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勇者との演習④

「母さん、どうしてここに?」


 エルリアの事を母と呼ぶ少年こそが【大賢者】の祝福(ギフト)を持つヴィアスである事は確実である。

 ヴィアスは黒髪黒眼を持つ少年であり、母親であるエルリアに似ている少年であった。要するにヴィアスは美少年に分類されるような容姿を持つ少年である。


「もちろんヴィアスの様子を見に来たのよ」


 エルリアがヴィアスに向ける視線は慈愛に満ちており、母子(おやこ)の関係が良好であるかどうかを周囲に知らせていた。


「はは、心配しなくてもちゃんとやってるよ。だよなアルム?」


 ヴィアスは苦笑いを浮かべつつアルムに問いかけるとアルムはニッコリと笑って頷くとエルリアに向けて言う。


「ええ、ヴィアスはしっかりとやっています。魔術だけでなく体術の方も最近はメキメキと実力をあげていまして、熟練の騎士であっても後れを取ることはありません」


 アルムの返答にヴィアスは嬉しそうに顔を綻ばせた。母親の前で大いに面目を保つ事が出来た事が嬉しいのだろう。


「それで母さん、そっちの二人は?」


 ヴィアスはシオンとルフィーナに視線を移してエルリアに問いかける。この場で面識のないのはシオンとルフィーナだけなので当然の問いかけと言えるだろう。


「シオン君とルフィーナさんは私が王都に来るまで護衛してくださった冒険者の方々よ」

「そしてシオンは俺の弟だ」

「私のお姉様よ」

「へ?」


 エルリアに続いてアルムとアルティナが関係性を捕捉する。ヴィアスとすれば中々濃い情報提供である。ここまで関係者が勢揃いするなどそうそうあるものでは無いからだ。そのためにヴィアスの口から呆けたような声が出るのも仕方のない事なのかも知れない。


「え~と、シオン君とルフィーナさんは冒険者で母さんをここまで護衛してくれた……と、それからシオン君はアルムの弟でルフィーナさんはアルティナ様の姉さんと……何というかすごい偶然ですね」


 ヴィアスの言葉に全員の中に苦笑めいた表情が浮かぶ。ここまで偶然が重なるというのは中々ない事だ。


「まぁ、エルリアさんを助けたのは本当に偶然でしたけどね。エルリアさんの息子さんが【大賢者】の祝福(ギフト)を持っているという事でしたので一緒にここまでやってこようと思ったんですよ」


 そこにシオンがサラリと言ったシオンの言葉にヴィアスは僅かばかり目を細める。シオンの“エルリアを助けた”という言葉が気になったのだ。


「母さんを助けた……? 何があったんだい?」


 ヴィアスの問いかけにシオンは躊躇うことなく返答する。ウソをつく理由が何一つ無いために当然の事である。


「エルリアさんをオインツ伯という貴族が闇ギルドの連中を雇って誘拐しようとしたのを俺達が助けたんですよ」

「な……」

「闇ギルドの連中の話だと、エルリアさんを人質にすることであなたを傀儡にして何かしらさせたかったみたいですよ」

「へぇ……そういうことするんだな……貴族というやつらは」


 ヴィアスの口から隠しきれない侮蔑の感情が発せられた。


「ヴィアス、安心しろ。俺もイリーナもアルティナも今回の事は決して他人事じゃない。手は打たせてもらう」

「どんな手を打つ?」


 アルムの言葉にヴィアスはさらに目を細める。


「簡単だ。オインツ伯の関係者は保護の対象外である事を宣言する」

「?」


 アルムの返答に全員が意味が分からないという表情を浮かべる。その表情を見たアルムは説明の必要性にかられたようであった。


「つまりな。俺達が保護の対象外であると宣言することで当然ながらその理由を問われるだろう?」

「ああ」

「その時にエルリアさんを誘拐しようとした事を理由としてあげるつもりだ」


 アルムの言葉にヴィアスは訝しがるような視線を向けた。


「しかしそんな事で本当に手を打った事になるのか?」


 ヴィアスの言葉にアルムはニヤリと嗤って頷く。


「ああ、貴族というのは人気商売という面があるのは否定できない。それに俺が宣言するのは何も貴族階級だけに向けてじゃないよ」

「他に誰に向けるつもりだ?」

「商人だ」


 アルムの言葉にヴィアスは納得の表情が浮かび始めた。


「なるほど……事実上の締め付けだな」

「ああ、商人も俺達と(よしみ)を結びたいだろうしな。オインツ伯と商売をする事は関係者と見なされる可能性があるから控えるようになるさ」

「兄さんちょっと待ってくれ」


 アルムとヴィアスの会話にシオンが割り込んだ。会話に割り込んだのだが二人は特段気にした様子も無い。


「どうした?」

「兄さんは【勇者】なんだろう。保護の対象外とか宣言して大丈夫なのか?」


 シオンの心配は当然である。勇者というのは巨悪の脅威から人々を守る事だ。その勇者が保護の対象外を宣言すると言う事は勇者の職務放棄と捉えられかねない。もしアルムを引きずり落とそうという者がいればそこを利用する事が見え透いていたのだ。


「問題無い」

「でも……」


 シオンがアルムに心配事を告げようとしたのを片手を上げて制止する。アルムの表情はシオンの心配の内容をきちんと理解していると言わんばかりだ。


「シオン、俺は人類の奴隷じゃないぞ。誰彼かまわず助けるつもりは一切無い」


 アルムの宣言にアルムの仲間達に視線を走らせるが全員がアルムの言葉に否定的な意見はないようであった。


「何でもかんでも助けると人はそれを当たり前の様に思うようになる。俺達に助けてもらう事が当然と思えばそのうち攻撃しだす」

「攻撃?」

「ああ、助けてもらえることが当然だと思うようになれば助けてもらえなかった事に対して攻撃するようになるさ」


 アルムの言葉をシオンは否定する事は出来ない。それはシオンも思っていた事だったからだ。


「俺は基本的に救いたい、助けたい者しか助けない。助けてもらう者にも資格(・・)が必要だ」


 アルムの言葉は強烈な決意を含んでいるようにシオンには思われた。人によってはそれを非難する者もいるだろうが、そのような非難でアルム達が怯むことは無さそうであった。


「シオン、どんな強大な力を持とうと限界はあると言うことを意識しておかないと余計なものをしょいこみ苦しむことになる」

「確かにそうだね」

「それにここで甘い対応をすれば次はシオンやルフィーナさんが狙われることになる。世の中には温情と甘さの区別のつかない者がいる。アホの勘違いにこちらが配慮してやるつもりはないね」


 アルムはそう言うとニヤリと嗤う。


(兄さんは勇者としてみなに扱われているが決して浮き足立っていない)


 シオンはアルムの事をそう結論づけた。そしてそれが何よりも誇らしかった。


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