炎上と鎮火
ルフィーナはアルムに飛びかかりアルムに目打ちを放つ。ルフィーナの目打ちは貫手と違い目を抉ることを目的とするのでは無く、手首をしならせ放つというものであり一瞬の隙をつくるためのものだ。
パシィィ!!
ルフィーナの目打ちをアルムは手で払う。
(やるわね)
ルフィーナは続けて目打ちを放つ。それをアルムはまたも手で打ち払った。二発の目打ちを外された瞬間にルフィーナは下段蹴りを放つ。二発の目打ちを放ってからの即座の下段蹴りであり躱すのは困難を極めるものである。
シュン!!
ルフィーナの下段蹴りは空気を斬り裂くほどの速度で放たれたものであったがアルムはそれを後ろに跳んで躱した。
「さすがは勇者様ね……でもアルティナを傷付けるものは誰であっても許さないわ」
「だから俺とアルティナはそんなんじゃないって!!」
アルムの言葉を受けてルフィーナが次の攻撃を放とうと動こうとしたときにルフィーナを背後からシオンが羽交い締めにした。
「ちょ、シオン離しなさいよ!!」
「だからお前は兄さんの言葉をきちんと聞けって!!」
二人のやり取りにアルムは動きを止めた。シオンがルフィーナを止めてくれることを期待したのは確実である。もちろんアルムの実力であればルフィーナに敗れると言う事はないのだろうがそれでもルフィーナの実力は決して侮るべきもので無い事は確実だ。
「ちょっとそこの男!! お姉様から離れなさい!!」
そこにアルティナが大音量で叫ぶ。ルフィーナを羽交い締めにするシオンに対して敵意を越えて殺意を叩きつけてきていた。
その殺気は門の守る騎士達がこちらに駆けだしてきたのだがアルティナが放つ殺気の為につい立ち止まってしまったほどである。
「お姉様から離れろと言ってるでしょう!!」
アルティナの足元に魔法陣が浮かび上がると光を放つ。放たれた光はアルティナを包み込んだ。
アルティナの体を包み込んだ光は純白の鎧へと変わり、手には自分の身長を超えた槍を手にしている。
「お、おい。アルティナ」
「待ちなさい!! アルティナ!!」
アルムとイリーナの制止を聞かずにアルティナはシオンに飛びかかった。
「へ?」
シオンの口から事態を飲み込めてないような声が発せられたが殺意が過剰に込められた一撃に体が考える前に動く。
シオンはルフィーナを突き飛ばし自分から離れさせるとアルティナの槍の一撃を剣で受け止めた。
「お姉様を突き飛ばすなんて良い度胸ね!!」
「お前が斬りかかってきたからだろうが!! ルフィーナにあたったらどうするんだよ!!」
「私がお姉様を傷付けるなんてそんな下手を打つわけないでしょう!!」
「お前何言ってんの!? バカなのか!?」
突如始まったシオンとアルティナの戦いに今度は二人以外が呆然となった。
「大体美の化身であるお姉様に人間であるあんたが触れるなんてそんな事が許されると思ってんの!?」
アルティナは槍を振り抜くとシオンを弾き飛ばしそのまま槍を再び大上段からシオンに叩きつける。
キィィィィン
アルティナの一撃をシオンは剣で受け止める。そのままアルティナとシオンは鍔迫り合いの形になる。
「ちょっと待ってアルティナ、シオンは私のパートナーよ。やめてちょうだい!!」
「え? パートナー?」
ルフィーナの言葉にアルティナは呆気にとられた表情を浮かべる。少しばかり力が緩んだためにこれで誤解が解けると思ったのだがそこから凄まじい力で押さえつけにかかってきた。
「そう……パートナー……そんなの認めるかぁぁぁぁ!!お姉様は私が守るの!! あんたなんかお呼びじゃないのよ!!」
アルティナはそう言うとさらに力を込めてきた。
(おいおい、なんだこの力……というか聖女ってこんななのか?)
シオンはアルティナの膂力の凄まじさに内心舌を巻いていた。シオンのイメージの中では聖女とは奥ゆかしいイメージだったのだがここまで猛々しいとは思っていなかったのだ。
パァァァン!!
そこにイリーナがアルティナの頭をはたいた。
「いい加減にしなさい!! その子はアルムの弟よ」
「だって……」
「だっても何もないでしょ!! いきなり襲いかかるなんて何考えてるの!!」
イリーナの剣幕にアルティナはしゅんとなる。アルティナが槍を引いたところで今度はイリーナはルフィーナに視線を向けると厳しい口調で言い放った。
「あなたもよ。貴女の中でどう考えたのかは大体察してるけどそれでもいきなり襲いかかるなんてないんじゃない?」
「う……」
「大体、アルムは違うと主張したでしょう。それなのに話も聞かないなんていくら何でも酷すぎるでしょう」
イリーナの言葉にシオンとアルムも尤もだという風に頷く。その様子にルフィーナもアルティナも少しばかり頭が冷えてきたのだろう。小さくなった。
「まったく……勇者であるアルムに襲いかかるなんてあなた本来なら捕まってもおかしくないわよ」
イリーナはやや大きな声で言い放った。それはシオン達と言うよりも騎士達に向けての言葉である事をシオン達は察した。
「いい? きちんと聞きなさい!! アルムに恋人はいない。私もアルティナもアルムと付き合ってはいない。理解した?」
イリーナはルフィーナに言うとルフィーナはコクコクと頷いた。イリーナの剣幕に完全にのされていたのである。
「それでシオン君でいいのかしら?」
「あ、はい」
「あなたはそちらの女の子とどんな関係なの?」
「俺とルフィーナは冒険者なんですがコンビを組んでいるんです」
「そのコンビというのには恋人であるとイコールで考えて良いの?」
イリーナの“恋人”という単語にアルティナからすこしばかり殺気が放たれるがイリーナが即座に視線を移すとすぐに殺気が収まった。
「いえ、便宜上恋人と言う事になっていますが実際はそうではありません」
「なんで便宜上なの?」
素直に告げたシオンの返答にイリーナは首を傾げながら尋ねる。
「見ての通りルフィーナは美人ですからね。俺と恋人であるとした方が寄ってくる連中が減ると思いまして恋人という事にしてるんです」
「なるほどね」
イリーナはルフィーナを見て納得の表情を浮かべるとため息をつきながら言う。
「それじゃあ、互いの誤解も解けたと言う事だしすべき事はわかるわよね?」
イリーナはそう言うとルフィーナとアルティナに向けニッコリと微笑んだ。
「はい……申し訳ありませんでした」
「はい……ごめんなさい」
ルフィーナとアルティナがそれぞれ襲いかかった二人に謝罪をするとシオンとアルムも即座に頭を縦に降ると同時に口を開いた。
「あ、はい。今度から気を付けてくれれば良いよ」
「うん。誤解も解けたようで良かった良かった」
シオンとアルムはやや引きつった笑顔を浮かべて言う。笑顔が引きつったのはイリーナがシオンとアルムの顔を一瞥したからである。
「さて、これで解決ね。お互いの誤解からだったけど事なきを得たという事で大丈夫よね?」
イリーナの言葉にシオン、ルフィーナ、アルム、アルティナの四人は頷いた。それを見てイリーナはにっこりと笑うと騎士達に視線を移して言う。
「というわけです。誤解が解けましたのでこの件はこれで終わりです。お騒がせしてしまい申し訳ありませんでした」
「あ、はい」
イリーナの言葉に騎士の一人はゴクリと喉をならして返答する。
こうして取りあえず騒動は収まったのであった。




