とバレてもスキル偽造がバレなければ良かったのに上手くいって良かったよ」
「呆れた……結構、綱渡りだったのね」
「ああ、だが収穫はあった……」
シオンの言う収穫が何を意味しているかをルフィーナは察すると頷いた。
「【超越者】ね?」
「ああ、本当にすごいスキルだよ。兄さんと戦ってそれを痛感したよ」
「確かにそうね。アルムさんが様子見なんかせずにゴリ押しできてたら一分持ちこたえる事は出来なかったんじゃ無いかしら」
ルフィーナの意見にシオンも頷かざるを得ない。アルムはシオンの事を敵と見る事は決してしなかった。むしろシオンの実力を確かめようとしていた節があった。それがシオンとルフィーナが五分持ちこたえる事が出来た最大の理由であったのだ。
「多分だけど兄さんは【超越者】のスキルを持って無くても俺は五分持たせる事は難しかったと思うぞ」
シオンはそう言うと静かに笑う。その笑いはどことなく誇らしげな感情が含まれている事をルフィーナは察した。
(シオンって本当にアルムさんの事を尊敬してるのね)
ルフィーナはそう心の中で呟く。シオンにとってアルムは優しい兄であり、尊敬に値する兄である事は間違いないだろう。
「さて、俺の話はそんなところだ。それじゃあ今度はこっちが聞きたい事がある」
「え?」
ルフィーナの驚きの表情に構わずにシオンは口を開く。
「お前と妹のアルティナの関係だ」




