ルフィーナ①
「あの……冒険者の方ですか?」
シオンがいつものように冒険者ギルドに向かっていると一人の少女が声をかけてきた。
「ん?」
シオンに声をかけてきた子は薄汚れたローブを纏い、フードを頭から被っている。僅かに覗く目の色は青で、まるでサファイアのように美しい。
「そうだけど。何か用?」
シオンは出来るだけ悪感情をもたれないように返答する。シオンは敵には一切容赦しないのだが誰彼構わず攻撃するような事は決してしない。
「あの、私……冒険者になりたくて登録しようと思ってるんです」
少女はしどろもどろになりながらシオンに言う。緊張しているために色々と言葉の使い方が変なのだが、シオンはそこには触れなかった。
(何か猫被っている感じがするんだよな)
シオンは少女の言動に何かしらのわざとらしさを感じていたのだ。もちろんその態度にはシオンへの敵意、殺意など害を与えようとしているものでは無く敵愾心をもたれないように気を付けている感じであった。
(まぁ猫被ってるのは俺も同じか)
シオンは【偽造者】であり自分の能力の正体が知られてしまうと大きく戦力ダウンしてしまうために他者とは一定の距離を保っていたのだ。“この人は信じられる”と思っていても裏切られた経験は一度や二度では無かったのだ。そのためにシオンは他者に対して一定の距離を保つようになっているのである。
「つまり冒険者ギルドに行きたいわけか。いいよ。連れて行ってやる」
「ありがとうございます!!」
シオンの言葉に少女は嬉しそうな声で答える。フードに隠れていたために少女の顔は未だによくわからないが声で何となくかなりの美少女であるという確信がシオンにはあった。
シオンと少女は連れだって冒険者ギルドへの道を歩いて行く。
「そうそう、俺はシオンっていうんだ。君の名は?」
「あ、はい私はルフィーナと言います」
「ルフィーナさんね」
「あ、ルフィーナで良いですよ」
「そう、それじゃあルフィーナと呼ばせてもらうな。年齢もそんなに変わんないみたいだし、そっちもシオンで良いよ。あとついでに敬語はいらないよ」
「あ、はい。いえ、うん」
ルフィーナは慌てて言い直す。ルフィーナなりにシオンとの距離を詰めていこうという現れなのかも知れない。
「シオンは冒険者になって何年なの?」
「俺は一年ぐらいだな」
「へぇ~じゃあ先輩なんだね」
「まぁそんなところだよ」
シオンはにこやかに言う。ルフィーナもまた声を弾ませて返答しており最初に声をかけてきた時よりも短い時間で打ち解けてきた感じであった。
「シオンって冒険者の仕事を一人でやってるんだよね?」
「ああ、基本は一人だな。たまに大規模な仕事の際には一時的に組んだりするけどな」
「なるほど、そういう事も出来るのね」
ルフィーナはシオンの返答にうんうんと頷いた。
「そうそうルフィーナの祝福はなんだ?」
「え?」
シオンの言葉にルフィーナは驚いた声を出す。シオンはその声に感じたのは“恐怖”であった。
(自分の祝福が知られるのが嫌なのか?)
ルフィーナの行動にシオンはかつての自分を見たような感じになる。一年前のシオンも祝福の項目を【剣士】として登録し、一応念の為に『偽装』のスキルで祝福の鑑定が行われる時のために【偽造者】を【剣士】にしていたのだ。
「いやな、冒険者ギルドに登録する際に祝福が何かを記入する項目があるんだよ。まぁ書くだけだしそれが真実かどうかの鑑定も行われないから意味があるか疑問だけどな」
シオンはさりげなく祝福をバカ正直に書く必要はない事を告げる。少しばかり回りくどい感じもするがルフィーナが祝福を知られたくないと思っており、それをシオンが気づいていると言う事を知らせない方が良いと考えたのである。
「え? じゃあ嘘書く人もいることになるわ。それで大丈夫なの?」
ルフィーナはそう返答するが声には少しばかり安堵の感情が含まれているのをシオンは察した。
「ああ、一応の目安という事らしい。仕事の斡旋で例えば【剣士】を探しているとか言うときに声かけやすいみたいだな。だからバカ正直に書くやつもいるし、多少見栄を張るやつもいるというわけさ」
「なるほど」
シオンの言葉にルフィーナは安心した声を出す。祝福の申告は結局の所、自由意思であり、正直に書かなくても良いと言うことを理解したのだろう。
「そうそう、ルフィーナの出身はどこなんだ? 俺は隣国のフィグム王国だ」
「私は“エルメキルス”から来たのよ」
「エルメキルスか。あそこって確か王家が“神族”だったよな?」
「……うん」
ルフィーナの声が僅かに沈んだものとなった。
(あんまり故郷に良い想い出が無いみたいだな)
シオンはルフィーナの反応にまたも自分を重ねてしまう。
「そっか、一旗揚げるために遠いとこまでよく来たな」
「……そう、そうなのよ!! 私ここで名を挙げて故郷に帰るつもりよ」
シオンは明るい声で言うとルフィーナはやけにテンションをあげた口調で返答する。
(ルフィーナも結構訳ありっぽいな)
シオンは心の中でそう思いつつ冒険者ギルドへの道を二人で歩んでいった。
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