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勇者との演習③

 アルムの弟自慢は十分程続きシオン以外のアルムを見る目は非常に生暖かいものとなっている。ちなみにシオンは仲間達の前で延々と兄に自慢されるという羞恥プレイにかなりメンタルがやられていた。

 もちろんシオンはアルムの事を尊敬しているし大好きだが、アルムの弟自慢は確実に身内びいきが過ぎるというものであったのだ。


 いつ終わるとも知れない羞恥プレイにシオンのメンタルがゴリゴリと削られている時にシオンに救いの手がついに訪れた。

 その救いの手とは先程アルムの要望を伝えに行った騎士である。騎士の表情を見るとニコニコとしているために許可が下りたのだろう。


「お待たせいたしました。アルム様、許可が下りましたのでどうぞお入りください」

「ありがとうございます!!」


 アルムは嬉しそうに騎士に御礼を言うとシオン達も続けて頭を下げた。シオン達にしてみれば自分達のために動いてくれた方に御礼を言うのは当然すぎる事だ。“仕事だから”という理由で礼の一つもしないというのはシオン達にとって単なる無礼者でしかない。


悪食(イベルジスト)のみんなはきちんと罪を償うようにな」


 アルムはここで悪食(イベルジスト)達に悪意のまったく無い声で言う。アルムの目を見て悪食(イベルジスト)の面々は顔を凍らせた。アルムの目は限りなく冷たい事に気づいたのである。

 アルムは情けをかけるべき相手とそうでない相手をきちんと分けている。アルムは自分の能力には限界があり全ての人を救うことができるわけではない事を知っているのだ。これはシオンが両親からの虐待から結果として守れなかった経験からくるものであった。


「それではこの方々の事をよろしくお願いします」

「お任せ下さい」


 話を聞いていた騎士が右手を胸に当て一礼する。それは騎士の正式な礼である。これはアルムが騎士の礼を受けるに足る立場と人物である事を示している。

 悪食(イベルジスト)の面々は顔に不安の色を浮かべているが逆らうような事はしない。暴れても逃げ切れるわけ無いし、自分達の立場を悪くするだけである事を知っているのだ。


「それじゃあ、行こう」


 アルムはシオン達に言うと歩き出した。しばらく歩いてアルムがシオンに囁きかけた。


「勝手に話を進めて済まないな」


 アルムの謝罪にシオンは慌てて首を横に振る。


「いや、俺が言うよりも兄さんの方から伝えた方が上手くいくよ。それにこの件に兄さんが関わっていると知らせるのにはそっちの方が良いよ」

「お、その辺の機微をわかるようになったか」

「まぁね。俺も家を出て一年遊んでいたわけじゃないよ」

「……そうだったな」


 シオンの言葉にアルムはややほろ苦い表情を浮かべた。シオンを守り切れなかった事に対するほろ苦い想い出が蘇ったのだ。


「兄さん、そんな顔しないでくれ。俺の一年は決して辛いことばかりじゃなかったんだから」

「そうだな。辛いことばかりなわけないもんな」

「うん」


 アルムとシオンは和やかな雰囲気で言葉を交わす。そこでシオンは表情を引き締めてアルムに言う。


「兄さん、あいつら(・・・・)はどうしてる?」


 シオンの言うあいつらとは自分達の両親の事であるのは明らかである。それを察したアルムの表情は一気に険しいものになる。


「あいつらとは縁を切った。もう二度と会うつもりは無い」

「え?」

「ようやくお前を引き取る事が出来るようになったから、お前を引き取りに行ったんだ」


 アルムの言葉をシオンは黙って聞いている。


「そしたらお前はすでに家を出ていた。それで俺は事情を察したよ。それで俺は奴等と縁を切った」


 アルムの声には忌ま忌ましさが溢れている。それを聞いたシオンはアルムと両親の間でどのようなやり取りが行われたかある程度予測がついてしまう。


(あいつらは俺の事を悪し様に罵ったんだろうな)


 シオンからすればあの二人は両親の位置づけではないためにどのように言われても心に響くことはない。シオンの中であの二人は完全に無かった事になっているのだ。


「まぁ、あの不愉快な連中はどうでも良いか」

「だな」


 シオンの言葉にアルムもあっさりと答える。


「母さん!!」


 そこに黒髪黒眼の少年が驚いた顔を浮かべながらこちらに駆けてくるのが見えた。

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