兄との再会⑳
翌日、シオン達は朝食を早い時間にとるとすぐに出発する事になった。
道案内を命じられたイーブス達は反抗する事も無く唯々諾々とシオン達に従い案内をする。
(こっちは王城の近く……と言う事は兄さんの家は貴族の邸宅の区画にあるというわけか)
シオンはイーブス達に連れられアルムの家がある場所を推測する。王都の住居の中でも貴族の邸宅が建ち並ぶ区画の方に向かって行っている事に気づいたのだ。
「ねぇ、シオン」
「なんだ?」
「あなたのお兄さんは貴族と同格、もしくは準ずる扱いを受けていると考えるべきかも知れないわね」
「いや、ひょっとしたら貴族以上の扱いを受けているのかもしれない」
シオンの言葉にやや誇らしげな感情が含まれているのをルフィーナは察した。話に聞いているようにシオンは兄アルムの事を尊敬しているようである。
「う~ん、凄い屋敷ばかりね」
ルフィーナの言葉にシオンとエルリアが頷く。イーブス達の案内に従って進んでいると凄まじい広さの屋敷がいくつもある区画に入り込んだ。どの屋敷の門にも兵士が四人で警護をしているのがわかる。
「ああ、ここって多分だけど高位貴族の屋敷の立ち並ぶ区画なんだろうな」
「勇者ってここまでの扱いを受けるのね」
「逆に言えばそれだけ責任が重いと言う事だろうな」
「なりたくないわね」
「同感だ」
シオンとルフィーナは会話をそう締めくくった。この区画に居を構えるという事はそれだけ勇者に対する期待と責任が重いことを示している。シオンもルフィーナもそのような祝福により人生を歪められたと言って良いだろう。だが逆方向にアルムやヴィアスもまた人生を歪められたと言って良いだろう。
(祝福がなければ人はどのように自分の人生を選択するのだろうな……)
シオンはそう思わずにいられない。シオンは祝福とは何なのかという疑問が自分の中でどんどん大きくなっているのを感じていた。
「ん?」
シオン達の行く先の門で数人が立っているのが見えた。人数は少年と少女、そして門を警護する騎士達が四人である。
少年の腕を少女が掴んで引っ張っていこうとしており、騎士達は苦笑を浮かべて二人のやり取りを見ている。
シオンは腕を引かれている少年の顔を見て声を発する。少年はシオンの兄であるアルム、手を引いている少女はイリーナだったのだ。
「に、兄さん……」
シオンの口から発せられた言葉にルフィーナの視線はアルムへと向かう。
「あれがシオンのお兄さんなの?」
「ああ、間違いない。兄さんだ」
シオンの声に喜びが満ちる。久しぶりに兄の姿を見て嬉しくなったのは間違いない。
「え?」
次いでルフィーナの口から呆けた声が発せられた。門の所に新たな少女が現れたからだ。
「ど、どうしてアルティナがここに……?」
「アルティナ……確かルフィーナの……」
「そう妹よ……シオンのお兄さんの家から出てきた……? まさか……」
ルフィーナの言葉に呆然とした響きがあった。ルフィーナの声からあまり良い想像をしていないのは確実だ。
「あらあら、ひょっとして修羅場なのかしら?」
エルリアが頬に指を当てて考え込む仕草をしながら発した言葉にルフィーナがビシリと凍り付いた。
「ふ、ふふふ……そう勇者様はモテるわね。でもよりによって私の妹と二股をかけるなんてやってくれるじゃない」
「え?」
「いくらシオンのお兄さんとはいっても只で済むなんて思わないで欲しいわね」
ルフィーナの目から光が失われるとさりげなく腰に差した双剣に手を伸ばし始めた。それを見てシオンは咄嗟にルフィーナを羽交い締めにする。
「シオン、何すんのよ離しなさい!! あのサイテー男斬り刻んでやるわ!!」
「落ち着けって!! 兄さんが二股なんかするわけ無いだろ!! ちゃんと事情を確認しろって!!」
「何言ってるのよ!! アルティナの口から決定的な言葉が発せられたらどうするのよ!!」
「だから落ち着けって!! お前シスコンだったのかよ!!」
「うっさいわね。アルティナは私の天使なの!! 穢れちゃいけないのよ!! アルティナに纏わり付く虫は私が追い払うの!!」
突如始まったシオンとルフィーナのやり取りを悪食は呆然と見ていた。
かなりシオンとルフィーナのやり取りが大きかったのだろう。アルム達もシオン達に気づいたようであった。アルムが驚きの表情を浮かべ、それからすぐに喜びの表情へと変わりこちらに駆けだした。
そしてアルティナもルフィーナを見たのだろう。驚きから喜びの表情へと変わりアルムに続いた。
そして、アルムの手を引いていたイリーナも驚きの表情を浮かべるとこちらに向かって駆け出したのだ。
「シオン!! シオンなのか!!」
アルムは満面の笑みを浮かべてシオンに駆け寄ってくる。
「お姉様~♪」
アルティナもルフィーナに嬉しそうな表情を浮かべて駆けてくる。
「二人とも待ってよ!!」
そしてイリーナがそう声を発して駆けてきた。
「シオン、離しなさい。あのサイテー男只じゃおかないわ!!」
「だから落ち着けって!!」
ルフィーナは懐の木札を割りシオンから受け取ったスキルを発動させた。そのスキルは“身体能力倍増”であった。ルフィーナは力を一瞬抜きそれから即座に力を爆発させた。
「うぉ!!」
身体能力倍増のスキルによる力の爆発にシオンによる拘束は見事に弾けとんだ。
「でぇい!!」
ルフィーナは駆け寄ってきたアルムに身体能力を倍増させた突きを放つ。凄まじい速度で放たれた正拳突きをアルムは辛うじて躱した。
「何すんだよ!! お前誰だ!!」
「うっさい最低男!! アルティナとそっちの女の子と二股かけるなんて良い度胸じゃ無い!!」
「は?」
ルフィーナの言葉にアルムが呆けた声を出し、アルティナとイリーナも同様に呆けた表情を浮かべた。
「ちょ、ちょっと待て!! 俺はイリーナとアルティナと二股なんかかけてないぞ!!」
「問答無用!!」
ルフィーナはアルムに飛びかかった。
ルフィーナ……どうしてこうなった……まぁいいや行っちゃえという感じです。




