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勇者との演習①

「さてと……場が収まったから自己紹介といきましょう。私の名はイリーナ=フェンベットよ」


 場を収めたイリーナはシオンを見るとにっこりと微笑んだ。イリーナのニッコリとした笑顔は誰もが見惚れるような美しいものだ。イリーナは金色の髪に碧い瞳、目鼻立ちはとてつもなく整っており、透き通るような白い肌にはシミ一つない。スタイルの方も出るべき所は出て、引っ込むべき所は引っ込むという世の人々の理想を体現したような容姿だ。髪をかき上げた時に長い耳がシオンの目に入る。


「あ、シオンと言います。兄がお世話になっています」

「うんうん。よろしくねシオン君」


 シオンが名乗るとイリーナは嬉しそうに返答する。その笑顔に見惚れながらシオンはイリーナに質問する。


「あの……あなたはエルフなんですか?」

「うん、そうよ。このフィグム王国の北側にあるフィズグアト王国出身のエルフよ」


 シオンの質問に対してイリーナは即座に返答する。


「フィズグアト王国と言えば確かエルフの国でしたね」

「うん。小さい国だけど良い国よ」


 イリーナの言葉にシオンは苦笑する。フィズグアド王国は確かに領土的には大きな国家ではないが魔術国家として近隣諸国に一目も二目もおかれている国家である。

 エルフの寿命は凄まじく長く、それに加えて研究熱心な種族である。エルフの研究意欲が向かうのは魔術であり、そのために魔術の研究が盛んなのである。


「あ、私はルフィーナと言います。妹のアルティナがお世話になっています」


 ルフィーナがイリーナに頭を下げる。先程のやりとりを考えれば気まずいことこの上ないのだが、そういう事を言っている場合ではないのだ。


「うん。ルフィーナちゃんはよっぽどアルティナが大事なのね。良かったわねアルティナ。あなたはお姉さんにここまで大事に思われてるのよ」

「うん、でへへへ♪」


 アルティナはイリーナの言葉に思い切り表情を緩ませるとルフィーナに抱きついた。アルティナの行動にルフィーナの表情も緩む。

 この辺りのイリーナは見事にアメとムチを使い分けており何となく動物の調教師を思わせる。


「初めまして俺はアルムと言います。シオンがお世話になっています」


 次いでアルムが頭を下げる。それを見てルフィーナはバツが悪そうな表情を浮かべた。いくら妹が二股かけられているという勘違いをして頭に血が上ったとは言えやった事はどう考えても勇者を襲うなどフィグム王国に対する挑戦に等しい犯罪行為である。


「あ、先程は本当に申し訳ありませんでした」


 ルフィーナが改めて謝罪するとアルムは笑って答える。


「いえ、誤解が解けて何よりです」


 アルムの言葉にルフィーナは恥じ入るばかりである。そして今度はアルティナがルフィーナから離れ頭をぴょこんと下げて言う。


「あのアルティナと言います。先程はどうも申し訳ありませんでした」


 アルティナの謝罪にシオンもまた笑って返す。


「いや、いいよ。誤解が解けた以上蒸し返してもしょうがないからね」

「ありがとうございます」


 アルティナの謝罪にシオンもそう返す。実際に謝罪した以上、それに対して許容するというのも人間の器というものである。その意味ではアルムもシオンも狭量ではないということである。


「シオン、そちらの人達は?」


 アルムがシオンに尋ねるとエルリアはアルム達に一礼すると口を開いた。


「初めまして、私はエルリアと言います。シオン君とルフィーナさんには本当にお世話になりました」


 エルリアの自己紹介にアルム達は一礼する。そして、シオンがそのまま捕捉説明を行った。


「エルリアさんは兄さんの友達のヴィアスという人のお母さんだよ」

「ヴィアスのお母さん?」


 アルムの驚きの声にシオンはそのまま続ける。


「うん、実はエルリアさんはオインツ伯に狙われててね。俺達がここまで連れてきたんだ」

「狙われてる? どういうことだ?」


 シオンの言葉にアルムだけでなくイリーナ、アルティアも驚いた様である。さすがに貴族に狙われているというのはただ事ではない。


「ヴィアスという人は【大賢者】の祝福(ギフト)を持っているんだろう? そして兄さんの友人……オインツ伯はどうやらエルリアさんを自分の手元に置くことで息子さんを脅すつもりだったらしい」

「ほう……」

「脅して何を要求させるつもりか知らないけど碌な事は考えてないんじゃないかな」

「確かにな。ヴィアスは母親思いだから有効な手段だろうな」


 忌々しげにアルムが言う。イリーナ、アルティアの方もアルムと同様の気持ちらしい。


「出来ればヴィアスさんと連絡を取って欲しいんだ。 エルリアさんはこのままだとどんな目に遭うかわからない」

「了解した。ヴィアスも俺達と一緒に住んでいるからな今日中に引き合わせることが出来ると思う」

「良かったよ。これで一安心だ」


 シオンの喜びの声にアルムは嬉しそうな表情を浮かべた。


「それでそちらの人達は?」


 次いでアルムは悪食(イベルジスト)の面々に視線を向けた。その視線に悪食(イベルジスト)の面々は一気に緊張の度合いを高めた。シオンの言葉次第で自分達の今後が決まるという思いであったのだ。


「こいつらは悪食(イベルジスト)という闇ギルドの者達です。先程いったようにエルリアさん達を攫うためにオインツ伯が雇ったんです」

「何だと?」


 シオンの返答は悪食(イベルジスト)達にとって最悪レベルの返答であったのは間違いないだろう。


「実際に俺達も襲われたのだけど、何とか退けることが出来たよ」

「ほう……つまりそいつらは俺達に喧嘩を売ったというわけだな」

「ひぃい!!」


 アルムの体から凄まじいとしか表現出来ない殺気が発せられた。まともにその殺気を叩きつけられた悪食(イベルジスト)の面々は腰を抜かしその場にへたり込んだ。すでにシオン達によって心が折れているところに、さらにアルムの殺気に当てられてしまった悪食(イベルジスト)にしてみれば散々な展開と言えるだろう。


「シオン、ルフィーナさん、エルリアさんとうちのメンバーの家族に害をもたらすか……良い度胸だ。さっさと剣を抜け」

「ひぃぃぃ」


 アルムの剣を抜け発言に悪食(イベルジスト)達は震え上がった。


「兄さん、大丈夫だよ。すでにこいつらは俺達の支配下にあるんだ」

「ん?」

「俺の術で逆らえないようにしてるんだ」


 シオンの言葉にアルムは“ほう”という表情を浮かべた。


「もし、俺達に危害を加えた場合にはこいつらに仕込んだ術が発動してこいつらは死ぬ。命が惜しくない限り俺達には逆らえない」


 シオンの言葉にアルムは悪食(イベルジスト)に視線を移すと悪食(イベルジスト)の面々は何度も頷いた。


「そうか。だが犯罪者を連れていれば間違いなくシオンも官憲にマークされることになるぞ」


 アルムの言葉に今度はシオンが頷かざるを得ない。悪食(イベルジスト)はオインツ伯の依頼を受けてエルリアを誘拐しようとしたのは事実であり、すでにハーテンビスに伝えているので無かった事には出来ない。


「うん、こちらとしてはこいつらに法の裁きを受けさせるのは当然なんだけど、その後の事なんだ」

「その後?」

「うん、せっかく配下の者が出来たのだからこっちとしては有効に使いたいんだ」


 シオンの言葉を聞いてアルムは少し考え込んだ。


「つまり、こいつらを引き取りたいと言う事か? 一応言っておくが俺は法に介入することは出来ないぞ」

「あ、やっぱり無理か……しょうがないな。お前達とはここでお別れだな。これから裁判を受けて死刑かきつい、きつい懲役刑になるだろうな。短い付き合いだったな。さようならだ」


 シオンはあっさりとした表情と声で悪食(イベルジスト)達に言う。


「まぁ待てって、あっさりと切り捨てるなよ」


 アルムが苦笑混じりに言うとシオンは首を傾げる。シオンにしてみればもはや詰んだという状況だし、悪食(イベルジスト)に好意など皆無のため、むしろ官権に引き渡し報奨金を得ようと思っていたところである。


「そいつらは使い途があるのだろう?」

「冒険者稼業だからね。使い途は色々さ」

「そうか。ダメ元で国王様に頼んでみるかな」


 アルムはそう言うとシオンは嬉しそうな表情を浮かべた。


「ありがとう兄さん!!」

「おう。お前の兄さんは国王様に会う事の出来る男なんだぞ」


 アルムはそう言うと胸を張った。冗談めかした言い方ではあるがアルムの影響力の大きさがわかるというものである。


「アルム、そろそろ行かないと」


 そこにイリーナが声をかける。イリーナの言葉にアルムは思い出したような表情を浮かべた。


「そうだった……。シオン、ルフィーナさん、エルリアさんも一緒に来るか?」

「一緒にって何処に行くのさ?」

「騎士団の演習場さ」


 アルムの言葉にシオンは即座に頷いた。

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