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勇者との演習⑪

「すごいな」

「ああ」

「これは五分持つのではないか?」

「だがアルム殿の動きはその上を行っているぞ」


 シオンとアルムの攻防を見た騎士達は興奮した様子で話し始めていた。シオンの健闘は彼らにとって希望であると言えた。アルムという勇者の祝福(ギフト)を持たぬ彼らにとってアルムという存在は遠すぎたのだ。

 だが勇者の祝福(ギフト)を持たないシオンの健闘は“俺達もやれるのではないか”という思いを彼らの心にもたらしたと言える。


(ふむ……まさかここまでの実力を持っているとは思ってもみなかったな)


 アーヴィングもまたシオンの実力に内心舌を巻いていた。現時点でシオンに後れを取ることはないだろうが五年先はそう言えないのは確実であった。


(しかし、あの魔剣……炎の魔剣(イフリート)といったな。あんな魔剣をシオン殿は何処で手に入れたのだ?)


 アーヴィングはシオンの持つ剣が気にかかっていた。シオンの言った炎の魔剣(イフリート)は、『オリハルコン』クラスの冒険者であるボルキュスという男が持っていたはずなのだ。

 

(シオン殿……お主は一体……)


 アーヴィングや騎士達同様にイリーナ達も驚いていた。


「すごいわね」

「ああ、さっきのシオン君の突きは凄まじいな。アルムでなければ終わってたろうな」

「でもここからですよ。アルムは様子見だったけどもう様子見は終わったと見た方が良いわ」


 アルムの仲間達は今までの戦いはアルムが様子見をしている事を分かっていたのだ。確かにシオンの実力はずば抜けているのは確実だ。だがアルム相手では分が悪いというのは紛れもない事実であった。



 *  *  *


(なんとまぁ常識外れの実力だ。ここまですごいと嫉妬すらおきないな)


 シオンもまたアルムが様子見をしている事を当然の如く察している。


(ここまで強いとなると、まとも(・・・)な方法では五分持つのは不可能だな)


 シオンはそう判断するとチラリとルフィーナを見やった。シオンの視線を受けたルフィーナも静かに頷く。


(頼むぞ、ルフィーナ……)

(まかせておいて……何とかやってみるわ)


 シオンとルフィーナはアイコンタクトで意思の疎通を行う。正直なところアイコンタクトによる意思疎通が確実なものか客観的にはわからないのだが、この時の二人は不思議と意思疎通が誤っていない事に絶対の自信があったのだ。


「様子見はここまでだ。ここからは本気でいく」


 アルムが静かにシオンに言う。試合の最中というのにアルムの発する雰囲気は限りなく静かであった。さざ波一つ立たない湖面のようだとシオンが思った瞬間にアルムが動いた。


 シオンが気付いたときアルムの斬撃がシオンを襲い、シオンは反射的にアルムの斬撃の軌道に自分の剣を割り込ませることに成功した。


 キィィィィィン!!


 シオンの剣とアルムの剣が激突し澄んだ音を響かせた。


「うぉ!!」


 しかし、シオンは衝撃の全てを受けきることが出来ずにバランスを崩してしまう。そこにアルムが容赦なく追撃を行った。


 足、手、首、胸と斬撃を分散して放たれるとシオンはアルムの攻撃を捌くのに意識の全てを集中する。


 キキキキキキキキィィィィン!!


「ぐ……」


 アルムの嵐のような斬撃をシオンはすべてを捌ききることは出来ずにシオンは左肩、右足に斬撃を受けてしまう。だが、躱しきれなかったとはいえシオンも“身体能力倍増”、“瞬神”で大幅に身体能力を増しているために深手というわけではないが、それでも押され始めたのは間違いなかった。


 そこにルフィーナがアルムの背後に回り込むと斬撃をアルムの背後に放つ。ルフィーナは“気殺”のスキルを発動しており極限まで気配を絶つとアルムの背後に回り込む事に成功したのだ。


(よし!!)


 ルフィーナは背後をとった事で自分の攻撃が入る可能性が高いという算段をつけた。


 だが……ルフィーナの斬撃は空を切ったのである。


(あり得ない……完璧なタイミング、隙を衝いたはず……)


 ルフィーナの背に冷たいものが走った。その理由をルフィーナは本能で察した。アルムが自分の背後にすでに回り込み、自分に斬撃を放とうとしているのだ。


(やられる!!)


 ルフィーナが覚悟を決めた瞬間、シオンもまた動いていた。ルフィーナの背後に回り込んだアルムに向かって間合いを詰めると斬撃をアルムに向けて放ったのだ。


 キィィン!!


 シオンの斬撃はアルムによって防がれてしまう。そして次の瞬間にシオンの腹部に強烈な衝撃が生じた。

 アルムが強烈極まる前蹴りをシオンの腹部に放ったのだ。斬撃を放った直後の硬直したタイミングであった事からシオンはまともにアルムの蹴りを受けてしまったのだ。


「がはぁ!!」


 シオンは数メートルの距離を吹き飛ぶと地面を転がった。幸い戦闘不能になるほどではなかったために即座に立ち上がる事が出来たのだが、ダメージは深刻であった。


(くそ……何てヘマだ)


 シオンは自分の迂闊さに腹が立っていた。あの場合ルフィーナを守るためにはアルムに斬りかかるしか無かった。そうすればアルムはルフィーナへの攻撃を諦めざるを得ないはずである。その判断をシオンは間違いだとは思わない。シオンがヘマしたというのは、その後のアルムの反撃に備えなかった事であった。


(これでいけるか?)


 シオンは剣から炎を放出すると自らの身に纏った。並の使い手であれば纏った炎に躊躇するところであるがアルム相手では気休めにもならないだろう。


「シオン、降参するか?」


 アルムがシオンに問いかける。シオンの打った手が炎を纏うというものであった事にアルムはシオンがもはや勝負は決したと思ったのだ。アルムの実力を考えればシオンの纏った炎など紙同然である。その事がシオンがわかってないとはアルムには思えなかった。

 だがシオンがそれを選択したと言う事は他に手段が無かったという証拠なのだ。


「兄さん、兄さんが降参を求めるのは俺がこの炎を纏ったからだろう? こんなしょぼい手しか残されてないと思ったから勝負は決したと思っているのだろうけど、俺は勝負を捨てたわけじゃ無いよ」


 シオンの言葉にアルムはチラリとルフィーナに視線を向ける。


「まだ勝負は終わってないよ!!」


 シオンはそう言うとアルムに斬りかかった。


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